番外編 優しい世界(レオナルドside)前編
いつも応援ありがとうございます!大変お待たせいたしました。本編では描ききれなかった「レオナルド視点」の番外編をお届けします。こちらは【前編】となります。【後編】も同時に投稿しておりますので、ぜひ続けてお楽しみください!
「レオナルドをわたくしの専属護衛騎士にしてくださいませ」
その時は王女のアイリーンのたった一言によって、今までの努力が水泡に帰してしまったと目の前が真っ暗になった。
俺はハルティ侯爵家の子息ではあったが、ハルティ侯爵が市井に囲っていた平民女性の息子だ。
実母は八歳の時に亡くなり、侯爵家に引き取られて育てられたが、義母は子供に無関心な人だったので、虐げられることはなかったのは救いだった。
とはいえ、父も俺のことは、嫡男のスペアくらいの興味しかなく、使用人たちもよそよそしい。
血筋を重んじる貴族の中で、平民の妾腹だと揶揄されることは日常茶飯事、かと言って平民からしてみれば、鼻持ちならない貴族と同じ。
どこにいても、確かな居場所がなく、不安定だった。
氷属性の魔力があったが、本妻の息子より魔力が多かったらしく、魔法を使うと異母兄に凄い目で睨まれる。
それが分かってからは、なるべく魔法は使わないようになって、今でも魔力の制御が苦手なままだ。
魔法学院を卒業後はハルティ侯爵家から離れるために騎士団に入ることにした。
身分関係なく共に鍛錬し、実力がものを言う世界は俺に合っていて、いつしか尊敬する王太子アルバート殿下の専属護衛騎士になることが目標となった。
漸く、念願のアルバート殿下の専属護衛騎士となって、一週間ほど経った時、アルバート殿下の護衛の為に側に控えていた俺に目をつけて、自分の専属護衛に欲しいと言ったのがアイリーン王女だ。
アイリーン王女はアルバート殿下の妹なのだが、一年後には隣国のセルロー王国の王太子に輿入れすることが決まっている。
それなのに、アイリーン王女は俺の行く先々に現れ、ねっとりとした視線を送ってくる。
ハルティ侯爵が執着したほどの美しい容姿をもっていた母親に似ている俺は、女性からそういう目で見られることに辟易していた。
見た目だけで寄ってくる女など、碌なものじゃない。
無表情で断りの言葉を言うだけで逃げて行くのだが、その後には平民の妾腹のくせに身の程知らずだの、傲慢だのと言いふらされる。
そんなことは痛くも痒くもないが…
アイリーン王女はなまじ王女なだけに扱いが難しい。
専属護衛などになったら、常に側に控えていなければならず、あのねっとりとした視線を向けられるのは憂鬱でしかない。
アイリーン殿下の護衛に着くように言われるのではないかと、戦々恐々として、呼ばれた執務室に入ると、アルバート殿下は書類から目を上げた。
なぜか、ライハート殿下がソフィアに座っていて、向かいの席に座るように促される。
「市井に聖属性の魔力を持つ少女が見つかったんだ。魔力も桁違いで、国としては、希少な魔力を持つ彼女を保護したいと思っている。そこで…」
ライハート殿下からの思ってもいなかった話に思わずアルバート殿下とライハート殿下の顔を見比べる。
「悪いが、その少女の護衛についてもらいたい」
アルバート殿下の発言に言葉が詰まる。
「それは…」
アルバート殿下の専属護衛騎士を解任されるということか…
落胆の表情を隠すことができない。
「あぁ、これはアイリーンが輿入れするまでの一時的なものだよ。レオナルドはアイリーンの目の届かないところにいた方がいいから」
アルバート殿下は慌てて付け加えたあと、アイリーン王女の様子を思い出したのか、苦々しい顔になる。
「セルロー王国は特に女性の不貞には厳しい国だ。万が一にも、アイリーンが結婚前に不貞したなんてことになったら、大変なことになるからね。レオナルドのことは信頼してるが、噂になるだけでも、避けておきたいんだ」
ため息を吐いて、米神を押さえる。
「その少女が魔力検査した時、虹色の光が教会の中に溢れたと噂が広がっている。いつ何時良からぬ者に攫われるか分からないんだ。貴族の娘なら護衛くらいいるのだろうが、生憎その少女は平民で既に両親も亡くしている。誰かが護る必要があるんだ。兄上の専属になったばかりで申し訳ないけど、護衛を頼めないかな?」
恐らく少女の件を任されているライハート殿下がじっとこちらを見つめた。
