二十章 僕と紫音≒盲目
「いやー、やっぱり三人で登校できるっていいね~!」
浩二が 外人部隊に紛れていたほうが似合いそうな彫りの深い顔と体格、そしてポニーテールの髪をなびかせながらしみじみと語った。
「本当、また三人で学校に行けるなんて夢みたい」
春香も、今まで通い慣れた学校。
そして、翔威と一緒にいられる事を心底喜んでいたようだ。
その証拠に、今日は朝から頬が緩みっぱなしなのが周囲にバレバレ状態で、翔威にとっては微笑ましかった。
が……決して人に言えない悩みも抱えてしまっていた。
「……俺は、結構大変なんだけどな」
春香のピーカンの笑顔とは対照的に俺の心に日は差していない。
春香がまた同じ学校に通うようになったのはうれしいのだが……、そもそも春香一家は 北海道 に引っ越す筈だったよね?
その答えはというと、両親は無事に北海道でカニを食べているだろう。
じゃあ、春香は今どこに住んでいるのかって?
ハハハ……俺の、狭い ボロアパートに居候してます。
えっ?居候じゃ無くて、同棲じゃんかって?
確かに春香はそう思ってるっぽいんだけど。
大体ねぇ、シフエが再来襲した時に単独で居ると危ないって言う理由なので、 やましい気持ちはありません(多分、きっと……)
「なんでぇ~、すっごく楽しいよ~!」
おいおい、 炊事洗濯その他諸々を誰がやってると思ってやがる!
ゴロゴロしてお菓子ばっかり食ってないで、少しは手伝いやがれってんだ――――!!
って、まあ春香が側に居てくれるんだから、まっいいか。
(って、単なるオノロケかいっ!)
「そう言えば、紫音今日から 来るっぽいね」
朝一から、あまり聞きたくない ソースを『 こいつ』は……。
チラッと、隣の春香の反応を見ると、紫音と言うキーワードに過敏に反応したようで、今まで晴天だった表情が曇天に暗転している……。
「おっはよ~!翔威、浩二!」
その後方から浴びせられる聞き覚えのある元気な声に三人が一斉に振り返る。
すると、こちらに向かって髪の長い少女がうさぎのように飛び跳ねながら近づいて来た。
「もう退院したのか、相変わらず『 人ならざる回復力』じゃんかよ」
「まあ、こいつは殺しても死なね~様に出来てるからね」
翔威も浩二も、退院したばかりの女の子にかける言葉としては相応しくない様な気もするが……。
「なんで私は無視なのよっ!!」
名前を呼ばれなかった春香が、顔を真っ赤にして中指を立て憤慨しているようだ。
それを、『やれやれ』といった顔で見ていた翔威は、そんなに過剰反応するから紫音が面白がって突っかかってくるんだよ、と軽く首を左右に振りながら『口パク』で呟く。
「あれ~? 春香は北海道に行った筈よね? って事は、これは生き霊? それとも デイドリーム?」
春香を見ようともせず、空を見上げながら右手人差し指を顎に当てて『良く分かんな』い的な演技がかったポーズで毒を吐く紫音。
なぜに、こう火に油を注ごうとするかねえ、と思うのだが。
まあ、俺の知っている限り春香の毒舌に互角に(やや劣性か?)渡り合える無二無三の存在だから、お互い楽しんでいるのかも(?)俺には理解できんけど。
「なあんですって~!私は翔威と駆け落ちしたから北海道には行かなかったのよっっ!!」
そこだけ時間が止まったかの様に紫音の動きが止まる。
どうやら『駆け落ち』と言うキーワードに過剰反応しているようだが。
そしてロボットの様に『ギギギ』といった擬音が似会いそうな首の動きで春香に振り向いた。
「……あ、あら病み上がりで耳の調子が悪いのかしら、なんか幻聴が聞こえるのよね」
とぼけた態度に業を煮やした春香が、有りっ丈の声を張り上げた。
「翔威と駆け落ちしたのっ!!!」
登校途中の生徒が一斉に春香を注目する。
そして、俺は右手で顔を覆い、深くなが~い溜息をついた。
◇ ◇ ◇
授業中は二人の怪獣(猛獣?)も静かで平和だなあ(しみじみ)
ちなみに俺と、春香、浩二、紫音は同じクラスだったりする。
紫音は中学からの友人なんだけど、なぜか春香をライバル視していて(類は友を呼ぶ?)事ある毎に噛みついている。
性格に関しては今朝の一件から分かる様に、元気、うるさい、性悪、負けず嫌いである。
色気の無い(春香も同様だが)中身とは裏腹に、見た目はなかなかの美少女振りで、綺麗な顔立ちは春香の上を行く程(春香は綺麗と言うより可愛い)
日本人形の様な腰まである黒髪、深い闇の様な黒い瞳、見てくれだけの雰囲気ならば、是非とも巫女さんの格好を頼みたくなる、と言った感じである。
しかし……こう、なんというか……胸がぺったんこで、更に幼児体型な所が色々な意味で非常に残念な気がする(性格を含め一部マニア向け)
あと、小ネタではあるが先日まで入院していた理由は、車に轢かれそうになった子供を助ける為に自分が轢かれたから。
困っている者、弱者を見ると助けずにはいられない。
根っこ部分に『弱きを助け強きを挫く』理論で武装した心を持つ、 正義キャラなのだった。
まあ、こいつの退院で俺の日常は更に騒がしい事になるのは確実だな……フゥ。
◇ ◇ ◇
本日の授業も終わり、部活に 勤しむ学生の声がグラウンドに響いている。
翔威と、その他三名は帰宅部なので家路を仲良く(?)歩いていた、のだが……。
「駆け落ちしたって、どういう事よ?」
前を歩いている春香に向かってハゲ鷹の如く鋭い視線を撃ち込む。
こいつは学内で駆け落ち話を持ちだすのは。さすがにマズイと思ったらしく放課後まで疑問を持ち越したようだ。
「言葉どうりの意味よ、同棲もしてるしねぇ~。ハハァン♪」
振り向きもせず、どこか小馬鹿に、そして勝ち誇った様に紫音に宣言する。
「……いちいち腹の立つ女ね。ちょっと翔威、この傲慢女の言ってる事って 妄想癖かなんか?」
う~ん、どうしてこうなった?春香には今回の経緯が駆け落ちでは無く、誘拐阻止だったって説明したよな?
