↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/99

二十九話

時は午前中に遡る。第一回戦第四試合。佐竹彰の初戦である運の悪いことに初戦で当たったのが優勝候補になっている三年生の柳隆太であった。


一等特尉の階級を持ち、ヤタガラスにおいて分隊長を務める猛者大悟の一人息子の隆太は大志と同様に幼いころから訓練をしてきた。柳一刀流を学ぶことで心身を鍛えてきた隆太からすると彰は生意気な後輩であり、将来部下になる可能性もある人物である。


父の上官であった仙崎先生に頼まれたとあっては全力で取り組む必要がある。大志とは顔見知りだし、あの大河さんの息子とあっては幾ら歳上だとしても大志の事は対等だと思っている。最初の頃は、話しかけても緊張しているのか二言、三言しか喋らない大志であったが、今では兄の様に慕ってくれている。実際に任官して働いた訳ではないが、訓練の過酷さと報われなさは理解しているつもりである。PKOから帰ってきた父は普段から饒舌というわけではないが長年付き添ってきた母ですら会話をするのに躊躇うような刀の様な鋭さがあった。


一週間もすると落ち着いて守秘義務に反しない範囲で体験を語ってくれた。駐屯地に敵対勢力が襲撃を行ってきたとの知らせを聞いて急行し、反撃を行ってみると、射殺した大半は少年兵でありノーマルの子供だった。テロなどて真っ先に死ぬのは将来があるはずである少年・少女からだった。生まれた国が違うというだけで大人達の戦争に若い命が消費されていく。時には見せしめの公開処刑としてまた時には殺傷することに対しての抵抗感を無くすために行われる。貧しいものはより貧しく一部の特権階級のみが富を得られる仕組みが出来上がってしまっている。本人の努力次第で人の数倍の生涯年収を得られるものもいるが極僅かだ。


民主国家に生まれ理不尽な死を与えられることがないだけ充分、幸せなのだと悟ったらしい。ギフトホルダーの多くは国のためまた家族のために必死になって働いている。自分達の子や孫の世代に平和な日本を引き渡す為に努力した結果が今であり未来への希望になるのだ。日本人は他の習慣や宗教を積極的に取り入れて独自の文化を形成してきた。差別がないわけではない。特定の宗教に属さず年明けには神道の行事である初詣にクリスマスとバレンタインデーにはキリスト教の行事を祝う。


恋人や思い人にチョコレートを贈る習慣は欧州にはない。俗説では聖ウァレンティヌスが処刑された日であり、軍の中で結婚禁止令がでていたが反対したのが聖ウァレンティヌスあったため恋人達の日として日本で受け入れられる様になっただけである。モテない男子からはお菓子メーカーの企業戦略だと訴えるものもいるが、事実である側面も否定はできない。


隆太は彰が幾ら身体強化ができ、射撃のギフトを持っていようが問題はないと考えていた。例え彰がどんな種目を選んでも圧倒できるだけの実力とそれに応えるだけの訓練を積んで来た。大志は学校ではシングルホルダーを装っており、実力を隠しているが、誰もが大河の息子なら当たり前だと思っている。


励ましあいながら訓練をしてきた隆太だけは誤解しないでありのままの大志を見てやれているのだと思う。最近、話をすると話題になるのは、苺の事だったり、実継のことだったりする。二人はちゃんと大志と友人関係を築けているらしく、安心した。


その分なにかと大志に絡んでくる彰を教育する必要がでてきた訳だ。これは試合であってあくまでも健全なものだ。言っては何だが、本質を見抜こうとしないだけあって周囲から少し浮き初めているらしい。仙崎先生も彰の才能を潰したくなく、大志と相容れぬのであれば、陸自での配属は行わない予定らしい。


どうなるかは分からないが大志が大河さんの後を継ぐのは既定路線だろう。後輩を導くのも先輩の仕事だし、自衛官は階級がものを言う世界だが新任三等特尉より先任三曹の方が軍内での発言力をもっているのは当たり前である。


力が劣る者を見下すのではなく、能力を信頼し共に目標に向かっていくのに階級は関係ないことを理解させなくてはならない。大志の方も同じ一年生でありながら少し助長していた村中をギフトを封印して打ち破った。であるなら兄弟子である自分が大志に無様な所を見せることができる訳もない。勝つなら圧倒的にそして大志と本気で戦うことで彰に考える切っ掛けとなればいい。


種目はライフゼロを選択されたが、挑発的な行動にでる下級生にお灸を据えてやらなければならない。試合は勿論、隆太が勝った。二回戦も歳上の五年生が相手であったが戦闘が得意なタイプではなかったのか接近戦に持ち込んで降参させた。


