サラ
司祭に連れられて教会の裏にある孤児院へとやってきた。
「ルーク君を呼んできてくれ」
司祭に指示されたシスターが穏やかそうな風貌の男を連れてくる。
「司祭様、今日はどうされました?」
「ダイチどの、彼がここの責任者のルークです。ここのことは彼に一任しているので後は彼になんでも言ってください。ルーク君、こちらは冒険者のダイチどの、今日はダイチどのに信徒を紹介してやってくれ。それではダイチどの、私はこれで失礼させて頂きます」
そう言って司祭とシスターは教会のほうへ帰っていき2人が建物に入るのを見届けた後、建物の一室へと案内された。
「私はこの施設の責任者の助祭ルークと申します。以後お見知りおきを。ところでダイチさまは信徒の紹介を希望とのことですがどのような御用向きで?」
まあおっさんが子供買いに来てるんだから用途は気にするよなあ。
「司祭様からも紹介がありましたが私は冒険者のダイチ、こちらで仲間を募りたいと思い伺わせていただきました。こちらでは魔法が使え、出来れば共に長く仕事が出来る方がいればお願いしたく思います」
「そうですか、では容姿・性別・年齢は問わず冒険者としてマジックユーザの仕事が出来るものということでよろしいですね」
わざわざ付け加えて聞くって事はやっぱそういう目的だと思ってんだな。
「ええ、それでかまいません。ただあんまり強面なのはやめて頂けますか、睨まれると怖いので」
そう付け加えるとルークはクスリと笑い部屋から出て行く。
10分ほどしてルークが子供を6人連れて部屋に戻ってきた。
子供たちの表情はこちらを警戒してか一様に怯えが見える。
「今こちらで紹介できるのはこの子たちですね。さあ、ご挨拶なさい」
ルークに促され一人ずつ挨拶してくれる。
こちらへの警戒は解けないが俺が話す普段の仕事の内容、相対するモンスターの強さ、要求する技能である攻撃や回復の魔法、報酬の分け前についての説明はしっかりと聞いてくれていた。
「う~ん、正直この子たちではあなたの要求に応えるのは難しいですね」
「いやいきなり大熊とかヒドラにぶつけたりしませんよ」
「あなたがそれほどの大物を相手にしているとは思いませんでした。この子たちもマジックユーザとしては並以上の素質はありますが今のあなたに並ぶには数年は掛かるでしょう。どうしてもというなら構いませんがあまりお勧めはしません」
ふむこっちとしても安い買い物ではないしやめておくか。
「あ~いえ、こちらもどうしてもという訳ではないので……」
そう言って切り上げようとした時
「あたしを連れて行って!」
勢いよくドアを開け女の子が入ってきた。
「サラ、あなたは部屋に居なさいと言った筈です!」
ルークが声を荒げるがサラと呼ばれた少女は無視して続ける。
「あたしはヒールとリポイズン、あとエネルギー・ボルトが使えるわ」
「サラ!」
「他にも生活魔法も使えるし血を見たくらいで泣き叫んだりしない」
「サラ!」
「なんだったら夜の相手でも……」
「いい加減にしなさい!」
ルークがサラと呼ばれた少女に平手を打ちつける。
こちらから表情は見えない。
さすがに見かねて口を出すのだが
「おい、そこまですることは……」
「黙っていてください! サラ、お前はグミル辺境伯の親衛隊となることが決まってるだろう!」
「いやっ!あんな豚ジジイの所に行くならこっちのオッサンの方がまだマシよ!」
おい
「既に前金も貰っているんだ、今更断ればどれだけの損害が出ると思ってるんだ。お前は教会の顔に泥を塗る気か!」
「そのオッサン随分儲けてるみたいじゃない。金なら冒険者になったら倍にして返してやるわよ!」
おいコラ
「お前はいつもいつも勝手に……」
「いい加減にしろ!」
叫ぶと同時に派手な音が出るように机を叩いた。
「勝手放題言いやがって、誰がオッサンだ。そっちの子供たちがビビッてるだろ」
「いや、それはあんたの剣幕が……何でもないです」
サラはなにか言いたげだがひと睨みすると大人しくなった。
ルークも同様だ。
「ちょっと落ち着いて話をしようか」
とりあえずそう2人に提案した。
孤児院の一室には俺、ルーク、サラの3人だけが残った。
他の子供たちはルークが帰らせた。
「まあ大体の事情はさっきの話から察したけど、もう行き先が決まってるなら無理じゃない?」