説明したと思う……いや、絶対したハズだっ!。
なのに? なぜに? どういうこったい?
ってか、今は駆け落ちの 釈明を考えなきゃいけないじゃんか!
お、落ち着いて選択肢を――――。
バシッ!
後頭部への重い衝撃を感じると共に視界がぶれる、と同時にヨロケ気味に前へ一歩踏み出していた。
俺は、紫音の質問に対して思った以上に固まっていたらしい。
そして、しびれを切らした紫音が俺の後頭部を後ろ回し蹴りで撃破していた。
「……ちょっと、私の話を聞いてなかったの?」
何気に『てめえ、ぶっ殺されてえのか』的な殺意が背中に突き刺さる。
「駆け落ちとか同棲とか、そんな事無いと思うけどね。大体にして翔威にそんな甲斐性があるとは思えないしね」
浩二は助け舟のつもりだろうが、実に 棘のある物言いだな。
甲斐性うんぬんに弁解しようとは思わんが、なんか釈然としないなあ。
「ま、まあ……よくよく考えれば、こんな粗忽で野蛮で色気の無い女と暮らしても何のメリットも無いもんね」
顔を微妙に引きつらせつつ、自分を納得させている様なセリフを吐く紫音。
「粗忽とは何よ! あんた みたいにぺったんこの胸の奴に言われたくないわよ!」
「な……、む、胸は関係無いでしょ!」
論点が脱線しまくり……。
これじゃあ、ただの罵り合いにしかなってないじゃんか。
しゃ―ね―な、俺が両者間の防護壁になるしかないか。
全くもって、やれやれだな。
「あのな紫音、春香は訳あって北海道に行くのが少し遅れる事になったんだよ。そして、それまでの間一人暮らしじゃ何かと不安だから俺の所に居候してるだけだよ」
どんな事情であれ、発情期真っ盛りの男女が一つ屋根の下で暮らすなんて、普通じゃ無いよなぁ。
う~ん、我ながら苦しい 言い訳だ……。
「本当に、それだけ?」
「それ以上も、それ以下も無いよ」
「……分かった、翔威がそう言うなら信じる」
あれ? やけにあっさりと引き下がるんだな。
てっきり、言葉の暴力の反撃があると踏んだんだが……。
こんなに素直に――――、もしかして……事故の時に頭を強打したのか?
「ただし、一つ条件がある。この女に貞操帯の着用を要求する」
……また、訳分からん事を こいつは。
もう俺の扱いって、盛り時の動物とイコールなんだ…シクシク。
そもそも貞操帯って、中世ヨーロッパ時代の遺物じゃんか。
今使ってたら、違う意味での変態プレイじゃんかよ! 俺にそんな 性癖は無い!
と言いつつ、ベロチューと言う単語に妙に反応してしまうのはなぜだろう?(全く関係無い話でスマン)
「え~、その訴えは却下します」
「翔威の意見は要らないの、黙ってて!」
「あの~、俺ってそんなに信用無いんでしょうか?」
「 あんたじゃ無くって、 あの女が誘惑しそうだって言ってるの!」
紫音は仁王立ちで 冷眼を俺に向けながら春香への不信をぶつける。
完璧に本気モード突入ですね、紫音さんは。
もう、俺の手に負える気がしないじゃんか……。
ん? 春香の様子がちょい変? 顔を真っ赤にしてどうしたんだろ??
「し…し……翔威は、 私の体が目当てなの!!」
――――って、おいおい、言いきっちゃたよ!
しかも俺の意見は無視だし、この場の雰囲気は凍っちゃてるし、紫音なんか気絶してるんじゃね―のか?
「う~ん、それを全否定するのは難しいかもね~」
…… おまえ、もう助け舟にさえなってねえじゃんかよ。
これって、一体どう収拾したら良いのか?
良い考えも思いつかないので、また次回。