俺がこの護衛を引き受ければ、アイリーン王女から引き離すと同時に希少な聖属性の魔力保持者も護ることもできる。
確かに一番丸く収まり、効率的だ。
「分かりました。その話、受けさせていただきます」
少女の護衛というのは、引っかかるところだが、一時的なものだし、アイリーン王女の護衛に比べれば、マシだろうと引き受けることにした。
「よし!これでパティの希望が叶った」
俺が部屋を出た瞬間、ライハート殿下が小さくガッツポーズを決めていることなど知るよしもなかった。
孤児院の男の子たちに剣術を教えながら、チラリとリーリエを見遣った。
リーリエは楽しそうに子どもたちに本を読んでいる。
子どもたちの明るい声の響くこの空間は、なんだかとても居心地がいい。
母が亡くなってから、こんなにも心が落ち着くのは初めてかもしれない。
「婚約者とか恋人はいるんですか?」
初っ端にそう訊いてきたから、最初は警戒していたが、彼女が向けてくる視線に全く熱はないことが直ぐに分かった。
十五歳という、まだ親の庇護下にあってもおかしくない年齢だが、食堂で働いて自活していたらしい。
そのせいか、しっかりしているようにも見えるのだが、どこか抜けたとこがあって、少し危なっかしくもある。
そして、驚くことに、リーリエはメルトロー侯爵の血縁だったのだ。
ドットラン男爵が自分の子だと言い出した時は、あまりに似てないので、ライハート殿下に連絡を取ったが、リーリエはちゃっかり神官長を味方につけ、すぐに本当の父親を探し出していた。
「リーリエには言ってないんだが、リーリエをメルトロー侯爵家の籍に入れた。詳しいことは今は話せないが、狙われる可能性があることだけは頭に入れておいてくれ」
リーリエに内緒でこっそり俺に会いに来たメルトロー前侯爵は難しい顔をしてそう言うと、メガネをテーブルの上に置いた。
「これをどうにかしてリーリエに掛けさせてくれ。このメガネは軽い認識阻害の効果がある。素顔を見たことのない者なら、彼女の容姿は平凡に見えるようになってる」
お世辞にもおしゃれとは言いがたい大きなダサいメガネで、小さな顔のリーリエに似合うとも思えない。
だが、その必要性はよく分かる。
あの人目を引く、あまりにもキレイな顔。
その上、貴重な聖属性持ちだ。
権謀術数の渦巻く貴族社会に放り出せば、どんな不届き者が彼女を狙って手を伸ばしてくるか分かったものではない。
自分の容姿が厄介な男を引き寄せると分かっているのかいないのか、学院に入る前に伊達メガネを欲しがっていたので、丁度よかった。
そして本人は瞳の色が変わっているだけの効果だと思っている。
実際はその何倍もする高価な認識阻害の効果を付与してあるのは、本人には言わない方がいいだろう。
瞳の色が変わる高価な魔道具だと分かった時、一瞬、返した方がいいか逡巡していたから。
ある時、生徒会メンバーと街歩きをすると言い出した。
まだ学院が始まってそれほど経っていない。
なぜそんなメンバー(王子とか公爵令嬢とか普通なら中々お近づきにもなれないはずの人々)と同行?
生徒会に入った?あの学院主要メンバーが集まる生徒会に?
聖属性持ちとはいえ、表向きは平民の平凡な容姿の少女なはずだ。なぞ過ぎる。
あの認識阻害のデカださメガネは効果はないのか?
疑問を持ったまま、当日護衛をしていて驚いた。
ガルレン侯爵の息子がリーリエにやたらと構っていたのだ。
たまたまなのか、狙ってなのか、いや、あれは狙って顔を近づけたに違いない。
思わず、手のひらを強く握り込んだ。
他の男を近づけたくない!
気がつくと、手の中には氷の塊ができていた。
パラパラとそれを下に落とすのを、ライハート殿下の護衛たちがギョッとしたような目で見ていたが、気にする余裕はない。
モヤモヤした気持ちを抱えたままだったところに、リーリエに走ってきた子どもがぶつかってしまった。
倒れそうになったのを慌てて抱き留めたものの、あのデカださメガネが壊れてしまった。
これが刺客だったらどうなっていたのか。
護衛失格だ。
落ち込む間もなく、ガルレン侯爵子息の視線の先にメガネのないリーリエがいることに気づいた。
案の定、彼は益々興味を引かれている顔をしている。
リーリエのメガネの修理は絶対譲れない。
リーリエの物を他の男に触らせるわけにはいかないのだから。
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