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【書籍化進行中】この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第二章 マリアの強化訓練開始

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セピア色の祖母の手紙


 その数日後、大叔母様の家を訪問する日が決まったと、兄から連絡が来るのと同時に、ブライアン様から、ドレスの仕立て屋を呼ぶ日についての打診が来た。

 大叔母様に会いに行く次の日を選び、ブライアン様に連絡すると、大叔母様訪問に同行したいと返信がきた。

 そう言われて、改めてブライアン様との関係について考えた。


「ねえ、ベル。ブライアン様が大叔母様を訪問するのに、同行すると言ってきたのだけど。どういう関係だと紹介したらいいの?」


「エリック様の上官でも、お二人のご友人でも、今回の訪問理由からして不自然です。でもあの方のことだから、うまい理由を考えるでしょう」


 それには納得し、私は了承の返事を書いた。


 当日私を迎えに来たブライアン様は、なんとなくいつもと違っていた。

 少し控えめ?

 少し自信無さ気?


 馬車の中の沈黙が重い。

 今日は珍しく、いつも騎馬で従う従者が同乗している。あくまで、クルス家の訪問に同行させてもらう立場として、控えめにしているようで、他にお付きの者はいない。


 ベルが気を利かせて、ドレスの話題を持ち出した。

 

「明日、仕立て屋がどんな布を持ってくるのか楽しみです。私がおすすめした濃いグレイのシルクで、良い物があると嬉しいですけど」 


 ずいぶん落ち着いた色調だ。


「ベル。地味すぎない?」


「地味には絶対にしません。お任せください」


 すぐにクルス家の馬車が合流してきた。

 兄とロイドが馬車の中から挨拶を送ってくる。

 ダリルはいつものように、馬で従っている。今日はクルス家からの訪問なので、護衛もクルス家から出している。 


 馬車での三時間は、主にドレスの話で過ぎていった。


「光沢のあるダークグレイのドレスの上に、レースと刺繍を重ねます。刺繍はマリア様に刺してもらいます。胸当て部分と袖の切り替えには、ブルーの花と薄緑の草花、それと小鳥ですね。思いっきりゴージャスに」


「それは映えそうだな」


「濃紺のベルベットでパイピングをするのも考えているのです。王妃様の代理としての貫禄や重厚さも加えたいですね」


「細身のマリア嬢に、それは重すぎないか? もっと軽やかなほうが良いと思うが」


 ベルとブライアン様は、話が尽きないようだ。

 私は感心して、その会話をぼんやり聞いていた。

 

 大叔母様の屋敷は、そう遠くない郊外にある。馬車で三時間ほどの距離だ。周囲には、落ち着いた雰囲気の屋敷がいくつも並んでいる。


 綺麗に整えられた門の前に馬車を停めると、護衛のクルス家の騎士が訪問を伝えに行く。


 大叔母様は裕福な子爵家に嫁ぎ、今はこの屋敷で一人で暮らしている。

 庭園は自然な感じに整えられ、のんびりとした雰囲気だ。

 ここへは小さい頃に来た覚えはあるけど、大人になってからは初めてだった。


 門が開き、馬車は敷地内に乗り込んでいった。

 ブルーグレーのベンチや、バラの絡んだアーチが遠方に見える。

 バラのアーチの足元にはとりどりの花が植えられていて、それがずっと続いている。

 とても華やかで素敵。後で少し散歩をさせてもらおう。


 屋敷の前に馬車が停まり、私はブライアン様のエスコートで馬車を降りた。


 大叔母が出迎えに出ている。

 気さくな人柄は記憶通りのようで、スタスタと私の方に両手を伸ばしてやってくる。


「まあ、エリスによく似ているわ。血は争えないわね」


 腕を軽く叩き、私を上から下まで見回す。

 

「大叔母様、ご無沙汰しておりました」


「挨拶とか、飛ばしましょう。面倒だわ。エリックもよく来たわね。ロイド、まあ!」


 大叔母は兄を飛ばしてロイドの元に突進した。


「あの捻くれ者が、まあ真面目くさった顔して」


 ロイドが困ったように笑っている。

 捻くれ者ですって? 

