13
エルフリートが失敗した事に、周囲がヤジを飛ばす。魔法耐性のあるキャンベルがその間に壁を交換している。魔法耐性を活かす為に訓練した彼は、今までとは別人のようになっていた。
「次は、たぶんちゃんとできるもん!」
エルフリートはそう返事をしたが、ロスヴィータは十中八九失敗するだろうなと思った。そしてアイマルならば成功するだろうな、とも。
「フリーデ、全員が成功するまでやっていたら時間がいくらあっても足りなくなってしまう。だから、次は俺がやろう」
「あっ」
アイマルが設置し直された壁とエルフリートの間に割り込んだ。
「ペケーニョ・トルベリーノ」
エルフリートがそうしたように、アイマルも小さなつむじ風を起こした。一般的には流通している魔法言語を使うが、彼は母国語でエルフリートのように魔法を行使する。
エルフリートと異なる点と言えば、彼は詠唱自体が魔法になるが、アイマルは詠唱を省略して技名のようなものを唱えるだけで魔法を使うという事くらいだろうか。
ロスヴィータからすれば、アイマルの方が魔法発現までの時間が短い分、有利であるように見える。しかし、実際はそうでもないらしい。
「アヴァンティ」
アイマルの一言でつむじ風が一斉に壁へ向かう。これもエルフリートとほとんど変わらない。
「ディスペルシオーネ」
魔法は彼が号令をかけるごとに従順な兵士のように動き、消滅した。
「では、最後の一撃だな」
全員がアイマルの動きに注目していた。
「スクード」
「えっ?」
彼は、新たに魔法で結界でできた巨大な盾を生み出し、それを壁ごと蹴った。盾がアイマルの蹴りの衝撃を分散させながら壁にぶつかる事で、粉砕を避けようという事らしい。
アイマルの読みは当たった。大穴の開いた壁の向こうへと、くり抜かれた壁が倒れていく。
「おぉー!」
騎士の歓声が場内を満たす。エルフリートもアイマルに抱きついて喜んだが、くり抜かれた壁を見て叫んだ。
「足跡がついてない!!!」
「……結界が壁の間に挟まって、壁に足がついてないせいだな」
悲鳴をあげるエルフリートの隣でアイマルがうんうんと頷いている。それを聞いた騎士たちは「やっぱり正攻法でいかないと駄目なのか」と近くの同僚と打ち合わせを始めた。
ロスヴィータとブライスもその例に漏れず、先ほどの二人のチャレンジについて話し合っていた。
「これは意外な展開になってきたな」
「そうだな。しかしアイマルが失敗するとは」
「いんや、あいつ結構抜けてるとこあるぜ」
「……そうなのか?」
聞けば、いろいろとロスヴィータの知らぬところでやらかしていたのだと分かった。冷静沈着、頭脳派、少しだけブライスに執着心を見せる。そんな印象のロスヴィータは、結構抜けている、の印象を付け加えた。
「あいつ、絶対に失敗したくないっていう思いが強すぎて失敗するんだ。面白れぇだろ」
けらけらと笑う男に、ロスヴィータは苦言を呈す。
「あまり面白がってくれるな。それにそんな人間には、とてもじゃないが重要任務を任せられないではないか。完璧を求めるのは良いが、失敗できない瞬間に失敗されては困る」
「いや、一応任務という点では成功するから大丈夫だ」
ロスヴィータの眉間にできたしわを伸ばすように、ブライスが眉間を軽く揉んでくる。そういう行動を簡単にしてくるのだから、なかなかの距離感である。
ロスヴィータは小さく息を吐いて、笑う。
「任務は成功するが、完遂できない事がある――という事か」
「まあな。今回みたいな感じだ。しっかし、ありゃぁ職人技じゃねぇの?」
あれ、とはもちろん壁抜きである。ロスヴィータはいつの間にか始まっていた三番手の壁抜きに視線を移す。
「よほど、回数をこなしているか、俺たちが想像している方法が間違っているかのどちらかだぞ。本人を呼んで見本を見せてもらいたいくらいだ」
ブライスの言葉にロスヴィータは頷きかけ、慌てて横に振る。
「だめだ。本当はそうしたいところだが、彼の能力が未知数だからこんな解放された空間につれてくるわけにはいかない」
「ま、そうだよな」
そんな会話をしている内に、三番手はくり抜く為に魔法で壁を傷つけようとして壁自体を破壊した。……うん。先は長そうだ。ロスヴィータとブライスは、高台となった会場で壁抜き大会を見学し続けた。
力を加減しすぎて蹴りを入れても何も起きなかったり、そもそも最初の魔法による壁の工作作業がうまくいかない騎士もいた。そんな中、ロスヴィータはこの場にいないはずの姿を見つける。隻腕の女性騎士である。
「ルッカ……」
ロスヴィータを見つけるなり、ルッカが駆け寄ってきた。そのすぐそばには彼女に並走していたジュードが寄り添うように待機する。
「面白い話を聞いたから、来てみました」
相変わらず目立つ容姿をしている彼女は、明らかに参加しようとしている。
「たぶん私、成功しますよ。だから期待してください」
ルッカの表情は自信に満ちている。
今までの騎士の動きを見て、何かに気がついたのかもしれない。ロスヴィータはしっかりと頷き、彼女の肩にそっと触れる。
「分かった。ルッカ、楽しみにしている」
「ありがとうございます。いってきます」
そう言うなりルッカは空気を読んで黙っていたブライスにも会釈をし、軽やかに高台を登っていった。
2025.1.5 一部加筆修正




