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3-1 日本では人気無いの?



「見て見て!

 持ってきたよ!」


 俺が事務所のラウンジで朝食をとっていると、出勤してきたドッツォがカバンから大事そうに取り出したのは、高さ15センチほどのフィギュアだった。


 それは青いパイロットスーツの青年をかたどったもので、足を大きく開き、空に向かって何かを叫んでいるようなポーズをとっている。

 その胸に刻まれた『V』マークには見覚えがあった。


「レオンかな?

 ヴォルラックの……」


「うん!

 僕の宝物だよ!」


 ドッツォは大きな目をキラキラと輝かせながら、「えっへん」と誇らしげな表情をして見せた。

 『レオン・ザルフリード』はアニメ『重星覇装じゅうせいはそうヴォルラック』の主人公だ。


「へぇ。

 すごいな」


 ドッツォがあまりに嬉しそうなので、とりあえず褒めておく。

 俺はラウンジのテーブルの上に置かれたフィギュアに目を近づけ、細部をチェックしてみた。


 可動も分割パーツも無いシンプルな作り。

 おそらくクレーンゲームかクジの景品用に作られた安価な製品だろう。

 しかし造形や彩色はよくできている。


「これ日本の商品だよな。

 月面基地でも普通に買えるのか?」


「僕が買ったのは半年くらい前だから普通に売ってたけど、今だとプレミアム価格になってるんだ」


「マジか。

 ヴォルラックって、こっちでそんなに人気あるのか?」


「最近、凄い人気だよ!

 特にボサッコ人の間では!

 これから絶対ブレイクすると思う!」


「そうなんだ。

 ……でもなぁ、あれ確か……地球に攻めてきた異星人と戦う話だろ。

 異星人のボサッコ人としてはどうなんだ?

 感情移入できるのか?」


「ぜんぜんできるよ!

 第3話で、レオンが実は異星の皇子だってことがわかるでしょ?

 それでも地球のために戦うレオンが最高にカッコいいんだよ!」


 うろ覚えだが、確かにヴォルラックはそんな話だった。

 異星人なのに人間と同じ姿をしているなんて変じゃないかと、子供心に疑問を持ったものだ。

 だが、地球に愛着を感じて地球のために戦う主人公の姿は、祖国から離れて地球圏で暮らすボサッコ人の心境と、どこか重なるところがあるのかもしれない。


「ちょっと意外だな。

 日本ではヴォルラック、あんま流行ってないのに……」


「え!?」


 俺の何気ないつぶやきに、ドッツォは目を見開いた。

 茶色い全身の毛が、フワッと逆だつ。


「日本では人気無いの?

 ヴォルラックを生んだ国なのに!?」


 あまりの食いつきの強さに、俺は押され気味でたじろいだ。

 どうやら彼にとっては重大なことらしい。

 

「あ、あぁ。

 人気が無いってわけじゃないんだが、ちょっと……普通……というか、他にもアニメは大量にあるからなぁ」


 微妙に歯切れの悪い返事になってしまった。

 一瞬、「古臭い」と本音を言いそうになったのだが、慌てて「普通」という言葉に言い換えたのだ。

 その作品が大好きな人の前で批判的な発言をすべきではないという最低限のマナーは、友達がいない俺でもさすがに心得ている。

 

 正直なことを言えば、ヴォルラックは「今風」とは言えないアニメだ。

 主人公が異星人と地球人とのハーフだなんて設定にはリアリティが無いし、ロボットの身長が60メートル以上もあることにも必然性を感じない。

 まぁ、そもそも人型ロボットで戦争すること自体がリアルじゃないのかもしれないが、どこまでをリアルとして許容できるかというラインは時代によって変わるものだ。

 その意味でも、ヴォルラックは古臭く感じられてしまう。


「そうなんだ……。

 ボサッコ人の印象だと、日本=ヴォルラック、ヴォルラック=日本って感じなんだけどなぁ……」


「さすがにそれは……ちょっと極端だな」


「だって、ヴォルラックに出会うまでは、日本という国自体知らなかったもん」


「まぁ、それもそうか。

 小さな国だし、人口も少ないしな……」


「だから、日本にもいっぱいヴォルラックのファンがいるって、思ってたんだ」


 寂しそうにうつむくドッツォを見て、俺はちょっと可哀想になってしまった。

 なんとか励ます言葉は無いものだろうか。


「でも、根強い人気があるぞ。

 劇場版が作られるって噂もあるしな」


「え!?」


 ドッツォは期待を込めた表情を浮かべると、ガタッと席を立って俺の腕をガシッと掴んだ。


「それ、本当!?

 劇場版、作られるの!?」


「いてて」


 凄い剣幕で俺の腕をブンブンと振り回す。


「カイトが実は生きてるって説があるけど、もしかしてカイトが出てきたりするの!?」


 カイト……。

 彼は確か、レオンに憧れる地球防衛隊の少年兵だ。

 中盤でヒロインのユイを庇って死ぬシーンは有名で、今でもまとめ系動画で見ることがある。


 さすがにあれだけ派手に死んでおいて、実は生きてました……なんて展開はあり得ないと思う……が、ヴォルラックの世界観なら、それくらいの理不尽は不可能ではないような気もする。


「いやあ……劇場版ってのは単なる噂だからなぁ。

 実際のところはわかんねぇよ」


「噂……。

 でも、日本で噂が流れてるってことは、なんかあるんだよね!?」


「うーん、どうだかな。

 確か監督が次回作について構想を語ってて、考察班がヴォルラックじゃないかって予想しているだけだから……微妙だな」


「ありがとう!

 噂でもいい!

 最新情報が聞けて僕嬉しいよ!

 これ、友達に教えてもいい?」


「え?

 いいけど……あくまで噂だってことも伝えろよ。

 後でがっかりされても困るからな」


「うん!」


 ドッツォは大きく頷くと席に戻り、眼をキラキラと輝かせながらテーブル上でカタカタと指を動かし始めた。

 ヴァーチャルキーボードを使って、さっそく友達にメッセージを送っているようだ。


 噂が独り歩きしなきゃいいなぁと心配ではあるが、真偽不明の情報であっても、好きなアニメについて友達と語り合うのは楽しいのだろう。


 そういえば、自分も子どものころはそうだった。

 

 俺はまるで昔の自分を見ているような気持ちで、楽しそうにタイピングするドッツォの様子を眺めていた。






=== 重星覇装じゅうせいはそうヴォルラック・登場人物 ===


【レオン・ザルフリード】

 主人公。17歳。男性。宇宙帝国ザルグラード王家の第三皇子だが、地球を守るために戦う。


【水無瀬ユイ】

 ヒロイン。16歳。女性。対宇宙防衛機構『UNIS』の研修整備士。当初はレオンを敵視しているが、やがてヴォルラックの副操縦士となる。


【カイト】

 レオンに憧れる地球防衛隊の少年兵。第13話でユイを庇って死亡。


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