5.メルトロー侯爵邸②
「本当にクラウディオに似てるわ」
正面のソファに座るシンリーが目を潤ませてリーリエを見ている。
その横に座る夫であるメルトロー前侯爵は優しく妻の背を摩っている。
ニコラスが言ってた通り、かわいい息子を誑かした女の娘だって、疎まれてる訳ではないらしいことに少しほっとする。
「リーリエさんはクラウディオ、お父さんのことは全く覚えてないの?」
シンリーはハンカチで目を押さえてながら、尋ねた。
「母から物心つく前に亡くなったと聞かされただけで。すみません。それ以上のことは何も分からなくて」
息子に生きていて欲しかっただろうと分かるだけに、何か話してあげられることがあればよかったんだけど…
「ごめんなさいね。責めてる訳じゃないのよ。あの子のことは何年も音沙汰がなかったから、半分諦めていたの。もう二度と会うことができないだろうって…」
元気だった息子の姿を思い出しているのか、苦い表情を浮かべた。
気まずい空気が漂う中、ジョルジュがそれを振り払うかのように笑顔を浮かべた。
「でも、こうしてクラウディオの子どものリーリエさんに会えて、とても嬉しいよ」
シンリーも夫の言葉に同意して、優しく微笑んだ。
「そうね。わたしたちには他にも孫はいるけど、男ばかりだから、リーリエさんとはいっぱいおしゃべりしたいわ。ねぇ、リーリエって呼んでもいいかしら?」
シンリーが期待に満ちた目でリーリエを見ている。
「もちろんです。そう呼んでもらえたら、親しくなれたみたいで嬉しいです」
喜んでリーリエがそう答えると、シンリーは嬉しそうに目を細めた。
「では、わたしもそう呼ばせてもらおうかな。ところで、リーリエは希少な聖属性の持ち主らしいね。もうすぐ魔法学院に入学することになるけど、準備はできてるのかな?」
「はい、大体は終わってます。周りが貴族の方ばかりで、みんな勉強ができて、魔法の基礎知識もあるのかと思うと、それが不安ではありますけど、今更、仕方ないですよね」
魔法が使えるようになるのは、ワクワクするけど、学校での諸々を考えること、嫌な予感しかしない。
ついつい行きたくないなーという顔になってしまう。
「それは確かにそうだな。貴族の子たちは大体小さな内から家庭教師に魔法や勉強を学んでるからな」
ジョルジュはそう言ってから気づいたように、ハッとした顔をした。
「魔法はともかく、リーリエは文字の読み書き、計算なんかは大丈夫なのか?」
少し言いにくそうにリーリエを見た。
「それはなんとか。最低限のことは母が教えてくれたので」
普通の人は家庭教師なんて雇えないから、そっからなんだよな。
魔力検査を魔法学院の入学直前に実施してるのって、本当に平民のこと分かってないわー。
もしかして、一年後に入学しろってことなのかしら。
「そう、クロエさんはしっかりしたお母さんだったのね。でも、不安なら、入学前に少しだけでもやっておく?よかったら、うちから教えてくれる人を派遣するわ」
シンリーが明るい顔で、それがいいわと手を叩いた。
「え!?でも、そんなご迷惑をおかけする訳には!本当に読み書き計算はちゃんとできますから、お気遣いなく!」
ちょっと不安を口にしただけなのに、今すぐにでも手配しそうな勢いに、慌てて断る。
貴族の家庭教師なんて、勉強以前にこっちが気を遣って疲れそうよ!
「でも、不安なのよね。わたしたちの孫娘なんだから、これくらい当然のことよ。今まで何もしてあげられなかったんだから、出来ることはやってあげたいわ」
「でも…」
シンリーに切々と訴えられて、口籠った隙に押し切られてしまった。
こんにちは。少し遠い目をしているリーリエです。
明日から早速、教会に家庭教師がやってくるそうです。
とても不安です。




