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【書籍化進行中】この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第五章 ブライアンの怒り

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帰国時の一幕

 キャンキャンキャンキャン......

 チャックが吠えている。

 マリアを見て興奮しきって、近くに行こうと必死なのに、その前足は宙を掻いている。

 首にはジョエル様が送ってくれた首輪。

 その首輪からリードが長く伸び、先は柱に縛られている。


「あの、ジョエル様。なぜ室内でチャックにリードを付けているのですか?」


「やあ、久しぶり。マリア嬢。こいつ君を探して脱走するようになってさ。仕方なしに、こうやって長めのリードを付けている」


「まあ」と言って、マリアが一歩チャックの方に踏み出す。

 チャックは前足が届かないのを悟ったのか、今度はお尻をマリアの方に向けて、後足を思いっきり伸ばした。その足先がマリアのスカートに触れると、床に伸びたまま、満足そうにキュウと声を漏らす。

 皆その姿に呆れてしまった。


「その根性に負けたよ。もう脱走することもないだろうし、リードを外そうか」


 ジョエルが、かがんで首輪からリードを外す。

 自由になったチャックはその肩を踏み台にして、マリアに向かってジャンプした。


 そのチャックを、ブライアンが宙でガシッと掴む。


「足が汚い。マリア嬢のドレスが汚れる。ジョエル抱いていてくれ」


 手を前に伸ばしかけていたマリアが、ポカンとブライアンの方を見る。


「え、何言ってるのさ。そんな訳ないよ、室内なのだから」


 そう言ってジョエルは周囲を見回す。

 だがエマとベルはそれとなく視線を外す。そしてブライアンの行動を咎める風でもない。

 狐につままれたような表情のまま、ジョエルは暴れるチャックを受け取った。


 チャックが、ブライアンに向かって「ガウッ」と低く唸る。

 

「えっ! チャックが、ガウッって言った。おいチャック、いつものお前じゃない。ブライアンも、なんだよ」


 そう言った次の瞬間、ジョエルがのけぞり、一歩後ろに下がった。

 

「ブライアン、何だよその殺気」


 驚くジョエルをよそに、殺気を引っ込めたブライアンは、にこやかにマリアに腕を伸ばす。


「さあ、マリア嬢。王妃様にご挨拶に行きましょう」


 マリアはブライアンを軽く睨み、チャックをジョエルから受け取り、抱きしめた。

 チャックは怯えてぶるぶる震えている。


「怖かったわね、チャック。もう大丈夫よ」

 

 チャックの震えが止み、マリアの胸にくたっと凭れかかると、キュウキュウと甘えた声を出す。

 ブライアンが怖い顔付きで近寄ってくると、マリアが身を引いて避けた。


「どうしてチャックを怖がらせるのですか? こんな小さな子に殺気を放つなんて、見損ないましたわ」


 衝撃を受けて声の出ないブライアンを置いて、マリアはジョエルに声を掛けた。


「もし差し支えなければですが、王妃様への御挨拶にお付き合いいただけないでしょうか。チャックを抱いたままでは失礼ですが、チャックの様子も心配です」


 マリアは王妃代理行事の報告と帰国挨拶のため、家族と別れて王宮に直行していた。この日は王宮の自室に泊まる。


「ああ、それはいいけど。何かあった?」

 

 ジョエルはブライアンの方を横目で見て言う。


「特には、何も。ブライアン様らしくないですわ」


 ジョエルがもう一度、エマとベルに目を据えた。ジーッと見詰めていると、エマが折れた。

 ベルはポーカーフェイスを崩さない。


「帰路で、ほんのちょっとしたことがありまして。お気になさらず」


「ほんのちょっと?」そう言って、ジョエルは固まっているブライアンを眺める。


「大した『ほんのちょっと』だね。事件の報告は受けている。でも、その『ほんのちょっと』は初耳だな」


 それからマリアに向かって、ブライアンを慰めてやってくれと頼んだ。


「これじゃあ、やり難くて仕方無いよ。僕のチャックと従兄弟のブライアンが不仲では困る」


 マリアはチャックを抱いたまま、ブライアンの前に立った。


「ブライアン様、一体どうなさったのですか? 弱い物いじめなんて、あなたらしくありません」


「......申し訳ありません」


 ブライアンは、しょんぼりと肩を落としている。

 マリアは、片手をブライアンの髪に伸ばし、前髪を掬い上げた。


「まあ、変なブライアン様。今日は良く休んでください。そうすればすっきりしますわ」


 ブライアンはマリアの手をそっと握り、「そうですね」と微笑んだ。

 それから、ゆっくりチャックの頭を撫で、手を差し出した。

 チャックは恐る恐るその手を嗅ぎ、ペロッと舐めた。それを見たマリアはほっとした様子だ。


「さあ、では王妃様への報告に参りましょう。難しい話は後日で、今日は無事に戻ったご報告だけです。私も今日はゆっくり休みたいわ」


 ブライアンが目を輝かせ、口を開きかけた。


「チャック、今日は一緒に寝ましょうか。これっきりよ、勝手にベッドへ潜り込んでは駄目ですからね」


 そう言いながらチャックに頬ずりすると、チャックは嬉しそうにマリアの顔を舐めた。

 反対にブライアンは肩を落とす。

 エマとこそこそ話していたジョエルが、それに気付いた。

 すたすたと寄ってきて、慰めるような表情で、その肩に手を置いた。


「飲むなら付き合う」




 ブライアンと共に王妃への挨拶を済ませた後、部屋から出たマリアはジョエルの元に急いだ。ジョエルは近くのテラスにいる。

 自分が同行すると、「また甘やかす」と母に叱られそうだと言い、エマとベルと三人でチャックと遊んでくれていた。


「では私は部屋に下がります。ジョエル殿下、ありがとうございました。ブライアン様、よくお休みください」

 

 そう告げてチャックを抱き上げ、部屋に戻ろうとしたマリアを、ジョエルが呼び止めた。


「マリア嬢、恋人への挨拶は?」


「あっ」と小さく声を上げ、マリアはブライアンの元に小走りで戻る。

 そして頬にチュッと軽いキスをすると、はにかんだ様子で下を向き、踵を返した。

 見送るブライアンは、また固まっている。

 ジョエルが、「ほー」と変な声を出してマリアの後ろ姿を見送り、視線をブライアンに戻した。


「恋人には昇格したわけだ。良かったな」



~~* 平和な日常が、一応戻ってきました *~~


「この結婚、死んでも嫌です」の大きく前半部分完結です。

しばらく書籍化の作業が入ると思うので(初めてなので見当が付きません)、後半まで数か月開ける予定です。12月くらいになるかと、漠然と考えています。

決まったら、活動報告を出します。

その間、時々番外編を上げると思いますので、読んでいただけると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
さすがにブライアン、不憫・・・ あくまでポーカーフェイスを貫くベルは侍女の鑑、エマから事情を聞いたらジョエルも援護せずにはいられないと。 「恋人」には昇格しているんだから、でもマリアだから? この三角…
書籍化おめでとうございます。 マリアのお話も続くとのことで嬉しい限り。 時間が空くのは寂しいけれど、再開を楽しみにお待ちします。 これから猛暑が続きますので、お身体にはくれぐれもお気をつけて。書籍化作…
ブライアンドンマイ!!!(笑) 犬に負けてる恋人だけど、最後の挨拶のホッペにチューでHPは全回復ですね!! マリアの無自覚小悪魔最高ですね!! 書籍化作業頑張って下さい。応援しています!
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