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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
【第二部】第二王子の侍女マリア

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旅行の打ち合わせ


 今更、濁して言っても仕方が無いのだけど、あまりあからさまに言われると、会話が殺伐としてくる。 私は兄をキッと睨んだ。


「そう思っても、もう少し柔らかい表現を使ってください。心臓に負担が大きいです」


「そうか? じゃあ、俺たち全員が動けなくなって、引き取りに来る事になる、とか? それでのこのこやって来たお前は、一人で王太后の手の内に落ちるんだ」


 聞いていてげんなりした。

 騎士って頭の中が単純なのかしら。いいえ、違う。お兄様の頭の中と言葉が簡潔すぎるのだ。


「いいです。もうはっきり話しましょう。現実が厳しいのだから、どう言い換えても、内容は同じですね」


 そう言う私の横に、いつの間にかブライアン様が寄り添うように立っていた。


「何とかして途中からでもベルシアに向かいます。あなたを一人であそこに置いてはおけない。何を於いても、絶対に行きます」


「私だって、もちろんお嬢様から片時も離れません。毒見もしっかりいたします」


「王家の招待だから、毒は使わないはずよ。面目がつぶれるもの。そこは大丈夫だと思うの。それに、私を不幸にしたいのだから、そんなにすぐ殺さないでしょう。もっと陰惨な手を用意すると思うのよ」


 ベルが突然、涙目ですがりついた。


「そんな怖い事、そんなにあっさりと言わないでください」


 ふと見ると、ブライアン様も、ロイドも当惑したような表情になっている。


「お前、俺にああ言っておいて、自分の方があからさまじゃないか」


 兄がげんなりしたように言った。


「あら、お兄様に影響されてしまったみたい」


 そう言って笑ってごまかしたけど、本当は違うと分かっていた。


 私は一度死んだ事があるのだ。多分少し、普通の人たちと感覚が違うのだろう。しかも、今回の生でも、その同じ時期に死ぬのではないか、という疑いが消せない。


 私にとって、死は凄く身近にあるもの。

 騎士として死に向き合う、お兄様やブライアン様とは、また違った位置にそれはある。

 もっと言動に気を付けないといけない。


「まあ、いいか。まずは行きの六日間は問題ないと思う。行きに何かあったら会えないからな」


 そこで、ロイドが声を上げた。


「エリック様、ベルシア王宮まで六日間というのは、旅に慣れた方用の日程で、女性方が同行される場合は、もう一日か二日、余分に日程を見たほうがよろしいでしょう」


「あーそうだな。ゆっくり行かないと、面倒が起こりそうだ。じゃあ、八日間」


「皆様方の従者として、最低で侍女三名と従者一名が同行することになります。そのまとめ役が必要です。また、王家との対応を円滑に行うためにも、クルス家の執事である私が、その任に当たるのが一番だと思われます。私も同行させていただきたく存じます」


 ブライアン様がほっとしたようにロイドの方を向いた。 

 

「賛成だ。ぜひロイドについて行って欲しい」


 兄は髪に手を突っ込んで、わしゃわしゃと掻き上げた。薄茶色の髪がボワッと立ち上がる。

 私の髪と同じだけど、短いからそんなに困らなそうだ。

 好きになった女性に、長髪が好きとか言われたら伸ばすのかしら。そしたら、ナイトキャップは必需品よ。

 その姿を想像して笑いそうになってしまった。


 そんな私を怪訝そうに睨んで、兄が言った。


「それが良いだろうな。俺一人じゃ、女どものヒステリーを抑えられない」


 ムッとしたが、ロイドが同行することには大賛成。それに、八日間もの旅は初めてだから、道中がどんな風なのか全くわからない。


 ロイドは、「さっそく旦那様に御相談いたします。これから、忙しくなりますね」とニコニコしている。


「次はベルシアでの過ごし方だな。石は向こうに戻っていて、今は王太子が加護を受けている。関わった密偵は皆死んでしまったから、我々が石の秘密を知っていることは伝わっていない。石に関するトラブルは終わったと思っていいかな」


