表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
【第二部】第二王子の侍女マリア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/58

マリアの自立

 ブライアン様の腕の中は暖かかった。

 ここは居心地がいい。


 見上げると、辛そうな彼の顔が目に映る。私はそっと頭を撫でてた。

 指に絡む髪は柔らかくて滑らかだ。


 指の先を見ると、兄とベルが目に入った。

 急に今の状況が恥ずかしくなり、そっとブライアン様を押し返した。


「ごめんなさい。ちょっと取り乱してしまったわね」


 そう言ったら、今度は兄に頭を抱えられた。

 髪をワシャワシャされた事はあるけど、これは初めてだ。


「お前、良く今まで黙っていたな。図々しい女だ。とんでもないぞ」


 口は悪いけど、気持ちは伝って来たので、許すことにする。

 ベルは、涙目のまま、私をじっと睨んでいる。

 なんだか怖いので、目を逸らした。

 きっと後で、たくさんお説教されるだろう。


 ダリルがそっと甘いワインを勧めてくれた。グラスから甘い液体を少しすする。


「美味しいわ。ありがとう」


 そう言うと、ダリルは軽く会釈して下がった。兄の従者ダリルは、兄と正反対に動作が静かだ。

 サワサワと風が、草や木の枝を揺らしている。


「マリア嬢、私の考えを話していいでしょうか。辛いなら後日にします」


「いいえ、もう大丈夫です。話してしまってスッキリしました」


 ブライアン様は私の手を取り、両手で握りしめた。


「もう泣かないでくださいね」


 懇願するような瞳は、普段より濃い青になっている。


「はい」


「1度目の人生で亡くなった時、石があなたの願いを叶え、死に戻った。もしかしたら、その時に契約を結んだのかもしれない。その前で何か覚えはありますか?」


「いいえ、何かを強く願うことなど、めったにありません。でもなぜ? 私は指名されていないのに」


「さあ。さっぱりですが、事実をみればそうです。前生のどこかの時点から、石はあなたを守っている。そしてもしかしたら、今も石はあなたの物かもしれない」


 私が死に戻ったのは、石の力なのだろう。それ以外に考えようがない。全くそんな凄い力があるようには見えないが。なにせ、祖母の扇子の金具だったのだ。

 でも……


「本当にそうなら、怖いほどの宝ね。私には扱いきれないわ」


「そうです。だからベルシアの王族は必死なんでしょう」


 また、空気が薄ら寒い気がした。

 そこで、兄が掠れた声を上げた。


「もしそうだったら、王太子に石が反応していなかったら、もっと直接手を出してくるんじゃないですか? 今回の招待は、猫がネズミをいたぶるような雰囲気だ。必死な感じじゃないですよ」


「ああ、ベルシアでの王族の様子も、特にマリア嬢やクルス家を疑っている風ではなかった。だから石は、王太子の物になったと思っていたのだが。⋯⋯どうなんだろう」


 石が私の物?

 それなら、石に触ってみればわかる。でも今は手元にないので、確かめようがない。


「ベルシア王家の宝で、世間一般には公表されていなそうだ。あの男も、詳しいことは、高位貴族か司祭しか知らないと言っていた。この国で、何か知っているとしたら、王かな」


 ブライアン様の王という言葉にぎょっとした。なぜ王が隣国の王家の秘密を知っていると!?


