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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
【第二部】第二王子の侍女マリア

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マリアの強化策


「非常にありがたい話ですが、王妃様に貸しとは? それをここで使っていいのですか?」


 兄の言葉にブライアン様は、あっさりと答えた。


「今回の弔問の訪問中、第二王子の女性関係に目を光らせておいて、という願いに応えたんだ。報告するのは楽しかったよ。それに先日ポーカーでの負けを三回無しにしてさし上げたから、嫌とは言えないはずだ」


 まあ、仲のよい叔母と甥なのね。

 ロイドは嬉しそうに頷いている。

 私と目が合うと、真面目腐った顔でコホンと咳払いした。


「非常に頼もしく思います」 


 兄は、また髪に指を突っ込み、ガシガシかきあげた。


「いい案ですね。マリアが目立つことになるけど、どうしたってマリアは注目される。それなら逆に箔をつけて、手を出しにくくしたほうがいい」


「王妃の代理なら、近衛騎士団からも人員を割ける」


 ブライアン様はそう言って拳を握り締めたが、帰国したばかりで、また同じところに出向くのは、どうしたって無理だろう。

 まさか、それをゴリ押しする気では、と不安になった。


「私は最大限に気をつけて、ちゃんと無事に帰ってきます。皆も付いています。きっと大丈夫」

 

 ベルが私の横で、「頑張ります」と力んでいる。



「ところでジェイソン様の件は、結論が出たのかしら。さっき母とノエルから噂を聞いたけど、公式にはどうなりそうなの?」


 私は兄に尋ねた。近衛騎士団が調査に当たっていたと聞いている。

 そのせいで、兄はずっと忙しくしていたのだから、調査結果は知っているはず。


「そうか。お前は知る権利があるな。あの後、盗賊団とメリーとジェイソンについて調査が行われた。メリーとジェイソンは、盗賊団に利用されたと結論付けられたよ。俺は盗賊団の足取りを追っていたが、ほとんど手がかりが掴めなかった。人数すら分からない」


 ブライアン様はあの日の事を思い出しているようだ。

「四人確認しているが、もう数人いただろうな」とぽつりと言う。


 私も、あの恐ろしかった日を思い出してしまった。とんでも無い一日だった。

 兄は、私の気分を察したようで、目が優しくなる。


「クルス伯爵家にやって来た男二人の足取りは、全く掴めなかった。そして死んだ女は、何も持っていなかった。着ていた服はわが家の召使いの制服だ。事前に調達していたようだな。周到だよ。ただの盗賊団で済ませるには無理があるが、あまりに何もわからないので、結局そういう話に落ち着いた」


「そう。私の敵はかなり手強いようね」


 誰も何も言わなかった。

 兄が先程、徹底していて容赦がない、と言ったのはそういう部分を指したのだろう。

 しばらくして兄が唐突に言った。

 

「あ、そうだ。母上から伝言を頼まれたんだった。マリア、ダンス大丈夫か?」


 あっ!!


 やっぱり気付いていたんだわ。

 急に仮病を使ってでも、行きたくない気分になる。


「ダンスがどうかされましたか?」


 事情を知らないのはブライアン様だけ。他の皆は、私が一度も夜会で踊ったことがないと知っている。


「今までお嬢様は、夜会や社交活動に、あまり積極的ではなかったのです」 


 ロイドが婉曲に伝えると、兄が「デビュタントで俺と一回踊ったきり、一度も踊ったこと無いな」と事実そのままを言う。


 私は俯いたまま後ずさった。

 すごく苦手なのだ。

 男性と話すのも苦手なら、体を寄せ合って踊るのも、触られるのも、踊っているのを人に見られるのも。

 そういう苦手の集大成が夜会、そしてダンス。


 ベルシアの王族に招かれるなら、夜会がないはずがない。

 十八歳の伯爵家令嬢として、会話やダンスは必須。今回は、苦手だからと隅っこにいることができないのだ。


 俯いた目の前に、スッと手が差し出された。


「来月、王宮で行われるパーティーで、ぜひ、私のパートナーになってください」


「私、ダンスが下手です。あまり練習していません。踊ることなんて、ほとんどないと思っていたのです。ジェイソン様の申し出を受けたのは、夜会に出なくていい、という条件に惹かれたのもありました」


 自分で言っていて、情けない。そんなことで結婚を決めただなんて。


「私はダンスが得意です。踊っているうちにうまくなります。お教えしますよ。それに私以外とは、踊らなくてもいいです」


「会話にも自信がありません。男性と話すのは、少しできるようになったけど、変な事を言ってしまいそうです。不安なのです」


「他の男とは話さなくてもいいです。私がずっと付いています」


 私は俯いた頭を、ゆっくりと上げた。

 ブライアン様と話すのは慣れた。

 それにほんの少し、触れ合うのも慣れてきた。大丈夫、だろうか。


「嫌だからやらない、なんて言っていられませんね」


 そばに来たベルが、「お受けしましょう」と強く言う。


「そうするのが一番いいわよね」


 ロイドに聞いてみた。


「それが最良です」と優しくロイドが答えた。


 きっとそうなのだろう。


「お受けします。ぜひ、よろしくお願いします」


 ベルが「やった」と小さく拳を握るのと同時に、ブライアン様がベルの前に移動した。


「ベル。ドレスをお贈りしたい。相談に乗ってくれ」


「かしこまりました。これは急がないと。仕立てはどちらに頼みます?」


 二人は一気に、具体的な相談に取り掛かった。


 手持ち無沙汰になった私は、お兄様に話しかけてみた。


「ダンスの講師を、お母様に見繕ってもらおうかしら。それだと、こちらに戻らないと駄目ね。お兄様も時々練習相手になってもらえる?」


「俺はダンスは得意だぞ。お前だって、少し練習すれば、そこそこ踊れるはずだろ。問題は男性パートナーに上手く対応出来るかだな」


 その通り。

 いくら練習で上手く踊れても、男性と向かい合ったら、カカシのようになりそう。

 

「家の騎士で踊れるメンバーいます? 彼らに練習に付き合ってもらおうかしら」


「ダグや、ほか数人の貴族出身の奴らは⋯⋯」と兄が言い始めたのに被せるように、声が上がった。


「駄目です。それならジョエルに頼みましょう。彼も上手だし、チャックがお目付け役でついている。王宮で練習したらいいですよ」


 いきなりブライアン様が割り込んできた。

 いくらなんでも、第二王子にダンスの練習を頼むことはできない。

 それは固くお断りした。


「では男性と女性のダンス講師をご用意します。ぜひ王宮で練習を」


 結局断りきれず、このまま王宮で暮らしながら、ダンスレッスンを受けることになってしまった。

 げんなりした私の肩を、兄はポンと軽く叩き、「頑張れよ」と軽く言う。


「ベルシアの調査と、護衛の体制作りは俺に任せてくれ。マリアは体調を整えることと、向こうで気後れしなくて済むよう、社交を学べ」 


 とてもではないが、気が進まない。肩がドンッと重くなったような気がする。

 

「ベルシア訪問は、たぶん王太后対マリアの戦いになる。俺たちが出来る限り守るが、お前自身が力を付けないといけない。きついのは分かるよ。なんでも手伝う。頑張ってくれ」


 そう言う兄の目は、いつの間にか凄く真剣なものに変わっていた。



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