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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
侵入者と不思議な劇団

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16

 ブライスはアイマルと行った調査の結果を報告してくれた。


「実のところ、絞込みができないという事が分かった。今回の壁の破壊で得をする人間しかいなかったんだ」

「――というのは?」

「まず、建物の所有者は保険に入っているのと建築会社の保証のおかげで修繕費がかさむどころか金が転がり込んでくる事になっていた」


 自損でなければ保険は下りる。確かに得しかない。ロスヴィータは頷いた。


「オーナーは、噂が払拭されて万々歳だし、それは建築会社も同じだな」

「確かに、困る要素はないな。劇団は?」


 劇団は公演に影響が出ているのだから、得があるとは言い難い状態のはずだ。ロスヴィータが問えば、ブライスがにやりと笑った。


「無償で同じ期間、再公演の契約を結んだそうだ」

「管理人もずいぶんと太っ腹だな」

「それだけうまみがあったって事だろうよ」


 なんとも全員に都合のよい方向に向かっている。


「あっ、じゃあ警備員の人たちは? 彼らは警備できていなかった訳だから……」


 エルフリートが人差し指を立て、ブライスに聞く。彼の言い分はもっともである。仕事を遂行できなかったのと同じなのだから、むしろ賠償を求められてもおかしくなかったはずだ。


「それがだな、金が入るから、と労いの意味を込めて報償が出るんだってよ。今回ぶっ倒れた奴には傷病給付金も支払われるそうだ」

「本当に損をする人がいないねぇ」


 感心するように言うエルフリートの隣で、ロスヴィータは小さく唸った。これでは全員に動機ができてしまう。


「まあ、損をするとしたら、オリアーナ劇場の悪い噂を流していた奴らくらいだろうよ」


 ふと、ロスヴィータの脳裏に疑問が浮かぶ。


「なぜ、オリアーナ劇場の悪い噂は流れているんだ?」

「あ?」


 ブライスが行儀の悪い声を出しながら首をひねる。


「つまり、だ。オリアーナ劇場のあらぬ噂を流している人間は、何のメリットがあってそうしているのか、という話だ」


 ロスヴィータはそのまま続ける。


「オリアーナ劇場の評判を落とす事で舞い降りてくるおいしい話があるか、劇場の設立時に何らかの事情で恨みを持った何者かがそれを晴らす為に動いているのか。

 いずれにしろ誉められた事ではないが、事情がなければ、噂などをばらまく原動力は生まれないだろうと思ってな」

「そりゃ、ロスの言うとおりだな」

「簡単に裏がとれないようなものを噂にするあたり、悪質だとも思わないか? ああ、これは本題から逸れてしまうから今は論議をしないでおこう」


 複数の話を同時進行するとややこしくなってしまう。ロスヴィータが話題を元に戻そうとすると、ブライスに手で制されてしまった。


「いや、もしかしたら、もしかするかもしれねぇぞ」

「どういう事だ?」


 今度はブライスが解説する番だった。


「思いついちまったんだ。噂を流して評判を下げ、壁を破壊して評判を上げ直す。話題になって目立たせたいっていう理由なら、両方が成立したところで損はしないぜ」

「なるほど。その手があるか」

「そもそも、自作自演の考えはあんたらのものだぜ」


 はちゃめちゃな少女カトレアと苦労人シップリーの姿が頭に浮かぶ。今、ロスヴィータは二人を自作自演の方向で捜査しているのだ。せっかくブライスたちと別の方向から捜査しているのに、それが無駄になってしまう。

 誰かが言葉を発する前に、とでも言うかのようにブライスが急いで一気に言った。


「そうは言っても、その路線を捜査対象に加えるとなると、容疑者の候補は無限に広がってしまう。それなら、あんたらの捜査の手伝いに加わった方がよほど建設的だと思わねぇか?」


 すぐに頷けば、結局引き入れたいのではないかと言われてしまいそうだと思ったが、ロスヴィータの頭にある事が浮かんだ。


「あなたたちがこの件を最初に伝えようとしてくれた時、私がちょうど受け取っていたあの書類を見てもらいたい」


 ロスヴィータはテーブルに書類を並べた。書類は役所で取り寄せた出生登録から現在の納税履歴まで、様々である。


「まず、カトレアとシップリーだが……別人かもしれない疑惑がある」

「あぁ?」

「それは明らかに怪しいのでは」


 アイマルが呆れ声を出すのは珍しい。確かに、この事実だけを聞けばそうなるかもしれない。


「別人かもしれないのだが、今、ここで生活し、納税しているのは彼らに間違いないんだ」

「面倒だな」

「……すり替わっている、と言いたいのか」


 ブライスが舌打ちし、アイマルが要点を分かりやすく言い換えた。


「その通りだ」


 ロスヴィータは彼の言葉に頷いてみせる。


「我々貴族は、複雑だ。『この子は私の子供です』と明らかに別人の子を連れてきても、本人の子供として登録できる。おそらく、彼らはその原理を使ってすり替えをした、もしくはすり替えられたのだと思われる」


 つまり、である。あの二人は偽物なのだった。

2025.1.6 一部加筆修正

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