 兄は皆の顔を見回し、最後に私に視線を向けた。


「終わったはずです。そう言えば母は祖母の扇子の要の事を知っているわ。口止めしておいた方がいいかしら」


「夫人が知っているのは、扇子の飾り金具としての石だろ。そのままの方が良くないか?」


 ブライアン様が提案すると、兄と私は目を見かわし、頷いた。特に問題は無いし、誰も何も知らないのも不自然だ。


「母には王太后様が怖い人だという事だけ、耳打ちしておこうと思います。王宮での噂としてです。警戒しておいてもらったほうがいいですから」


「あの母に、そんな腹芸ができるのかな?」


 兄が不安そうに聞き返してきたが、横からロイドの楽しそうな声がそれに答えた。


「それは大丈夫でございます。奥様はそれが出来る方です。特に社交に関しての振る舞いは得意分野でしょう。判断に関しては、少々甘い部分がおありですが、ちゃんと前もってお伝えしたら大丈夫です。むしろ戦力になるかと」


「私もおばあさまから、同じような事を聞いたことがあるの。どんな風なのかは知らないけれど」


 そう言うと、兄は更に疑い深そうに私とロイドを交互に見た。


「話すときは、俺も同席するからな。じゃあ残る問題は、祖母に対する王太后の逆恨みだけか。マ―カス王が記憶を取り戻した時に、何か揉めたとして、俺たちにはどうにもできない。どうしたら気が収まるのか見当もつかない」


「大叔母様の話で、少しでも様子が分かるといいわね。後は、ベルシアで情報を探るしかないわ」


 ベルが勢い込んで前に出て来た。


「私、あちらの使用人たちと仲良くして、情報を集めます。お嬢様が刺繍したリボンや、ちょっとした小物をたくさん用意しましょう。すぐに打ち解けてみせます」


 やる気満々のベルに、「頼もしいな」と笑いかけてから、また私の方に視線を投げて来た。


「護衛はどうする? 知らぬ態で行くなら、たくさん引き連れてはいけないぞ。小数精鋭だな」


「伯爵家の護衛騎士だけでは心許ない。王妃様に仕える、女性騎士をお借りする」


 兄の言葉に対し、ブライアン様がきっぱりと言った。

 

「そんなことができるのですか?」


「女性が三名も出かけるのだから、常に身近に控える女性騎士がいたほうがいい。私から王妃様にお願いしよう」


 クルス家の面々は怪訝そうな表情になっている。王妃様の護衛騎士を借りるなんて、できるのだろうか。

 それ以前に、そんなことを願い出るだけで、不興を買いそうだ。


 ブライアン様は、なぜか申し訳なさそうに言った。


「我が家に女性騎士がいればいいのだが、なにせ姉妹がいないので、その必要がなかった。優秀な女性騎士は王妃様付きの数人しか知らないんだ」


 私は周囲を見回し、様子をうかがった。

 そして代表で問いかけた。


「一介の貴族が王妃さまに願うには、不興を通り越して、不敬を問われかねない気がします。そうではありませんか?」


 ブライアン様が目の前に立った。相変わらず素早い。


「お任せください。叔母様には一つ貸しがあります。一番目端の利く者をもぎ取ってきます」


 そういう問題だろうか。

 不安になって、兄に目で救いを求めた。


「副団長。その願い出をクルス家から行うのは無理です。他家との関係もありますから。それを考えた上でのお話でしょうか」


「もちろんだ。マリア嬢を、王妃様からの弔問と友好の使者とするよう働きかける。女性騎士が同行してもおかしくないだろ」


 おおーと声が重なった。

 それなら、ごく自然だ。

 


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― 新着の感想 ―
疑問なのですが *石の謎3〜4でヒロインが持つと光ると描写があり、扇子に祈って回帰したと自分でもなんとなく理解している。 *隣国の密偵?の男性が持ち主が持つと光る    の様な発言をしている。それだけ…
お兄さん立派になって(; ・`д・´)ヨヨヨ 登場後の数話は最低な兄だったのに変わりましたね。お母さんもこれから急に有能な母に変身するんでしょうか。 そしてベルシアの王太子は加護を持ってると嘘をついて…
ひどい目に合う可能性が高いとわかっていて行かなくてはいけないというのはキツイですねぇ。 ロイドがついてきてくれるのは心強いです。 でもマリア嬢、少なくとも1回目はジェイソンとメリーはマリア嬢よりあとに…
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