出場生徒の安全の為に、三十分から一時間のインターバルが空くようになっているが、暇を持て余さないように現役隊員による演武や模擬戦が行われるのは毎年のことであり、人気の原因ともなっている。午後一の試合のため食べ過ぎは体の動きを阻害するため食事を抑え腹ごしらえもきちんと行っておく。次は油断が出来ない相手だ。


シングルホルダーと偽っているため本気の戦いが出来ないかもしれないが幼年学校レベルの戦いではないだろう。試合ならぬ死合に近いものになるはずだ。大会のルールに則って戦うが時任校長も見応えのある戦いになることは間違いない。次は待ちに待った大志との一戦である。大志が何の種目を選択するか分からないが最初から全力でいく、上級生に対しても封印してきた柳流柔術を使うことになるだろう。柳一刀流は相手の力を受け流し攻撃する柔剣であるが無手になったことを想定し、戦場で編み出された闘術である父が師範をしており代々、直系の男子が継いできた。大志も習っており相手の技を読み切ることはできるがこちらの技も簡単には決まらないだろう。


静かに闘志を燃やし次の試合に向けて準備をし始める隆太である。一方、要に捕まった大志は説教を受けていた。


「要さん。上級生との戦いで油断し、思わぬ攻撃に逆上して殺気を出したのは自分で対戦相手にも謝罪しましたし、反省もしています」


「大志。油断をするなと大河と一緒に口を酸っぱくして教えてきたし、戦場では何が起こるか誰にもわからん。大河と源三さんの説得がなければこの目も見えないままのはずだったのは知っているだろう?」


自爆テロのことは大河から知らされており、退官を決意したときの要の表情を忘れることはできないだろう。遺体として収容された少女は爆弾により、手足が吹き飛び、見るも無惨な状況だったのだ。


部隊を護れたからといって直ぐに次とはいかなかった。その状況にならないと本当の意味で人は理解出来ないというのは真実だろう。想像できることは現実に起こりうることだと言ったものがいるが想像は実際に起こらない限りはないのと同じで現実となって初めて意味があるものだ。


「要さんの当時の心境は似た境遇にあったものにしか本当の意味で理解はできないでしょう。ただ父や祖父がそうであった様に理解しようとしてくれる人間は必ずいるはずです。」


そうなのだ。失意のどん底にあった要を励ましたのは激務に追われ暇がないはずの大河と源三であった。妻の説得も要の心に届くことはなかったのだ。離婚することなく今の夫婦生活を続けているのはやはり一般会社の妻となるのではなく自衛隊員の妻になるという覚悟があったからだと後に妻は語った。


「確かにな。理解してくれる人間がいるのは事実だがまた理解されないということも現実だ」


「木野さんが誘拐されたときにまず上司に掛け合った。あの時点で迅速に行動できていれば、木野さんは長い検査生活を送らないで済むだろうし、接触時間が短かったことから公安の要監視リストにはいることもないだろう。」


「要さん。まだ林檎さんのことは結果が出ていないはずですよ。最悪を想定するのも必要ですが、希望を与えるのも指揮官として重要なことだと教えてくれたのは要さんじゃないですか」


「まだあの少女のことを気にしていたのかもしれないな。とにかく米田さんに対して殺気を出したのはやりすぎだ。次は隆太が相手だが勝てる見込みはあるのか?」


苦笑する大志。勝てる見込みがあるのかと聞かれればはっきり言ってない。父と入学の際に約束したことはシングルホルダーとして活躍することは大河の息子だからと周囲が勝手に納得するが必要以上に自分のギフトを他人に分からない様にすることであった。ただでさえリスクを負っているのにこれ以上、周囲に迷惑をかけることは国に保護されるという立場である以上は自粛しろということだ。


隆太は本気で戦えることを期待しているはずだが、本気で戦いたいのであれば、自衛隊駐屯地にある訓練上や都内に幾つかあるヤタガラスの修練場を借りて戦えばいい。大志は使い勝手の良い【身体強化】のシングルホルダーとして政府登録されているため、学校でもそのように振る舞ってきた。他のギフトを発現させる時には周囲に分からないようにしていた。機械的には検知されているはずだが、例えば彰の様に【身体強化】と【射撃】のギフトを持っていたとしても機械は彰がギフトを発現したことを感知することはできるが身体強化を発現したのか、射撃を発現したのかは分からず、個人の特定しかできない。


「制限された中では隆太くんには勝てませんよ。隆太くんと大悟さんが持つギフトはそこまで甘くはないですよ。」


「とにかく全力でやれ。ただし大河との約束は破るなよ」


次の試合の準備に時間が必要になるだろうと考えて早めに説教を終わらす要であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。