十八章 僕と狼煙=インコンプリート
もう、どのくらいの時が経ったのか、自分には分からなかった。
どうやら俺は、ずっと部屋の片隅でうずくまっていたようだ。
「……こんな所で、何をなさっているのですか?」
誰も居なかった筈の部屋に響いた声の主。
それはジニスだった。
「・・・・・・・・・」
その問いかけに返答は帰ってこない。
「今回は攻撃系おまけ能力の紹介に参りました」
うずくまっていた翔威がゆくりと顔を上げた。
そして、その視線がジニスを模索する。
「……攻撃系」
「興味が湧きましたか?」
「…聞かせろ」
◇ ◇ ◇
その時、自分が誘拐される事を悟った春香は、右手を翔威に差し伸べ悲痛な叫びを上げた。
「翔威! 助けて!!」
その時、俺の左腕から力が抜けた、と同時に右手に拳銃(ベレッタM92F)が具現化した。
そして、シフエに銃口を向け、躊躇う事無く引き金を引いた。
「パパパン、パパパン!」
銃声が部屋内に轟いた。
「きゃっ!」
春香が短い悲鳴を上げ、耳を塞いだ。
「なんで、てめえがマテリアライズ ウエポンを―――――」
シフエは銃弾を、得体の知れない移動(?)系能力で間一髪交わしていた。
「外したか…、それなら、こいつでどうだ」
そう言った翔威の右手から拳銃が消え、自動小銃(MP40)が現れた。
そして、左腕を垂らしたまま、右腕でシフエに狙いを付ける。
「おい、おい、おい、尋常じゃあねえな」
シフエが眉を顰めながら翔威を睨みつける。
「そんな事ねえよ、至ってメディアンだよ」
「タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ、タ!」
自動小銃は軽快なリズムを刻んだ。
◇ ◇ ◇
「攻撃系能力だと?」
今、俺の使える能力には攻撃系が無い。
『それ』が手に入れば、もしかしたらシフエを返り討ちにできるのか?
「もし、よければ説明しましょうか?」
「…今すぐ教えろ」
俺はゆっくりと立ち上がり、ジニスを正面に見据えた。
「簡単に言いますと、武器を具現化する能力です」
「具現化って…?」
「頭に思い描いた武器を『右手』に具現化するのです」
概念はなんとなく分かるけど。いまいちイメージが掴みづらいな。
「で、どうすればいい?」
「そうですね、まずはあなたの知っている武器を、一つ思い描いて下さい」
いきなり武器ったってなぁ… 昔、浩二とサバイバルゲームやってたから多少の知識はあるけど。
拳銃ならベレッタのM92Fとか。
「…うぉっ、何だ?左腕が!?」
突然、自分の意思に反し、力無く垂れ下がる左腕。
と同時に、いつも間にか右手にはM92Fが握られていた。
「言い忘れてましたが、武器を具現化する代償として左腕の自由が奪われます」
冷静に怖い事言ってんじゃね~よ、そんな代償ならハナッから受け入れないっつうの!
ましてや、そういう事は先に言うもんじゃんか!
「ええ~! って何? 未来永劫俺の左腕は動かないってか!?」
感情を何処かに忘れたかの様なジニスが捕足する。
「言葉が足りないようでしたね『具現化している間だけ』ですよ。さらに補足いたしますと、投擲系の武器は例外で、例えばトマホーク(投擲斧)などは具現化された段階で代償は解かれます。
そっかそっか、具現化を解くと戻るのね。
全く驚かせるんじゃねえよ。
ただ、これって右手で扱える武器に限定されるって事だな。
「注意事項として一つ、あなたが思い描けるなら、扱える、扱え無いに関係なく核ミサイルや生物兵器なども具現化できます。くれぐれも使い道を誤らないように」
うわっ、これって結構、怖い系の能力だったのね。
あと一つ疑問が……。
「おまえが、何で此処にいるんだ?」
こいつが、此処に来たタイミングが気に入らないじゃんか。
まるで、俺がシフエに敵わなかったのを見てたかのような…。
「あなた様が、寂しがっているのではないかと心配になりまして」
いや、絶対に嘘っぱちだね! なぜにこいつが俺の心配をするんじゃい!
一体、何を隠してやがるんだ、こいつは。