偽りの安寧の真実
「あの男は、裏路地を救ってもそこにいる者達全てを救ったわけではなかったの」
ラファリスはそう言うと、精を送るのを終え、ぐったりと横になる。
「ママ!」
「ママ! 無理しないで!」
サキュバス達も心配なのか、ラファリスの周りで心配していた。ラファリスはようやく落ち着けるのか、やつれた顔で事情を説明する。
「まず、裏路地から争いがなくなり、住む人の大半が平和になった、そこは良いわね」
「うん、そうだけど…」
「でも彼の狙いはあたりはしたけど、裏路地にある不和を生んだ」
「それって…もしかしてボク達が仕事を無くした事?」
そう言うとラファリスは頷いた。
「そう、あなた達組織の人間が仕事を無くし、路頭に迷う事となった。それは、私たちも同じ」
ラファリスは周りのサキュバスを見て言う。
「彼は普通の人間の生活を予見しても、サキュバスや仕事で暮らす人たちの生活までは予見しなかった。その結果、仕事をもつ者は職にあぶれ、サキュバスは精を吸う行き場をなくした」
彼女はため息をつくとこんなことを言い出す。
「渚、間引きはなぜ行われるか知ってる?」
「そんなの知らないよ! ボク学校行ったこと無いもん!」
「間引きはね、家畜の数を減らすことで、土地のバランスの調整やそれによる健康な個体を増やすことを目的としてるの、けどそのバランスが崩れた今、今の裏路地は、死に絶えかけてるものが増えてる」
ラファリスは渚に尻尾を差し出すと、淡く光らせた。
「あなたも今のうちに精を受け取っておきなさい。禁断症状になる前に」
「ボクは…」
渚はラファリスに尻尾を合わせかける。だが途中でやめた。
「ボクは、貰わない。これ以上ママを、苦しめたくはない」
渚は立ち上がると、教会の外へ向かおうとする。
「渚? でも貴方には、禁断症状が…」
ラファリスは起き上がって渚を心配する。
「そんなの、気合いでなんとか乗り切るよ、エナドリは後数本残ってる、その数本全部がぶ飲みすれば一回戦うくらいはもつよ」
一回戦うと聞いて渚が何をするのか、ラファリスは察した。
「一回って…渚! よしなさい!」
「……大丈夫、ボクは死なないよ、それに、とっておきも用意してくつもりだからさ、だからボクがまたここに来たらさ、妹達と一緒に元気な姿で迎えてほしいな、だからそれまで、精を溜め込んでて、また元気なママで出迎えて。
「渚…」
渚はそう言うと、教会から去ろうとする。すると、他のサキュバス達から声をかけられた
「渚お姉ちゃん!」
「渚!」
「渚姉さん!」
渚はそう言われるとふと止まる。
「必ず、勝ってきて! あの男に一発喰らわせて来て!」
「ママは私たちが世話するから! だからお願い! この裏路地を守って!」
その言葉を聞くと、渚は少しだけ張り向き、片手でサムズアップを妹達に送り。そこから去っていったのだった。
ーーー
ギルドに戻ってくると、渚は急ぎ足で自分の部屋のある2階まで駆け上がる。
「おい! ただいまも言わずに何をしに来た⁉︎」
ジェフリーが思わず渚の部屋へと駆け込む。このギルドの渚の部屋だが、相変わらず散らかっており、ゴミだらけになっていた。
そんな中、渚は小型冷蔵庫を漁ると、まだ余っていた数本のエナドリを、全部開けては一気飲みした。
「おい! それって! 一気に飲んじゃ不味いやつだろ! 何勝手に飲んで…!」
「…んくっ…ごくっ……ぷへぁ…! んぷっ……ちょい吐きそ……」
大容量のエナドリを三本も体に収めたのだ、そりゃあ吐きそうにもなる。だが渚はそれを気合いで押さえ込むと、今度はジェフリーの部屋に入り込んだ。
「お前! 人の部屋に勝手に入り込んで一体何をする気だ⁉︎」
流石にジェフリーも見てられなくなったのか、渚を掴んだ。だが強い力で渚は振り払うと言う。
