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12.M④.リアル育成ゲームの実態

 巨大な雪男が雲を突き抜けている。

 叔父に導かれるままフェリーでgame(ゲーム) isle(アイル)を出た緑は、都会の白くて巨大なビルを前に恐怖を覚えた。

 生憎あいにく天候が悪く、空一面を覆う黒い雲が天を低くしているからだろう。

 真下から見上げるそのビルは、あまりにも冷たく巨大すぎて、得体の知れない真っ白な怪物のように思えたのだ。

 少なくとも、緑が生まれ育ったgame(ゲーム) isle(アイル)には、こんな冷たいビルはなく、もっと夢のある建造物ばかりだった。

 この巨大な化け物に飲み込まれたら一溜ひとたまりもないと、緑は()()づきそうになった。

 game(ゲーム) isle(アイル)を出るのも初めてなら、都会の映像さえ見たことがないのだから、それも仕方ないよね、と自分を慰める。


 その恐怖は既に都会の港に降り立ったときから始まっていた。

 重々しい銃を持った十数人の警官隊や武装した軍人に囲まれ、厳しい命令口調で身元確認を要求されたとき、緑は自分の名前なのに噛んでしまった。


「なんの目的で来たんだ?」


 と訊かれただけで、怒鳴られている気分になったほどである。

 その不気味さは、港からの道中も続く。

 車窓から覗ける街並みの一部では、建物が崩壊され、半ば廃墟と化している場所さえ目に入ってきた。

 昼間だというのに、一般人の姿はほとんど見かけず、厳しい顔をした警官隊や軍人ばかりだ。

 この国がテログループと内戦状態であることは、聞いて知っている。


game(ゲーム) isle(アイル)の外は危険だ」


 よく耳にした、両親や大人たちの注意は迷信ではなかったのだと、今更ながらに納得せざるを得ない。


 緑は、そんなことを思い出していた。

 頭の中が整理されていないからはっきりしないが、あのときのイヤな予感は当たっているような気がした。

 と同時に、頭の別の場所で、大地の言葉がリフレインしていた。


「命令どおり、太陽に近藤梓を紹介しました。必ず、緑のことはきっぱりと忘れさせてみせます」


 あれは確かに、大地の声だった。

 15年間、兄妹のように付き合ってきたのだ。

 聞き間違うはずがない。

 なのに、話の内容はまったく理解できなかった。

 大地は一体、なにを言っているの? 


 そんな緑の心情に気づいたのか、叔父はニヤッと笑い、受話器に、


「次の報告を期待している」


 そう告げると、ゆっくり時間をかけて、受話器を置いた。

 まるで、緑の唖然としている表情を楽しむかのように。


「そう、わたしはこの会社、☆TSgame(ゲーム)-Co.(カンパニー)のCEOだ。もちろん、君の叔父ではない」


「ん~……」

 

 緑は小さな声で唸った。

 頭の中がショートしたように、考えることを拒否しているのうだった。


 加藤緑の思考回路は、昨日からの出来事を理論的に理解しようとフル回転した。

 母の加藤恵美は確かに、藤堂真一を自分の兄だと話した。

 初めてgame(ゲーム) isle(アイル)の病院で会ったとき、藤堂真一も母の兄で、君の叔父だと自己紹介した。

 なぜ、普通の女子中学生にそんな嘘をつかなければならないのか? 

 どんな必要性や優位性があるのか? 

 どうしても、緑にはその理由が思い当たらなかった。

 緑に視線を向けたまま、藤堂がCEO席の机上に新聞を投げ置いた。

 明らかに、緑に見せることを意識している。

 その新聞の見出しには、

『再び、各地で若者によるテロ事件続発。特に地方都市では内戦状態続く』

 と書かれている。

 困惑を隠し切れない緑の表情を確認した藤堂は、次に、テレビのリモコンのスイッチを押した。

 壁に埋め込まれた大きなディスプレイの中に、地方都市で起こっている自爆テロのライブ映像が映し出された。

 雑踏の中、地元のニュースキャスターが叫ぶ。


只今ただいま入った情報によりますと、死者50名、負傷者100名を超えると発表されました。犠牲者はこれからもっと増える見込みです」


 藤堂は、驚いている緑を楽しむように話し始めた。


「数十年前から、この異世界全体でゲーム需要が急降下し、この国の各ゲーム会社は少ない顧客を奪い合い、仁義なき戦いが始まった。その結果、ある巨大なテログループが生み出された。彼らは力ずくで子供たちを拉致・洗脳し、親をも殺す戦士に育てあげた。だから、多くの若い夫婦は怖くて子供を持てないでいる。そこで、わたしは思いついたのだよ。本物の子供で育成ゲームをやってみようと。つまり、育成ゲームの実写版だ」

「育成ゲームの実写版……?」


 頭の中で藤堂の説明を復唱するが、緑には理解不能のままだ。


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