14.M⑥.両親の出現のわけ
藤堂慎一がニヤニヤと楽しんでいる。
死んだはずの両親を目の前にしたまま、加藤緑は立ち尽くすしかない。
それは辛い現実を受け入れざるを得ないときがきたことを物語っている、と直感した。
緑は両親を、いや、元両親役の二人を複雑な視線で見た。
今まで本当の親だと思っていたのに、よりによってゲームの役だったとは。
それでも、緑は大きくひと息吐いたあと、呟いた。
「生きていて、よかった……」
嫌味ではない。緑は心から安堵した。
確かに、 圧倒的な虚偽の世界だけに、まだなにも信じられないでいる。
しかし、それはそれ、これはこれだ。
ずっと親だと思っていた二人が生きていたことは、正直ホッとする。
一方、両親の表情は嬉しそうとも、バツが悪そうとも窺える。
多分、両方だろう。
例え、ゲームのための親であっても情は移るものかもしれない。
いや、そうあってほしいと今でも思ってしまう。
そんな緑の心境を見抜いたのか、藤堂慎一がまた、鼻先で笑った。
三文芝居だとバカにするように。
「実は、あるプレイヤーが自分のキャラクターの嫁候補に君を見初めてね。取りあえず、そのキャラクターと婚約すればgame isleに戻れるんだよ」
「勝手なことを言わないで!」
と思わず叫んだ。
緑にしては珍しいことだが、15歳で、誰かもわからない男子と婚約なんて考えられるはずがない。
元父が藤堂の表情を窺っている。
そうか、と緑は気づいた。
両親役の二人は自分を説得するために呼ばれたのだろう。
元父はどう切り出していいのか、迷っているようにみえる。
できれば、話さずに済めばいいと期待しているのかもしれない。
しかし、藤堂にそんな人間らしさを望むのは間違っているようだ。
視線が早く言えと迫っているのが、緑にもわかった。
観念したのだろう。
元父の視線が緑の方に移動する。
「もちろん、すぐってわけじゃない。とりあえず、婚約だけして、あとは……」
「やめて!」
緑が話を遮った。
確かに育ててもらったが、ここまでくると話は別だ。
第一、彼はもう親でもなんでもないのだから。
そのことを一番わかっているのが彼だからこそ、ばつが悪く俯くしかないのだろう。
一方、元母は少し違う。
「 緑、あなたのためなのよ。game isleに戻れる方法はそれしかないの。戻りたいんでしょ? 太陽ちゃんがいる、あのgame isleに……」
偽りのゲームであっても、元母の気持ちは嘘ではないと思いたい。
が、母親でない以上、母性愛とは違うはず。
では、一体何の気持ちだ? と考えてしまう。
結局、答えが出ないまま、元母に対する信頼が大きく揺れる。
「太陽を裏切れっていうの」
唇を噛み締めた緑は、かつて母と呼んだ女を睨みつけた。
しかし、元母の辛そうな表情が訴えている。
自分たちのしたことは取り返しのつかないことだとわかっている。
憎まれて当然だし、親と名乗る資格なんてないこともわかっている。
だけど、お願い。緑、聞いて、と。
「この世界はあなたが思っているほど甘くないのよ。あなただけじゃないの。あの優しい太陽ちゃんが傷つくの、見たくないでしょう。わたしたちは、あなたも太陽ちゃんも守りたい。ただそれだけなの。嘘じゃないわ。本当よ。だから、お願い、わかって…… 」
彼女の頬を流れる涙が、演技だとは思えない。
自分の境遇や太陽への心配もあるけれども、 かつて母と呼んだ女の、いや、ママの心配が伝わってきたから。
憎めたらまだ楽なのに、15年間の思い出が多すぎる。
三つ子とその3組の親たち。大切な思い出が今でもキラキラ輝いている。
緑がそんなことを考えていると、冷たい第三者の声が邪魔をしてきた。
「よく聞いた方がいい。その二人も外の世界でゴミのように抹殺されそうなところを、私が拾ってやったんだ」
藤堂真一が恩着せがましく話した。
ゲームの親とはいえ、娘の前で辱めを受けている二人を見ていられなくなった緑は、
「パパとママを物みたいに言わないで」
と言ってしまった。
「緑……」
元両親の表情が一気に色づいたように見えたが、それも一瞬だった。
「フン」
またまた、藤堂が鼻先で笑った。
その場の雰囲気が緊張一色に変わったのがわかる。




