4-21 信じた道
「……レガルドの槍……」
俺が呟くとノアさんは続ける。
「うん。レガルドの槍として私は生きてきた」
俺は拳を握りしめる。
俺たちがこんな生活をしているのは王国のせいだ。
技術も土地も何もかもを俺たちから搾取してくる。
王国の外の人間は働きアリのようにこき使っていらなくなったら捨てる。
「……レイルも、レガルドの槍なのか」
俺は歯を食いしばりながら聞く。
「レイルは……違う。レイルは王国とは何も関係ない」
「何も関係ないなんて信じれるわけないだろ!」
声が大きくなってしまう。
「お前がレガルドの槍ならレイルも王国の人間に決まってる!」
「それは……」
ノアさんは黙り込む。
俺はノアさんの方へ近づく。
「ケビンさんと何を約束した。ケビンさんまで騙す気なのか?」
俺は顔が触れそうなくらい、彼女に顔を近づける。
「違う。私は……ただ……」
「はっきり言え!」
「俺は遊びでここに来たわけじゃないんだ!」
俺の言葉にノアさんはパッと目を見開く。
「何が本当で誰を信じればいいんだよ!」
「お前ら言ってることが全員違ってわかんねーよ!」
俺は感情のまま、言葉を続ける。
「何が真実なんだよ!お前は本当にレガルドの槍なのか!レイルはお前のことを道具としか思ってないのか!ケビンさんは俺に嘘をついてるのか!」
「もう何にもわかんねぇよ……」
俺は地面に膝をつき、ベッドに崩れ落ちる。
「お前は本当に王国に帰りたいのか……俺は、どうすればいいんだよ……」
想いのまま叫んだ。
自分でも何を言ってるかなんてわからない。
「……私もわかんないよ…」
ノアさんが口を開く。
鼻水を啜る音だけが聞こえてくる。
「お前もわかんねーなら誰にわかるんだよ……」
俺は起き上がりベッドにもたれかかる。
「……出ていって」
弱々しい声が俺の耳に届く。
「そんな力、もう残ってねーよ」
「出てけ!」
力強い声になって帰ってくる。
俺はノアさんの方を見る。
涙を流しながら彼女は俺に向かって叫ぶ。
「私の心がおかしくなる前に出てって!」
「なんでおかしくなるんだよ……帰りたいんだろ」
「うるさいうるさい!もうやめて!」
ノアさんはそう言って枕を顔に押し当てる。
「お前も……同じなんだな……」
「俺と一緒で、何にも知らないんだ」
俺は立ち上がる。
ノアさんは枕を下げ、視線だけを俺に送る。
「俺は出てく。どうすればいいか分かったから」
俺は一歩ずつ扉へと向かっていく。
後ろからはぜぇぜぇと泣き叫んだノアさんの呼吸音だけが聞こえる。
「俺は進む。あんたと違って知りたいんだ」
「自分の信じれる答えを」
――ギィィィ
大きな音を立てながら扉を開く。
俺は扉を開けたまま自分の家へと帰った。
――――
「これが俺の知ってるノアさんだ」
「レイルの知ってるノアさんと一緒か」
フウジが問う。
「こんな取り乱してるノアを知るわけないでしょ!」
「大大大ピンチじゃない!」
サラが大声で叫ぶ。
「そうだフウジ!ノアはこんな取り乱すような人じゃない!」
「レイルの話でそのことはなんとなく分かった」
フウジは立ち上がり、膝を叩く。
――バシン
いい音がなった。
迷いのない、気持ちのいい音だ。
「俺は分かんないからレイルをノアさんに会わせて確かめてみることにする」
フウジは俺の顔を見る。
「それでいいよな」
ニヤリとフウジは笑う。
「はぁ?それなら最初から手伝いなさいよ」
サラが文句を言いながら立ち上がる。
「確認なんだけど、ノアは王国に帰りたがってるってケビンは言ってたんだよな」
「そうだ。何が本当かは分かんねーけど」
フウジの答えを聞いて俺も立ち上がる。
「はやく行こう!」
「おう!」
「おっけー」
フウジとサラは同時に答える。
「おし!こっちだ」
フウジが真っ先に家を飛び出していく。
俺とサラもその背中を追っていく。
外に出るとケビンが帰ってきた時のような賑やかな音はしない。
「変な街ね」
サラが俺に向かって話しかけてくる。
「そうだよな。なんで、こんな組織に感謝してるんだろうな」
「それは、なんとなくわかるでしょ」
サラが呆れた顔で俺の方を見ている。