「驚かないでください、マリア嬢。国同士の水面下の諜報戦は、かなり熾烈です。王ならば、あるいは。でもどう切り出すかが難しいですね」


 そう言って、私をじっと見ている。

 兄が私の体を自分の方に引き寄せた。


「これ以上、マリアを危ない立場にしないでください」


 ブライアン様がムッとした。

 私を引き寄せようとしたので、手を突っ張ってそれを止め、兄からも離れた。


「勝手に引っ張らないでください。私だって自分で考えられます」


 キッと睨んだら、二人はバツが悪そうな顔つきになった。


「まずは大叔母様の話を聞きます。王家には、私のことを秘密にしてください。これ以上、状況をややこしくしたくないです。べルシアに行ったら、積極的に探りましょう」


 兄もブライアン様もびっくりしている。

 私もびっくりだ。

 吐き出してさっぱりしたせいか、急に気が楽になっていた。


「私、頑張ります。ダンスだって、考えすぎて苦手だと思っていたけど、すごく楽しかった。もう頭でっかちはやめます」


 ベルが飛びついてきて、目の前で拍手をした。


「お嬢様、その意気です。ベルはとことんお手伝いしますよ」


 そう言って、甘いワインをたっぷりとグラスに注いでくれた。

 甘い液体がのどを落ちていく。

 泣いて喉が渇いていたのか、いつもの倍くらい美味しい。 

 そして、ふと気がついてブライアン様に向き直った。


「先程は取り乱して申し訳ありません。はしたない姿をお見せしました」


「あ、いえ」


 兄と目を見交わしてから、「いつでも大歓迎です」とポツリと言った。

 兄が腕をポンと叩き、赤ワインを差し出した。ブライアン様は小さく頷き、グラスを見つめ、赤い液体をグイッとあおった。


「もしかして、ミスターロイドが言っていた若い頃の大奥様って、こんなだったのかしら」


 ベルが小声で呟くのが聞こえた。

 私は優しくて、もの静かなおばあ様しか知らない。

 本当はどんな方だったのだろう。そのことも、とても気になり始めていた。


 この日、王宮に戻り、第二王子の私室に招き入れられると、ドアが開くなりチャックが飛び出してきた。

 ジョエル様は、その後ろから歩いてくる。

 飛びつこうと構えたチャックを、ブライアン様が抱き上げた。


「今日はエプロンドレスを着ていないから、飛びついたら駄目だ。ジョエル王子殿下、ぜひしつけをお願いします」


「嫌味ったらしい奴。クルス家お泊りで、いい事…....無かったのかな?」


 ブライアン様は無言で、ずんずんと私をエスコートし、部屋に送ってくれた。チャックはその小脇に挟まれ、尻尾をパタパタ振っている。なぜかジョエル様も付いて来た。


「では、マリア嬢。夜会のことと訪問に関して、密に連絡いたします」


 そう言い置いて、ブライアン様は去っていった。

 私たち三人は無言で、その後ろ姿を見送った。


「何かあった?」


「いえ、特には」


 私が答えると、ジョエル様が私の後ろに立つベルの方に向き直った。

 ベルは横に首を振り、何も無いと示した。


「遠慮しなくていいよ。あったことを教えて」


 ベルは、伏し目がちで返答する。


「男性方の愛情と庇護欲に、マリア様の自立心がぶつかっただけの事です」


 ジョエル様は少し首をかしげてから、笑い出した。


「マリア嬢、最高だね。得難い女性だ」


 ジョエル様が私を見つめる。

 ちょっと目が泳いだ。

 そんなつもりはなかったけど、そうかもしれない。あの時、一人では歩けない子供のように扱われたのに、カッとしたのは本当だ。


「からかいに行こうかな」


 その言葉に、すぐベルが答えた。


「結構な深手を負っていそうです。おやめになったほうがよろしいかと」


「マリア嬢って、楽しいね。僕のチャックが懐くわけだ」


 ジョエル様は、私に抱かれているチャックの方に手を伸ばし、無視された。


「あれ、冷たいな……結構、ショックかも」


 手を下げ、所在なげにしてからぼそっと言う。


「やっぱりからかうの止めとく。マリア嬢、お手柔らかにね」


 そう言うと、チャックの頭をぐりぐりと撫でてから自室の方へ戻って行った。


 

いつも、「この結婚死んでも嫌です【連載版】」 を読んでいただきありがとうございます。


今後は**【毎週 月・火・木・金曜日の20時】**の週4回更新とさせていただきます。

毎日更新を楽しみにしてくださっていた方には申し訳ないです。

初の長編へのチャレンジで、安定して面白い作品をお届けするために、このペースを選びました。


次の第3部【ベルシア王妃とマリア】は、間を開けずに続ける予定です。ここから物語が大きく動きます。

姿が見えてきた“黒幕”のもとへ、少し強くなったマリアは向かいます。でも思っていたよりも事態は複雑。ベルシア王族内部でも色々な思惑が絡み合って――という展開。

このあたりが前半の山場になると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