辺境伯ってのがサラを見初めて買ったけど本人は嫌だからそいつよりはまだマシな俺について行こうとした。まああってもおかしくはない話である。
たしかにそんな話が出るだけあり、サラはなかなかの美少女だ。
ショートヘアの金髪で貫頭衣の下から見えるラインからでもスタイルがいいことが想像できる。
だが人をオッサンだのまだマシだの言うやつをわざわざ連れて行こうとは思わない。
ここは適当に切り上げて撤収したほうがいいだろう。
「そういうことなら、縁がなか……」
「ま、待って、ジジイが勝手にお金を置いていっただけで決まってるわけじゃないの」
そんな雰囲気を察したのかサラが慌ててまくし立てる。
ルークに目をやると
「確かに彼女が嫌がっていたので名目上は『気持ち』として置いていかれましたが実質前金です。それに相手は辺境伯、つまり一地方の領主です。逆らうほど馬鹿なことはないでしょう」
「だからってイヤよ。見た目もそうだけど、アイツの城に連れ込まれたらもう外に出られないって噂じゃない。きっと殺されるんだわ!」
「本当にそんな相手なのか?」
「そういう噂のあることは事実です。ですが大貴族の不興を買うと辺境伯領での私達の活動にも影響を及ぼしますし、逆にそのようなところへ子供を送ったとあっては信仰にも影響が出るため難しいところです。」
「……」
サラはすがるようにこちらを見ているんだが可哀想と思う反面、彼女を助ける義理もメリットもないんだよな、最悪矛先が俺に向きそうでむしろデメリットしかない気がする。
「もうここまで話してしまったので言ってしまいますが、辺境伯は彼女だけに固執しているわけではないので相応の対価を持ってお断りすれば大した問題にはならないでしょう。ただ我々としてもそこまでして彼女を守る理由もないのです」
俺の考えを見透かしたかのように
「ひょっとして俺にその対価とやらを払えって言ってます?」
「彼女に諦めてもらうために話しているんですよ。なんとかしようとするなら金貨5000枚ほど必要になりますから」
コイツ明らかに俺に買わせにきてるな。そういえば最初のやりとりからなんか説明くさかった気もする。
俺が今着ている服やコートも特殊な素材を使っているため合計で金貨3万枚を下らない。金貨5000枚くらい余裕だ。
「俺が金を出すように誘導してません? ずいぶん細かい話までぶちまけてるみたいですが」
「彼女を育ててきた以上それなりに愛着はありますから。私達だけで彼女を救うことも出来ませんが可能ならより良いほうへ進めたらと思うだけです」
「あんた、お金持ってるんでしょ何でもするから助けてよ。あたし死にたくない……お願い……助けて…………」
「私からもお願いします。彼女の能力は子供たちの中で随一です。性格に多少難がありますが義理堅くあなたの力になることは保障いたします」
そう言って2人が頭を下げる。
これで見捨てるのも正直なあ、乗せられるみたいでアレだが。
「………………降参。解ったよ、そのかわりしっかり働いてもらうからな」
「ホントに! ……モチロンよ、バンバン稼いですぐ倍にしてやるんだから」
喜びと涙声が混じって何ともいえない表情になっているがまあこれで良かったんだろう。
件の貴族に狙われているものは他にもいることは気になるけどそのすべては助けられない。
俺は正義の味方というわけでもないのだからこいつ一人でも助けられたとでも思うことにしよう。
「あとオッサンはやめろよ、これからはお前の雇用主なんだからな」
「あらオジサマって呼んだほうがいい? それともご主人様?」
「さっきまで泣いてた奴がもう笑ってやがる」
「な、泣いてないし!」
慌てて顔を拭うサラ。
これ以上からかうのは止めておこう。
「ありがとうございます。早速私も手続きに移るとしましょう」
こうして俺はこの世界ではじめての仲間を加えることとなった。
また余談だが最初に面通しした子供たちで金貨1000、サラも本来なら金貨1500~2000枚ほどの価格で取引されるそうだ。
このとき金貨5000枚をあっさりその場で出したときにルークが呟いた「少し吹っかけても良かったかな」という言葉は聞かなかったことにした。
やっとレギュラーの女の子が登場しました。
もう少しきちんと交渉させたかったのですが無駄に長くなるだけなので今の形に。