 

 兄が、ずいっと前に出て、「大叔母様、今日はローズ公爵家のブライアン殿が同行されております」と紹介した。


 大叔母は驚いたように振り向き、私たちの方に戻ってきた。

 それから優雅にご挨拶をした。先ほどまでとは別人のようだ。


「失礼いたしました。久しぶりの再会で舞い上がってしまいました。お恥ずかしいことです」


 そう言う大叔母に優しく微笑みかけ、ブライアン様は礼儀正しく挨拶を返した。


「マリア・クルス嬢がベルシアに赴く際、王妃様の代理を務める話が持ち上がっています。クルス家とベルシア王家の縁について、私もお伺いしておきたいと思い、同行させていただきました」


「まあ、そうなんですか。マリア、凄いわね」


 大叔母は感激している。ついでにブライアン様に見惚れてにこにこしている。


 部屋に通されると、兄はさっそく、ベルシア前王夫妻が来た時の事を、教えて欲しいと切りだした。


「まあ、せっかちね。甥のアルバンはのんびりしているのに、誰に似たのかしら」


 大叔母は文句を言いながらも、目尻にしわを寄せて笑っている。とても楽しそうだ。

 侍女たちがお茶の支度を済ませ、部屋の隅に控えると、布張りのきれいな箱を手元に引き寄せた。


「エリックから手紙を貰って、色々と思い出そうとしていたのよ。あの頃の古い手紙を探したりね。四十数年も前の事だもの。初めはぼんやりとしていたけど、一通の手紙を読んだら、ぱあっと記憶がよみがえったわ」


 そう言いながら箱を開け、中から手紙を取り出した。

 セピア色の封筒で、薄いピンク色だった名残がある。女性の手紙のようだ。


「これね、エリスからの手紙なの。あの頃貰って、そのままここに仕舞ってあったのよ。凄く懐かしいわ」


 私たち全員の目が、その手紙に吸い寄せられていた。

 

「内容はね、簡単に言うとのろけみたいなことよ。ところで、何から話せばいいかしら」


 兄が代表して、「まずはベルシア国王夫妻が来た時の事を教えてください。一介の伯爵令嬢が、国王夫妻とどんな繫がりがあったのでしょう」と聞いた。


「さあ、それは解らないわ。私がエリスと仲良くなったのは、その夜会が最初なのでね。エリスは凄く気分が悪そうにしていたの。侍女も同じように真っ青になっていたわ。私が気付いて声を掛けて、それから控室に付き添ったのよ」


「何かあったんでしょうか」


「ええ。彼女が以前付き合っていた方が、事故で亡くなったらしいの。侍女の恋人も一緒だったそうよ。それを、あの夜会の最中に噂で知ったらしいのよ。二人共お気の毒で、私には何も言えなかったわ」


 ああ、あの男が言っていた事故。その時、あの従者は亡くなったのね。夢で見た淡い金髪の、若い男の顔が脳裏によみがえった。

 夜会の最中にベルシア王の事故の噂が流れ、記憶喪失と従者が死亡した話を聞いてしまったのだろう。


「あの、おばあさまはその夜会で、ベルシア王とは直接会わなかったのですか?」


「馬車に送る途中に、丁度お傍を通り掛かって、エリスが倒れそうになったところを、ベルシア王が咄嗟に支えてくださったの。素敵な方だったわ。王妃様もとてもお美しくてね」


 それは……あんまりな鉢合わせだ。

 

 黙ってしまった私の代わりに、兄が質問した。


「その時に、祖父と知り合ったと伺いましたが、どうやってですか」


「私が兄に手伝いを頼んで、ふらふらになっていたエリスを、兄が支えて歩いたの。それがきっかけで、親しくなっていったわね。エリスは人気があったのよ。彼女が誰の申し込みも受けずにいたのは、恋人を待っていたからだったのね」


「祖母は、亡くなった恋人の事を吹っ切れたのでしょうか。それに、祖父のどこを気に入ったのでしょう」と兄が聞いた。


「それがこの手紙に書かれているの。亡くなった恋人の事を、忘れなくてもいいって兄が言ったそうよ。そう言ってくれる兄が大好きですって。私は、それでいいのかしらって心配したけど、二人はとても仲が良かったわ」


 大叔母はにっこりと微笑んだ。


「物静かだったエリスは、兄と結婚して変わったみたい。思いっきりが良くて、大胆ではっきりものを言う素敵な義姉様だったわ。兄や甥は、良く叱られていたわね。のんびり者でことなかれ主義だから」


 その話の後、皆で庭を散歩させてもらった。大叔母様の趣味で、ピンクのバラを中心に育てているそうだ。大叔母の雰囲気そのままに、可愛らしい庭園だ。

 

 甘い香りで胸を満たしてから、私たちは大叔母の家を後にした。




次回は、前半は、ベルシア王家の話です。後半は、マリアの方に話が戻ります。

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― 新着の感想 ―
婚姻後の記憶のないペルシア王とお婆様が接触していたなんて、なんて惨い。ひどすぎる。 王妃はもうその時点で恋愛については祖母にザマァしたようなものじゃないですか。恋愛の復讐はとっくに完了していて、宝石も…
ブライアン様… 婚約もしてないのに親戚の家についていくのはどうかと思うわ。叔母様にはそれらしい事を言ってたけど本当は違うでしょ。 ペルシア国王が記憶を失ったってお祖母様は知ってたのかな。知らなかったら…
2026/04/06 20:30 退会済み
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