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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
侵入者と不思議な劇団

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15

 ルッカを引き連れてジェレマイアと対峙したロスヴィータは、展開が大きく動く事を予感した。それもそのはず、ルッカはジェレマイアを見た途端に指をさして叫んだのだ。


「私この人知ってます!」

「……何だって?」


 この展開は想定外である。ロスヴィータの声が高くなるのも仕方ない。エルフリートはジェレマイアに「えっ、知り合いなの? どういう事?」などと噂話の真偽を問う少女のようになってしまっている。


「とある界隈ではとても有名な人物ですよ、彼」

「俺も知っている。物好きな女性騎士として界隈で有名だからな」


 ルッカの言葉にジェレマイアが返す。そういう事か。ルッカの直接的な知り合いであったら、という不安が払拭されてロスヴィータはほっと息を吐く。


「通称ロイ。どんな依頼でも完遂するという何でも屋です。依頼料は高めですが、今までの実績からすると妥当な価格ですね」


 ルッカの解説に、ジェレマイアはその通りだと言うかのように頷いた。


「魔法の技能もさることながら、体術や剣術といった肉体的技能もすばらしいと聞いています。これも今までの実績がすべて真実であるというなら納得です。今回の件だって、実力がなければ不可能だったことでしょう」


 ルッカの解説を聞き、ロスヴィータは何かが引っかかった。


「ジェレマイア、あなた……まさかとは思うが、今も依頼続行中なのではないか?」

「ええっ!?」

「悪いが、発言権をくれるか」


 驚くエルフリートのすぐそばで、何かに気付いたような表情のブライスが口を開く。

 彼は今回の尋問は女性騎士団に任せると言って壁に徹していたはずだが、口を挟まずにはいられない事情があるのだろう。


「ブライス、許可を出そう」

「ありがとう、ロス。この前の尋問、俺たちは”捕まるまでの指示”を聞いていただろ。つまり“捕まった後にどうしろと指示されていたか”について聞いていないんだ」

「……なるほど、それは盲点だったな」


 精神魔法を使った尋問許可が下りるのは、基本的に一度きりである。

 それは、逮捕者が騎士の質問に全て答えるという性質によるものだ。質問したい事に全て逮捕者が答えるのだから、複数回に分ける必要がないという趣旨である。

 今回の件に当てはめて考えれば、協力的な逮捕者であるジェレマイアに向け、二度目の精神魔法による尋問の許可が下りるとは考えにくい。

 うかつであった。ロスヴィータはこっそりと歯噛みする。


「どうだ、俺の指摘は間違っているか?」


 ブライスの問いに、ジェレマイアは小さな笑みで返事した。


「その質問自体、意味のないものだな。

 ……今、俺が合っていると答えても、答えなくても、信じられないだろう? 俺の反応ひとつひとつが指示されたものかもしれないし、そうでないかもしれない。どう判断するかはお前たちだ」


 ジェレマイアの言った事は何も間違っていない。精神魔法が使えない今、彼から渡される情報の正誤についての保証はない。

 彼に聞くだけ、惑わされる要素が増えるだけである。

 ジェレマイアがロスヴィータをじっと見上げた。お前はどうするのか。そう問われている。ジェレマイアを通して、彼の背後にいる依頼人という存在に踊らされているのだと、強く実感する。


「……今回の尋問はここまでとする」


 ロスヴィータが絞り出したのは、その一言だけだった。


「参りましたね」

「……はじめからルッカを呼んでいたら、良かったのかなぁ」


 ルッカの呟きに、エルフリートがため息とともに言葉を吐き出した。テーブルに伏せる彼は、考えが回らなかった事を後悔しているようだったが、ロスヴィータはそうは思わなかった。


「いえ、最初に呼ばれていたとしても、似たような結果になっていたかと思います」

「何で?」

「だって、こんなに複雑な事件だとは誰も最初は思っていなかったのですよね? 私だって、ボールドウィン副団長があの検証企画をすると言い出すまで、大した事件だとは思っていませんでしたから」


 ルッカの言葉は、ロスヴィータの考えそのものだった。ロスヴィータがこの事件の複雑さを強く感じたのは、ジェレマイアの尋問している最中である。

 ルッカを最初に呼んでいたとしても、予定調和であるかのように同じ展開を迎えていた事だろう。


「俺ら、踊らされ続けてんなぁ……」

「そうだな。きっとこれを仕組んだ人間は、さぞかし気分が良いだろうな」


 ブライスが背もたれに体重を預け、天井を向いて溜め息を吐いた。アイマルの方は腕を組み、眉間に皺を寄せている。二人とも疲れた顔をしているのを見て、ロスヴィータは思い出す。

 そういえば、彼らと合流した時に「何度も伝えるのは無駄だから」と言われたきり、話を聞くタイミングを逃していたのだった。


「ブライス、アイマル。我々に伝えたい事があったのだろう。情報は多い方が良い。今、教えてもらえるか?」

「ああ……そうだったな。今こそ聞いてもらった方がよさそうだ」


 そう言って、ブライスは姿勢を正した。

2025.1.6 一部加筆修正

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