第16話 魔石の採掘が始まる
鉱山の調査から、数日が経った。
今日は、いよいよ試験採掘の日だ。
私は再び、北部の鉱山へ来ていた。
「補強は終わっています」
ピエールが坑道の入口を確認しながら報告する。
「崩落の危険がある場所には、支柱を追加しました」
「ありがとうございます」
私は坑道の奥を見る。
先日の調査で見つかった高品質の魔石。
あれが、この鉱山に眠る魔石のすべてなのか。
それとも。
まだ奥に続いているのか。
今日、それを少しだけ確かめる。
「本当に少しだけなんですね」
私が尋ねると、鉱夫の一人が頷いた。
「はい。いきなり大規模な採掘をするのは危険です」
「まずは、どの程度の鉱脈なのか確認します」
「分かりました」
私は頷いた。
焦る必要はない。
魔石が一つ見つかった。
それだけで、鉱山全体に価値があると決めつけるわけにはいかない。
だからこそ。
小さく始める。
◇
坑道の中へ入る。
先日のように、騎士たちが周囲を警戒している。
その少し前を、鉱夫たちが歩いていた。
「この辺りから始めます」
一人の鉱夫が壁を指差した。
「先日の魔石が見つかった場所に近いですね」
「はい」
鉱夫が壁を確認する。
「魔力の流れも、ここなら比較的安定しています」
「では、お願いします」
「分かりました」
鉱夫たちが作業を始める。
金属音が坑道に響いた。
カン。
カン。
少しずつ岩を削っていく。
私は、その様子を黙って見ていた。
ゲームでは。
この鉱山が発見される場面も、採掘が始まる場面も、もっと簡単に描かれていた。
魔石が見つかる。
領地の収入が増える。
商人が集まる。
そして領地が発展する。
けれど。
現実は違う。
岩を一つ削るだけでも、人の手が必要になる。
安全を確認する人がいる。
採掘する人がいる。
運ぶ人がいる。
売る人も必要になる。
そして。
もし事故が起きれば、人の命が失われる。
「……簡単じゃないですね」
思わず呟いた。
「何がですか?」
隣にいたアントワーヌが尋ねる。
「鉱山です」
私は坑道を見回す。
「ゲームでは、もっと簡単に考えていました」
「ゲーム?」
「……いえ」
私は慌てて首を振る。
「何でもありません」
「そうですか」
アントワーヌは、それ以上聞かなかった。
少しして。
「ですが」
「はい?」
「簡単ではないからこそ、慎重に進めるべきなのでしょう」
アントワーヌは採掘現場を見る。
「マルグリット嬢が先ほど言っていたように」
小さく頷く。
「小さく始めて、確認してから次へ進む」
「はい」
「それなら、私も安心できます」
私は少しだけ驚いた。
「アントワーヌ様も、心配してくださっていたんですか?」
「当然です」
あまりにも自然に答えられて。
私は返す言葉を失った。
「……ありがとうございます」
「いえ」
アントワーヌは前を向いた。
けれど。
私はなぜか、少しだけ嬉しかった。
◇
「ありました!」
突然、鉱夫の声が響いた。
「魔石です!」
「え?」
私は慌てて振り返る。
鉱夫が壁の一部を指していた。
そこには。
小さな青白い光が見えている。
「……本当に」
私は近づく。
「これは先日のものと同じですか?」
「品質はかなり近いですね」
鉱夫が慎重に周囲を確認する。
「ただ、大きさはそれほどありません」
「なるほど」
ピエールが頷く。
「一つ目ほど大きくはない、と」
「はい」
鉱夫はさらに周囲を調べる。
「……もう少しあります」
「え?」
「こちらにも」
別の鉱夫が声を上げた。
壁の奥から、もう一つ。
さらに少し離れた場所から、もう一つ。
「三つ……」
私は思わず呟いた。
「いくつか見つかりましたね」
ピエールが言う。
「はい」
私は頷いた。
けれど。
すぐに気持ちを引き締める。
「ただし」
「はい?」
「まだ、この鉱山に大規模な鉱脈があると決まったわけではありません」
ピエールが頷く。
「その通りです」
「見つかった場所が、たまたま集中している可能性もあります」
「さらに調査が必要ですね」
「はい」
私は魔石を見る。
青白い光。
ゲームで何度も見た光景。
けれど。
今、私の目の前にあるものは。
ゲームの画面ではない。
本物の魔石だ。
それを採掘しているのも。
目の前にいる鉱夫たちだ。
そして。
この鉱山をどうするのか決めるのは、私たち自身だ。
◇
採掘作業は、その後もしばらく続いた。
最終的に見つかった魔石は、全部で五つ。
先日の大きな魔石を合わせれば、六つになる。
「これだけ見つかれば、期待はできますね」
ピエールが魔石を確認する。
「はい」
私は頷いた。
「ですが、まだ判断するには早いです」
「そうですね」
ピエールも頷いた。
「もう少し調査を続けて、鉱脈の規模を確認しましょう」
「お願いします」
「承知しました」
ピエールが頷く。
私は魔石を見る。
確かに、少しだけ可能性が見えてきた。
けれど。
まだ何も決まっていない。
農業も。
水路も。
そして、この鉱山も。
一つずつ確かめていくしかない。
「マルグリット嬢」
「はい?」
アントワーヌが声をかけてきた。
「そろそろ戻りましょう」
「……そうですね」
私は頷いた。
鉱山を振り返る。
まだ何も分からない。
どれだけの魔石が眠っているのか。
この鉱山が、本当に領地を変えるほどの価値を持つのか。
それは、これから調べていかなければならない。
けれど。
可能性があることだけは分かった。
「……少しずつでいい」
私は小さく呟いた。
「一つずつ、確かめていきましょう」
隣でアントワーヌが頷いた。
「はい」
その声を聞きながら。
私はもう一度、青白い魔石を見た。
まだ、小さな一歩。
けれど。
確かに。
この領地の未来は、少しずつ動き始めていた。




