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妖精と王子様のへんてこチャチャチャ(へんてこワルツ4)  作者: 魚野れん
侵入者と不思議な劇団

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24/84

12

 ロスヴィータはブライスとアイマルを引き連れ、訓練場へと向かう。訓練場へと近づくにつれ、非番らしい騎士が増えていく。


「何だぁ? ずいぶんとにぎやかじゃねぇか」

「……フリーデが、人を呼びすぎたか」


 ブライスの怪訝そうな声にアイマルの呆れ声が混ざる。ロスヴィータの頭にも一瞬過ぎった考えだったが、ずいぶんとアイマルの中でもエルフリートの突拍子のなさが認識されているようだ。

 街中かと思うような人混みの中、到着した訓練場は、ずいぶんと熱気に包まれていた。


「フリーデ」

「あっ、ロス!」


 ぶんぶんと右手を大きく振って駆け寄る彼は、とても上機嫌だ。


「あのね。高難易度の魔法、できるかな企画って言って声をかけたら、とりあえずやってみたいって有志がいっぱい集まったの」

「……厳選するのではなかったか?」


 ロスヴィータが意図せず大がかりな検証になってしまった事に驚いていると、彼は説明してくれた。


「訓練場の貸し切り許可を至急とらなきゃいけなかったでしょう? だから、厳選メンバーに声をかけるついでに周知を頼んで、その間に申請をしたの」

「順番がごちゃごちゃだな」


 ロスヴィータは彼らしくて笑ってしまった。どうせ許可は取れる――許可が下りないとは思わなかったに違いない。


「そこ笑うとこかよ」

「フリーデらしくて良いんじゃないか」

「おい、アイマルまで」


 エルフリートはそわそわと落ち着きがない。彼の気持ちは分かっている。早く検証を始めたいのだ。


「まあ、今回の件は結果が良ければそれで良いが、何度もしてくれるなよ。規律は上が率先して守っていかなければならないんだから」

「うん。そうだね。気をつけるよ」


 エルフリートはそう言ってるが、今にでも動きたくてうずうずしている状態では、ただ謝罪を口にしているだけで何も考えていないに違いない。

 エルフリートの様子からして、ロスヴィータは落ち着いてからまた同じ事を言う羽目になりそうだった。

 周囲のざわめきからも、いつ始まるのかと開始を待ち望んでいるのが分かる。誰もが興奮しているようだった。こんな空気の中では、エルフリートの気持ちが昂ったままなのも仕方がないなとロスヴィータは諦めた。


「反省会は後でだ。とりあえず始めよう」

「やった!」


 くるりと回転しながら飛んだ彼は、そのまま飛び跳ねながらロスヴィータが最初に見かけた地点へ戻っていく。自分がやりたいだけなのではないか。そんな言葉を丸飲みし、ロスヴィータはエルフリートの後をついて行くのだった。

 彼の後を続けば、かなり手の凝った会場ができあがっていた。


「特定の方法でこの壁に穴を開けてもらいまーす!」


 音を伝達しやすくする魔法を使った彼の大声が響いた。かなり調子に乗っている。それが悪いとは言わないが、複雑な気持ちである。


「実際に起きた犯罪行為が、どれくらいの難易度なのか確認したいの! やりたい事は、痕跡をほとんど残さずに壁に穴を開けること。穴の開け方は、開けたい穴の形を小さい穴を点線のようにつけていって、最後に蹴り飛ばす。そんな感じだよ」


 本当に軽い。やっている事はともかく、言い方が軽い。

 思わずロスヴィータは周囲がどんな反応なのかきょろきょろと視線を彷徨わせた。

 意外にも、エルフリートに向けてしらけた視線を送っていない。


「まずは、私が見本を……って言っても、ちゃんとできるか分かんないんだけど。とりあえず、やってみまーす!」


 エルフリートが立っている場所が彼の魔法で高台のように盛り上がる。相変わらず器用な事だ。

 私の呪文なんてどうでも良いと思うけど。そんな事を小さく呟いた彼は、再び大音量で魔法を使った。


「賢神よ、目の前に立ちはだかる壁を穿つ小さな力を与えたまえ!」


 エルフリートを縁取るように小さな風の渦がいくつも発生する。それらが生み出した風で、エルフリートの長い三つ編みが踊る。彼がすっと壁を指さすと、小さなつむじ風たちが真っ直ぐに壁へと向かった。


「これで、蹴るっ!」


 エルフリートは勢いをつけるためか、回し蹴りを披露した。綺麗に入ったその蹴りは、魔法で亀裂が入りやすい状態になっていた壁を――粉砕した。


「あれっ?」


 思ったのと違う。誰もがそう思ったに違いない。少なくとも、ロスヴィータはそうだった。

 いつの間にかエルフリートのいる高台に上がっていたアイマルが、壁の状態を確認して答えを導き出す。


「小さな穴を開けた時点で、内側の部分に小さなひびが入ったようだな。それが、フリーデの強力な蹴りのせいで無惨な姿に」

「無惨な姿っ」


 くく、とブライスが笑う。確かに、バラバラになった壁は、無惨と言って良いだろう。


「ブライス、あまり笑うのは失礼だ。それに。小さなひびが入っていた事を把握して力加減に気を付けていれば、おそらくフリーデのチャレンジは成功したはずだ」


 アイマルがエルフリートをフォローすればするほど、エルフリートが脳筋のように聞こえてくる。ロスヴィータも耐えきれず、小さく笑ってしまった。


「あっ、ロスまで笑ったー! その、笑顔、かっこいい、素敵」

「……だめだなこいつら。収集がつかん」


 ブライスの言葉に、ロスヴィータは笑みを浮かべたまま頷くのだった。

2025.1.4 一部加筆修正

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