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1-6 俺は、働きたくない。




「あんたが俺をここに呼びつけたのか?」


 俺は、ゴーグルに表示された幾何学的な形状の『顔』に向かって問いかけた。


「はい。

 ご足労いただきありがとうございました。

 レンマ・ミヤヅカさん」


 つまり俺は人工人格に呼び出されたというわけで、なんとも妙な気分だ。


「あなたを地球にお戻しする費用について日本の外務省も交えて検討しておりましたが、5割を月面基地管理局にて負担させていただくことになりました」


「5割?

 半分は俺の自己負担ってことか?」


「はい。

 しかし本来であれば月面基地にも支払い義務はございませんので、これは最大限の譲歩とご理解いただければ幸いです」


「そ……んな。

 俺は被害者だぞ!

 勝手にこんな遠くまで連れてこられたのに、地球に戻るのに費用がかかるのかよ!」


「恐縮ながら。

 本件はまだ捜査の継続中で、刑事事件だと断定されたわけではございませんので」


「マジ……かよ。

 で……いくらなんだ?

 俺の負担額は……」


「お調べしたところレンマさんは保険にも加入されていないようですので、5割負担としておよそ50万セルを用意していただく必要がございます」


「50万……セル?」


「はい。

 現在のレートでは、ほぼ1セルが日本円では100円に相当します」


「ということは……5000万円!?

 そんなの払えるわけねぇだろ!!」


 俺も国民受給制度(ベーシックインカム)の受取用に銀行口座は持っているが、残高はおそらく数千円だ。

 まるで足りない。

 奇跡的に借金することができたとしても、そんな大金、どうやって返すんだ?


「……詰んだ」


 俺は頭が真っ白になった。


「悲観なさらないでください。

 私から提案がございます」


「……提案?」


「はい。

 月面基地管理局・総務部の職員として、ここで就労されてみてはいかがでしょうか?」


「就労……って……働けってこと?

 俺が?」


 『就労』というキーワードを聞いて、俺の全身が強烈なアレルギー反応を示した。

 他人に指図されながら、貴重な時間を拘束されるなんて嫌だ!


「はい。

 特別に就職試験は免除させていただきます。

 もちろんお給料もお支払いいたしますし、この事務所は住居としてご利用いただけます」


「いや、……無理だよ。

 俺は、働きたくない。

 だいいち俺、何の資格も持ってないぞ。

 おまけに昨日ここに来たばかりで何もわからないってのに、いったい何ができるんだ?」


「ご紹介できるのは、この事務所で行っている業務。

 つまり清掃です」


「清掃……」


 とても楽な仕事とは思えない。


「基本的な清掃業務は清掃ボットが行いますので、人間はそのサポートをするだけです。

 この月面基地の中で、もっとも平易な業務です」


 『もっとも平易』という言葉を聞いて、傍らで話を聞いていたドッツォがバツが悪そうに苦笑するのが見えた。

 おそらくこの職場は、月面基地のヒエラルキーの中で最下層なのだろう。

 まぁ、あのいいかげんなロニャや子供みたいなドッツォにも務まっているわけだから、高度な専門性が要求される仕事ではないことは明らかだ。


 しかし……やりたくないことを継続することに、俺の精神力は耐えられるのか?

 

「今すぐご返答いただかなくても結構です。

 とりあえず仮採用とさせていただきますので、業務を実際にご体験になったうえで、24時間以内にご返答ください」


 そう言うと、ヴィジェの映像は唐突に消えた。





---   エピソード1   完   ---




=== 登場人物 ===


【ヴィジェ】

 男性。人工人格。総務部のマネージャー。放任主義だがイザというときは頼りになる。


=== 用語解説 ===


【ゴーグル】

 メガネ型のスマートデバイス。現代のスマホと同じぐらい普及している。これが同時通訳機能を内蔵しているため、外国人や異星人とも会話できる。


【セル】

 月面基地で使用されている通貨単位。1セル=約100円。



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