13.M⑤.思わぬ再会
藤堂は話し続ける。
自信満々に。
「その名も『リアル育成ゲーム』。我々はテログループが拉致した赤ちゃんを買い取り、養子縁組をする。それから、game isleに住まわせ、その子どもたちを育てるゲームのプレイヤーを募集した。つまり、本物の子どもたちが育成ゲームのキャラクターというわけだ。バカバカしいと思うだろう。しかし、これが当たってね。高額なのに、プレイヤーの希望者は殺到した。そのリアル育成ゲームのステージが、game isleなんだよ。game isleには、多くの場所に超小型の動画カメラが組み込まれている。家の中や公共の場所だけでなく、多くのところに。意識して探しても発見するのは至難の技だろう。被ゲーム者、つまりキャラクターの生活ぶりを、映像としてプレイヤーに送るためだ。さすがに、プライベートゾーンはアニメになるけどね。離れた都会に住むプレイヤーは、子どもの生活ぶりを映像で見ながら、どう育てるか、細かく指示を出す。親に扮したわが社の社員が、その指示通りに育てるといった具合にね。まさか、と思うだろう。だが、大人が本気になれば、子供を支配するのは案外簡単だ。つまり、子どもたちは物心がつく前から親の言うことは絶対、と洗脳されているわけだ。進路も夢も結婚も、人生のすべてが。このゲームはプレイヤーの指示通りに育つというプログラムが前提だからだ。もちろん、当事者には極秘だ。子どもたちは自分で選択したと思っているよ。それは君が一番わかっているだろう」
藤堂真一の視線が、緑の顔色を伺ってくる。
確かに、なにも気づかなかったことは本当だ。
と一旦思って直ぐ、
「いいえ、待って」
と緑は頭を振った。
藤堂の話を信じるには、あまりにも不可解すぎる。
元々が嘘ならば、なにも気づかなくて当然なのだから。
緑の気持ちを読んだのか、藤堂真一が再び話し始める。
「その一方で、南部大地のようにゲーム者から選ばれなかったキャラクターたちは、子どもの頃から我が社の社員となり、被ゲーム者の友達役を演じている。それも洗脳によってね。つまり、game isleは全て、育成ゲームのために作られたものなのだよ。君も太陽もリアル育成ゲームの被ゲーム者、キャラクターにすぎないというわけだ」
こんなとんでもない局面にぶち当たっているというのに、緑は他のことを考え始めた。
地球が平坦だと信じられていた時代、初めて球体だと聞いて、どれだけの人間が理解できただろう。
天動説が当然の時代、地動説を聞いて、どれだけの人が受け入れたことだろう。
15年間生きてきて、自分が動いている球体の上で生活しているなんて、実感したことなどないのだから。
なぜ、こんな時に、そんなことを考えたのか、緑自身不思議だった。
いつの間にか、話が終わっていると気づいたとき、藤堂が冷たく微笑みかけてきた。
反射的に恐怖を感じた緑は、やっと気づいた。
藤堂は話を終えたのではない。
わざと、この沈黙をつくったのだろう。
これから話すことを強調するために。
「ところが、君のプレイヤーがリセットしてね。キャラクターのチェンジを申し出てきた。つまり、君はゲームオーバーになったというわけだ。そこで、どうだろう。わが社の社員にならないかね?」
緑は愕然とした。
どんなに説明されても、15年という時間は、生活はたった数分の説明で覆されるほど軽いものではない。
緑にとって、両親や友達、特に太陽との思い出は、大切な宝物であるのは間違いない。
game isleも大好きなふるさとだった。
それが全て作り物だったとは、納得できるはずがない。
皮肉にも、それだけ幸せだったということか、と一旦は思いかけて、緑は慌てて否定する。
なにかが違う。絶対違う。
考えろ。
考えろ。
考えろ。
あ、と緑は藁にもすがる思いで閃いた。
「だって、パパとママは現実に死んじゃったのよ。ゲームなんかじゃないでしょ」
確かに、この目ではっきりと両親の遺体を見たではないか、と緑は自分に言い聞かせる。
ところが、藤堂の顔から笑みは消えていない。
緑は背筋がゾッとした。
太陽を守るためにしっかりしなければと、頑張ってきたつもりだ。
しかし、藤堂のずる賢さは自分の遥か上をいくと直感し、緑は鳥肌が立った。
ずる賢い藤堂が再び、鼻先で笑う。
それは、か弱い獲物を狩るときの癖に違いない 。
なにかが起こる、と嫌な予感が走った途端、ドアが開き、侵入者の気配に気づいた。
その顔を見るなり、ふらついた緑は、思わずソファーの背に手をつき、なんとか倒れることだけは免れた。
震える唇が声を絞り出す。
「パパ……? ママ……?」