「黙ってて、今忙しいから」
その目を見た時、ジェフリーは凍りついた。その瞳は。一緒に暮らし始めた頃の、よく切れるナイフのような目つきをした彼女の時と同じ目つきだった。その凄みにジェフリーは一歩二歩下がる。
渚はそんなジェフリーを気にせず、部屋の中の武器庫を物色する。
「重機関砲。対物狙撃銃、ロケットランチャー、プラズマグレネード、使えるものは全部使わなきゃ」
渚は普通なら持てない量の銃火器を取り出すと、それを全部アイテムボックスの中に入れる。ジェフリーはただただそれを見つめるだけだが、彼女が今、何をしようとしているのかだけはわかった。戦おうとしていることだけは。
「お前…何と戦うつもりだ?」
「何って……邪魔な家畜をこの裏路地から、"間引き"するんだよ」
覚えたばかりの言葉を言うと渚は武器を背負って下の階のギルドへと降りる。するとアーシェやシェスティ、ならずもの達がのんびりとしていた。
「あっ渚ちゃん、急に上の階まで行ったから驚いちゃったよ、二人で迎えに行こうかなって思ってたところでね」
いつものようにアーシェがにぱーっとして話しかける。
「アーシェ」
「何?」
「ごめん」
すると渚は思わぬ行動に出た。アーシェとダイレクトなキスをしたのだ。しかもかなりのディープキスを。
「渚ちゃ……待って…んっ……どうし……」
「渚⁉︎ ちょっと何してるの⁉︎」
アーシェも目をとろんとさせながら渚を引き剥がそうとするが、渚が強い力で押さえる為離せなかった。そして、糸を引きながら二人の唇が離れると、渚は照れながら言う。
「今は少しでも多くの精力が必要だから、だから強引にもらった。……怒っても良いから」
渚はそう言うが、アーシェは首を横にブンブン振る。
「ひ…ひや、なぎさちゃんがアグレッシブだから、ちょっとびっくりしただけ…えへへ」
「渚……一体、何をする気なの?」
シェスティが問いかけた時、渚は口を拭い、ならずもの達の方へ振り返る。
「お前ら! 酒に浸ってはぐうたらして、情けない! 本当にそれでいいのか!」
「ぐうたらって、別に俺たちゃ好きでこんなことしてるわけじゃねぇぞ!」
「そうだそうだ! 全部あの転移者が悪いんだ! 俺たちの仕事全部取っ払っていきやがって!」
ならず者達は一斉に渚にブーイングをする。だがその声を、渚はギルドのボスとして聞き届ける。
「そうだ! 全部あの男が悪い! あいつが裏路地に平和をもたらしたせいで、ボク達の仕事は全部持ってかれた! それについてどう思う!」
「許せねぇよ! 俺はお袋のために命かけて稼いでたんだ! 仕事を取られちゃ、お袋に顔向けできねぇ!」
「俺達が仕事を無くしたせいで、サキュバスの嬢ちゃん達も来なくなった! あいつらに褒めてもらうのが日課だったのによ!」
各々からの不満を全て聞き届け、渚は一つ、彼らに問いかける。
「ならば、ボク達がするべきことは一つ! あのクソ転移者に、一発鉛弾を喰らわして元の裏路地を、あの混沌としたクソみたいな街を取り戻すこと、そうじゃないか!」
「あぁ! そうしないと! 腹の虫がおさまらねぇ!」
「俺達の裏路地を返してもらわねぇとな!」
渚が銃を掲げると、男達も武器を持って掲げた。それを見て、渚はニッと笑うと言った。
「それじゃあ! ナハトヴォルフの休みはここまでだ! お前ら! ワイルドハントの時間だ! ボク達の邪魔をする奴はどうする⁉︎」
『殺す!』
「良い返事だ! 行くぞー!」
おーっと立ち上がり武器を掲げる男達と、声を上げる渚を見て、シェスティは驚き、アーシェは恍惚とした。
「凄い…あの男達を、渚が纏めてる」
「それが、渚ちゃんのカッコいいところ!」
そうして渚達はギルドを出ると、転移者のいる場所へと向かったのだった。




