プロローグ:そして月は、奴らの聖地になった
「ウオオオォォォッ! 激アツ展開きたぁぁぁあ~~っ!!!」
地響きのような咆哮が、直径100メートルの半球ドーム内に響き渡る。
ここは月面基地の商店街。通称『ツキハバラ』のイベント広場だ。
観客席を埋め尽くしているのは、全身が剛毛に覆われた茶色い異星人――ボサッコ人の集団だ。
彼らは巨大モニターに映し出されたロボットアニメの映像を見ながら、肩を組み、ボロボロと大粒の涙を流していた。
感情と本能が直結している彼らにとって、昭和風の熱血アニメは大好物なのだ。
「どうしよう! あと3分でパレード始まっちゃうよぉ~っ」
焦りながらステージ裏で慌ただしく着替えているのは、モデルのようにスラリとした美女たち。黄色い肌に、頭から伸びた2本の触角。エルフのような美しさと称される種族、アンテラ人だ。
彼女たちが身にまとっている服はアンテラの民族衣装とはほど遠い。ピンクのエプロンに巨大なリボン――魔法少女のコスチュームだ。キャラクターとしての再現度は微妙だが、推しに対する愛の強さはまぎれもない。
「……布地にわずか1本のラインが加わっただけで、こうも強烈な印象を受けるとは……」
喧騒から離れたベンチで、灰色の肌をした小柄な異星人がつぶやいた。
アーモンド型の大きな黒い瞳。表情筋がピクリとも動かないその顔は、いかにも知的で冷徹な種族――グレーネ人だ。
彼が読んでいる漫画には、美少女のミニスカートが突然の風でめくれ上がる様子が描かれていた――。
そして俺は――司令官室から会場の様子をモニターしながら、昔のことを思い出していた。
清掃員として働きながら、わけもわからず異星人たちの起こす騒動に巻き込まれていた日々――。
「……まさかこんな状況になるとはな……」
あの頃は、誰もが過小評価していたのだ。
日本のアニメが、この広大な宇宙にもたらす「破壊力」を――。




