13.予想外なことに
「リリーは本当、チョコが好きよね」
幸せそうにチョコレートを頬張るリーリエを少し呆れたような顔をして、パトリシアが見る。
「毎日食べて飽きないの?」
「飽きるなんて!そんな贅沢なことあるわけないでしょ」
貧乏人を舐めないでもらいたいとピシリと言い切る。
このチョコレートはすごい人気で、値段が高いにも関わらず、並んでやっと買えるものらしい。
普通なら、とてもリーリエに手が届くような品ではないのだ。
生徒会役員でなくなったら、食べられなくなるのが確実なだけについ手が出てしまう。
生徒会役員になって一ヶ月。
今日も最高級のチョコレートを生徒会室で味わっているリーリエは、気がつけば、パトリシアと「リリー、パティ」の愛称で呼ぶ仲で、口調も気安い方がいいと言われて、すっかり友人ポジションだ。
心配していた「平民のくせに生意気なのよ」的な嫌がらせは、たまに嫌味を言われる程度で大したことがない。
恐らく、王子の婚約者で公爵令嬢のパトリシアが側にいて、友人としていてくれるからだ。
パトリシアがいない時でも、スージーやマリアやチェルシーが側にいてくれるので、虐められる隙がない。
攻略対象者候補と悪役令嬢(仮)には絶対に近づきたくなかったはずなのに、気づけば囲まれているこの現状。
これで大丈夫なのか、不安が残るが、パティはとてもいい子だし、チョコレートの誘惑にも勝てそうにもない。
「三ヶ月後、学院祭が行われる。これが生徒会の一番大きな仕事なんだ」
ライハートが書類から目を上げて、生徒会役員のメンバーを見渡した。
「まずは学院祭での催し物を考えようと思う。何か意見があれば言ってくれ」
学院祭…文化祭的なやつかな?
文化祭と言えば…
「模擬店!?」
リーリエは、前世でカフェや団子屋なんかをやって、楽しかったのを思い出して、ワクワクしながらみんなを見た。
「模擬店?それってどんなやつ?」
ライハートが不思議そうな顔をしている。
「え?生徒がお店を出してカフェをしたりするんですけど…えっと、そういうのじゃないんですか?」
何かまずいことを言ったのかと、不安になって、声が段々小さくなっていく。
「いや、例年は楽器や歌が得意な者が披露したり、演劇をするのがほとんどかな。魔法的演出をそこに加えるんだ。あとは勉強したり、研究したことを纏めて展示するとか」
うおー!?
なんか高尚なやつじゃん!
「今のは忘れてください」
ほとんどの生徒が貴族である魔法学院の学院祭だというのに、思いっきり庶民的な意見を出してしまったと、顔が赤くなっていく。
「面白そうじゃん。偶には趣向を変えていいと思うけどな」
アンドリューが楽しそうに意見するのを聞いて、俯いていたリーリエが顔を上げた。
「そうね。普段やることがないことをするって面白そうよね」
パトリシアも興味深そうにしている。
「あの、それはいいとは思うんですけど、舞台に立つのや見るのを楽しみにしている生徒もきっといると思うんですけど」
フェルナンドが遠慮がちに声を発した。
「それはそれでやればいいだろう。その合間や舞台を見ない人が楽しむ場があったら、より盛り上がるんじゃないか?」
「そうだな。今まではほとんど舞台を見る以外することがなかったし、いいかもしれない」
アンドリューの言葉にライハートが同意したことで、学院祭に模擬店を出すことが決定した。
思えば、貴族はお茶を淹れるのも使用人にやってもらうものだ。
それなのに、貴族の令息令嬢がお店をするなんて、大丈夫なのか、自分で言い出したこととはいえ、あっさり決まってしまって不安になる。
「で、リーリエちゃんは模擬店はどんな店がいいの?」
「えっと、やっぱりカフェ?でも、ただのカフェじゃつまらないので、出すお菓子やお茶を工夫して、普通のカフェとは少し違う雰囲気にするとか」
具体的に考えていたわけではないので、細かいことを訊かれると非常に困る。
「リーリエちゃんって街に詳しい?」
「元々、街の食堂で働いていたんで、そこそこは知ってると思いますけど」
いきなり話が変わって、戸惑いつつ答える。
「じゃあ、協力してくれそうなお店とか、参考になりそうなお店を探しに行こう」
あっという間に生徒会役員全員で街に行くことが決定してしまった。
大丈夫なの?これ。
近づかないつもりが、全員で出掛けるって何!?
第二王子のライハート殿下も居るのに!
自分の不用意な一言で、思ってもいなかったことになってしまったことにリーリエは頭を抱えたくなってしまった。
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