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行先不明  作者: 石川織羽
4/4

その4

 リリの家の前には、誰もいなかった。

 街灯の下に、携帯電話だけが落ちていた。

 まゆるとお揃いのケースにかわいいデコレーションのそれ。

 周囲を探して呼びかけたけど、人影さえなかった。


 ママと一緒にリリのスマホを持って、リリの家を訪ねた。

 既に寝ていた親御さんは突然押しかけられ、叩き起こされて驚いていた。


「さっきリリから電話があったんです。それで、まゆるがいるって言ってて……」


 『外に落ちていた』携帯電話と私の話しで、異常を感じたらしいお母さんが二階の娘に呼びかけた。居るはずの二階から返事はなくて、みんなでリリの部屋に向かった。


 リリはいなかった。

 部屋の電気は点けっぱなし。テレビも点けっぱなし。布団の上には広げたマンガ。


『部屋でくつろいでいる時に』

『何かが起きて』

『リリは大急ぎで出て行った』


 部屋の何もかもが、そう物語っているようだった。

 深夜の無断外出といい、真面目で几帳面なリリらしくない。隣の部屋の妹さんが「何?」と顔を出したので物音を聞かなかったか尋ねたけど、何も知らなかった。


 ご両親は「こんな時間に?」「あいつ、さっき寝に行ったぞ?」と、信じられないようだった。近所の人も集まって大人達が騒いでいる間、ママが手を強く握っていてくれたことに何だか救われた。リリのスマホには、さっき車内で私が何度もしつこくかけた着信履歴が残っていた。その他に、携帯などでリリが誰かに呼び出された形跡は無く。


 理由は不明だけれど、リリもどこかへ行ってしまった。

 彼女の靴は全部家に残っていたということなので、たぶん裸足。


 私は消える直前のリリとの会話や状況を、周囲に説明しなければならなかった。だけど、リリのご両親の前ではどうしても言えなくて警察の方にだけ話した。リリが『まゆるに足が三本ある』と言って泣いていたことも、馬鹿みたいだと思いながらも話した。

 お巡りさん達は黙って聞いてくれた。


 物凄く疲れて、私は3日休んでから登校した。

 先生は気を使ってくれて、登校してからも詮索をされたりする事はなかった。クラスの他の子たちも何も触れず、みんな進んで私をグループに入れてくれたりした。学校やクラスの裏コミュニティ内じゃ、今回のことでさんざん噂が乱立していたし、「黒幕は乃亜だろ」と言われたりもしていたけど、表向きだけでも私は一人ぼっちにならずにすんだ。


 それから二週間後、少し離れた河川敷で若い女性の水死体が発見された。

 リリだった。

 直接の死因は溺死で、それ以外はわからないということだった。

 まゆるは今も失踪したまま。


 その後、まゆるが送ってきた『坂本駅』の画像とそっくりの別の駅が実在することがわかった。私も画像を見せてもらったら古い駅舎も白い柱も、たしかにそっくり同じだった。そこは今は使われておらず、マニアのみが知る秘境駅だそうだ。


 まゆるがネットで見つけた画像を使って駅名などを加工し、『坂本駅』を作ったという結論になった。フェイクの画像を作ってまで、友達の気を引きたがる子だったとも思えないけど。ただ、まゆるがどこの公衆電話からリリに連絡をしてきたのかは掴めていない。


 それと失踪当日。

 地元の駅の防犯カメラにまゆるの姿が映っていた。

 カメラに映っていたまゆるは、普段使うホームとは反対の地下鉄方面へ向かっていた。


 昼休みにまゆるが連絡してきたとき、データ送信で使われた基地局も地元周辺。あの子は最初から学校へ行く気は無かったのだろうと、先生達に言われた。それなら『突然の失踪』に何となく説明がつく。まゆるの失踪は『家出』に傾きつつある。そしてリリの変死は、親友を突然失ったショックで引き起こされた発作的な錯乱だったと。


 だけど、私はまだどうしてもそんな風に考えられない。


 まゆるを最後に見たことになる目撃者の話しを聞いた。

 まゆると小中学校が同じだった女の子。


 いなくなったあの日、朝の駅でまゆるを見かけて声をかけたのだという。

 彼女は大声で名前を呼んだそうなのだけれど

「まゆるちゃん、聞こえなかったみたいで……」

振り返ることなく、まゆるは通勤通学の人でごった返す朝の改札へ吸い込まれていってしまった。


「まゆるちゃん何かあったのかなぁ? って気になったから、よく覚えてます」

 証言したその子は、不安げな面持ちで語っていた。


「ぎこちないっていうか、何だか違ったから。足を引きずるみたいに歩いてて」


 ケガでもしているのかと思ったという。


 足を引きずるように歩きながら、何も聞こえない顔で、まゆるは地下鉄への階段を下りて行った。防犯カメラで追えた足取りはここまで。


 どの電車に乗り込んだのかは、わかっていない。

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