「二人とも止まれ!」
前を走っていたフウジが急に止まる。
「ちょっと、急に止まらないでよ!」
「あんたにぶつかって吹き飛ばすよ!」
サラが凄いことを言っている。
「おいおいフウジ。なにやってんだ。うちの街に侵入してきた王国の手先が逃げ出したって時に」
フードを被った人物達が出てくる。
建物の隙間。
俺たちの背後。
俺たちの前方。
全て足すとザッと三十人はいる。
「なんのつもりだよ」
フウジが言い返す。
「なんのつもりって、お前が王国の手先を庇ってるからだろ」
「こいつは王国の手先なんかじゃねーよ」
フウジは言い切る。
「なにか確信があるのか?」
「俺がそう信じたい」
フードの男達がナイフを取り出す。
何人かはジオガンを構えている。
「うわぁー、これ嵌められた?」
サラが俺に向かって聞いてくる。
「フウジはそんな奴じゃない」
「まぁ、そう言うと思ったよ」
サラと俺は背中を合わせる。
サラの羽が邪魔で気持ち悪い感覚。
「フウジ、考え直せ。今ならまだ間に合う」
「考え抜いた結果がこれなんだ」
「邪魔してくるならぶっ飛ばして本部まで行くからな」
フウジはそう言ってリーダー格の人物を殴り飛ばす。
リーダー格の人物は宙に浮く。
――バタタタ
地面を滑っていき、すぐに止まる。
周囲のフードの人物達の動きが固まる。
「いくぞ!二人とも」
フウジは前方を駆け抜け、フードの男達の間を抜けていく。
「俺たちも行こう」
サラを掴んで俺も走り始める。
――ビュン
紫色の線が視界に映る。
「うわぁ」
俺は咄嗟に体を捻り、なんとか躱す。
「なんなのこれ、凄く濃い脈気を感じた……」
「これはジオガンって言って――」
――ビュン
また、俺たちを目掛けて飛んでくる。
俺は地面を強く蹴りなんとか避ける。
「説明はいいから!」
サラが叫ぶ。
「これどうすればいいの!」
ジオガンを撃った人物の手から白い線がするすると地面に落ちていくのが見えた。
――ビュンビュン
ジオガンを撃つのをフードの人物達はやめない。
ジオガンを撃たれるたびに俺は脈気を使って地面を蹴る。
「とりあえずあっち行こ!あっち!」
サラはそう言うと俺の手を掴む。
「飛ぶよ!」
サラは脈気を足に集めて上へ向かって飛び上がる。
――ビュンビュンビュンビュン
ジオガンの線がサラに向かって飛んでいく。
「それはダメだ」
俺はつま先に脈気を集める。
そして足で線を違う方向へ蹴り飛ばす。
――スタン
サラはなんとか建物の屋上へと着地する。
「近接戦闘の奴らは追え!」
下から声が聞こえてくる。
「サラ、ジオガンは龍脈っていうなんか身体にあるあれをな――」
「そんなことどうでもいいから!」
「ここからどうするの」
建物が揺れている。
至る所に亀裂のある建物だ。
大勢の人物が昇ってきている振動が直接伝わってくる。
「ジオガンを撃つ時、白い線が落ちるのが見えた!多分今もその脈気は地面に落ちたままだ」
「おっけー、それを回収しながらあいつらを叩き潰せばいいのね」
サラはそう言うと屋上から飛び降りていった。
――ビュンビュン
ジオガンを撃つ音が聞こえる。
「まだいるぞ!お前ら来い!」
階段からフードの人物達が昇ってくる。
俺もサラの後を追って屋上から飛び降りた。
下を見るとサラが地面や空中を水の中にいるかのように泳いで移動している。
サラにこんな力があったなんて……
――ビュンビュン
俺に向かって紫色の線が飛んでくる。
――反応できない!
急に視界が暗くなる。
――ドサ
俺は地面に投げ落とされる。
「ボサボサしてないで!」
サラが俺に叫びながらフードの人物にぶつかる。
ぶつかった人物はその場に倒れ込む。
手からジオガンが滑り落ちる。
サラはそれを踏み潰す。
――バキバキパシィン
枯れ葉を踏んだような音が響く。
淡い光を放ちながら、白い線がジオガンから漏れ出してくる。
俺はサラの下まで走っていく。
「合流はさせない!」
一人の人物が俺にジオガンを向ける。
俺はそいつを気にせずサラの方へ走る。
――この脈気を取れれば……
「殺す気かバカ!」
フウジの怒鳴り声が聞こえた。
――パタン
人が倒れる音がした。




