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番外編、ハロウィンの夜☆

 今年も秋がやってきた。


 わたくしは3歳の頃からの付き合いがあり、婚約者でもあるエリック王子もとい、リック様から異世界のある風習を教えてもらった。秋――特に10月の末頃にハロウィンと呼ばれる行事があると。と言っても、リック様の前世であるヤエさんがいたニホンではなく、もっと遠い所の行事だとも聞いた。

 この時期の夜はあの世から、死者が地上に降りてくる。もし、この死者の行列に遭遇してしまうとあちらに連れて行かれてしまう。それを防ぐために死者達と同じような仮装をするようになったとかで。

 それが今のハロウィンとして受け継がれている。リック様は「ならさ、10月の末頃になったら。ハロウィンと称して皆で仮装をしようか」とわたくしや兄様達に声を掛けた。

 リック様は現王太子だから、1度声を掛けられたら。皆、断れない。けど、兄様やラウル様達は面白そうだと言って仮装の準備をすると承諾した。わたくしが話したら、母様や父様、メイアも参加する事になったが。また、何故か。スズコ様やリック様のご両親である陛下や王妃殿下も参加するとおっしゃって。なかなかに錚々たるメンバーが揃ったのだった。


 当日、わたくしはメイアとお揃いの黒猫耳のカチューシャに小さな鈴がついたチョーカー、膝丈スカートの黒のワンピースと言う出で立ちで王宮にいた。母様は白猫耳のカチューシャに鈴は付いていないチョーカー、足首丈スカートのワンピース姿だ。父様と兄様はこれまたお揃いの吸血鬼に扮した出で立ちで。黒のタイネックにジャケット、スラックスにマント。ステッキを片手に持ち、口元には魔術で錬成した牙(偽物)という凝りようだ。


「シェリアとメイア、シンディーは猫の仮装か。良いな」


「ええ、旦那様。わたくしとシェリアは色違いにしたのよ、メイアもね」


「はい、父様や母様、兄様も素敵です。よく似合っています!」


「ありがとよ、シェリア。お前も可愛らしいぜ」


「ありがとうございます」


 両親や兄様に礼を告げると皆、笑顔になった。わたくしは嬉しくてふわふわと気持ちが浮上するのが分かる。王宮の大広間にはわたくし達一家の他にもいろんな装いをした方々が集まっていた。


「よ!リア、こちらにいたんだな」


 後ろから馴染みがある少年特有の澄んだ声で呼び掛けられた。振り向くと、そこには眩い金の腰まで伸ばした髪を縦ロールに巻き、派手やかにメイクもして。さらに赤薔薇のような深紅のドレスを身に纏った背の高い美女が佇んでいた。しかも、ドレスのデコルテや背中の部分はざっくりと開いた大胆なデザインで。わたくしはあまりの事に驚き、メイア共々固まった。


「……え、あの。リック様?」


「ん?どうした?」


「その姿はいかがしましたの?」


「あー、これか。母上に何の衣装が良いかと相談したらさ、これをやけに勧められてな。仕方ないから、着たんだよ」


「はあ、よくお似合いですわ」


「ありがとな、けどさ。スズコ様お手製の性転換薬に成長促進剤はよく効いたぜ、飲んだら一気に急成長しちまった。今の俺は10年後くらいの状態らしい」


 リック様の言葉に二の句が継げない。はい?!性転換薬に成長促進剤ですって!?

 何気にスズコ様、怖いくらいに発明なさってないかしら。内心で思いっきり、動揺しながらも。わたくしはポーカーフェイスを保った。


「あらあら、エリック様。なかなかに艶やかなお衣装ですこと」


「シンディー様、お久しぶりです」


「ええ、お久しぶりですわね」


 固まるわたくしに代わり、母様が挨拶した。リック様は優雅に何と、カーテシーをする。


「ふふ、これはこれは。エリック王子ならぬエリーナ姫とでもお呼びした方が良いかしら」


「……シンディー様も素敵な仮装をなさっていますね」


「娘のシェリーと色違いにしましたの、さすがにこんな服装はわたくしの年では恥ずかしゅうございますね」


 母様は苦笑いしながらも満更でもなさそうだ。うう、リック様が女装(と言えるのか)をなさるだなんて。しかも、わたくしより綺麗だし、スタイルも抜群だ。背も高くスラッとしている。悔しい、女としては負けた気分だわ。複雑な胸中で母様や女性の姿のリック様を見つめたのだった。


「……リア、探したぞ」


 大広間の片隅に行き、1人で壁の花になっていた。そうしたら、リック様がこちらにやって来た。カツンカツンとヒールを鳴らしながらだが。


「リック様」


「さっきは悪かったな」


「リック様は悪くありません」


 はっきり言うと、リック様は蒼の澄んだ瞳を細めた。ゆっくりとすぐ近くまで来る。


「リア、慣れない格好なんてするもんじゃないな。ヒールが履きなれていないからさ、踵やらがさっきから痛くてたまんねえよ」


「え、大丈夫ですか?!」


「大丈夫だと思う、もう俺は戻るわ」


「あの、わたくしも一緒に行っていいですか?」


「……構わない、来てくれ」


 リック様はゆっくりと歩き出す。わたくしも付いて行った。


 あの後、早めに戻っていらした王妃殿下にリック様の足の事を伝えた。


「まあまあ、エリックったら。靴ずれになってしまったの?」


「はい、踵などが痛いとおっしゃっていました」


「そう、教えてくれてありがとう。シェリアちゃん」


 殿下はにっこりと笑う。伝えたお礼も兼ねてたくさんのお菓子が入ったバスケットをくださった。


「ハロウィンはね、小さな子達がお菓子をたくさんもらう日でもあるんですって。だから、気負わずに受け取ってちょうだいな」


「ありがとうございます、王妃殿下」


「じゃあ、エリックの手当てもあるから。もう、帰っても構わないわよ」


「はい」


「良い夢路を、シェリアちゃん」


「お休みなさいませ、殿下」


 わたくしはバスケットを抱えたまま、立礼をした。王妃殿下が廊下を去った後、迎えに来た両親や兄様と合流する。自邸に帰ったのだった。

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