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スクリーミングベイビィ  作者: おのこ
一歩前へ、二歩先へ、三歩目の君に手が届くように
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家族《ウーンド》

午後、アユムは街に出ていた。


ブティックや生活用品店が立ち並ぶ商店街、メンバーはアユムとリュウコと少女だった。


「おい荷物持ち、テメー何しょぼくれてんだよ、美人と美少女に囲まれてありがてーと思わねえのか?」


ドスの効いた声でリュウコはアユムを恫喝する。


「こちとら朝からスパー決めてきたばっかなんだよ、リュウコ姐さん」


「朝イチのスパー如きでヘタれてんじゃねえぞボケ、シャキッとしろシャキッと」


そもそもリュウコだけで自分の10倍は荷物を持てるだろうとアユム思ってはいたがそれを口にするほど命知らずではなかった。


(まあ、気遣ってくれてんだろうけどさ)


今回の目的は少女の服や生活用品の買い出しだ、女性でなければセンスも力も無いアユムは不要な存在であることは間違いない。


だが、リュウコはアユムを半ば強引に誘った――ミツキも誘われたがパスと言い放った――思う所があったのだろう。



アユムはチラリと少女を見た。


長い髪を一本の三編みにし、丸い眼鏡をかけている。

一応変装のつもりだろう。


全体を黒を基調にコーディネートされており

骸骨や蛇をモチーフにしたプリントを施された長袖のシャツ

フリルを控えめにあしらったミニスカート

これもまた毒々しいモチーフの柄物のタイツ

上げ底のブーツ


全体的に鎖がジャラジャラしており攻撃的なファッション、要するに。


(バンギャだ…)


かつて施設の子供としてアユムが訪れた頃のリュウコはそういったものに激しくハマっていた。

学校をサボりバイトを掛け持ちし、夜はライブで遅くまで帰らない日々

―――園長のマジギレを初めて見たのもそんなリュウコに対してのものだった。


しかし、目の前の少女は当時のリュウコとは大分印象が違う。


細い体の背筋を伸ばし遠くを見つめる佇まい。

抜け落ちた表情も彼女の美貌からすれば神秘的とすら言えるだろう。

失われた右腕の袖が風に靡く様すら風雅に感じる程だ。


怒られそうな話だが、何かそういう宗教の巫女装束に見えないこともない。


そんな事をアユムが思っていると少女の目がいつのまにかこちらを向いていた。


「―――――」

アユムは赤面した。

そもそも昨日あんな事があって、どんな顔してこの未だ名も知らぬ少女を見れば良いのか。


さっと顔を逸らす。視線の先に口角を悪魔のように吊り上げたリュウコが居た。

最悪だ、とアユムは思った。


「いやぁ、正直この時代はアタシにとっちゃ黒歴史だったんだけどよォ、良いモンは良いよなァ?」

残しておいて良かったぜとリュウコはゲラゲラと下品な笑い声を上げる。


「いこーぜ、アユム、そんでアンタも、あー…名前知らねえのは不便だな」

リュウコは腕を組みながら考えるが、ま、いっかと声を出す。

「名前ってのは、ご両親に貰った大切なモンだし、勝手につけるわけには行かねえからな」

よしと言う掛け声と共に買い出しが始まった。




アユムは腕を組んで地蔵のように立っていた。


女性用のファッションブランドの並ぶブティック、そこは夜の繁華街を超える異世界に感じられた。


少女は試着室に入って店員の着せかえ人形になっている。


もはやアユムに何をすることもできない、ただ時が過ぎるのを待つだけだ。


そう思っていた時、隣のリュウコが声をかけてきた。


「なあアユム、あの子、どう思う」

「どうって、何がだよリュウコ姐さん」

アユムは困惑した。要領を得ない質問だと思った。


「テメー質問に質問で返すんじゃねえよ、家族としてやってけそうかって意味だよ」


「あー…」

連れてきたのは自分だったが、今となっては複雑だ。


「やるしかないだろ、アイツも帰る場所なんて……無いだろうし」

牧場(ファーム)、悪魔崇拝者達(サタニスト)の非人道的な人間の養殖場。

そこから来たと推測される少女を帰すなどとアユムが思うはずがなかった。


「そーじゃねえよアホ、何度も言わせんな、家族としてどうかって話だ、おい言ってる意味判ってんだろ?」

リュウコはイラッとした顔でアユムに言う


「…まあ、そう言われるとな」

アユムは言葉に詰まり、リュウコは舌打ちした。


「テメーとミツキ、アタシの子分の癖に二人してクッソ下らねえ事でグダグダ考える癖があんだよな」


イライラしながらリュウコは言う


「悩んでたり思ってる事があるならソーダンしろ、アタシだって園長だってテメーらの家族だ」



園長はよく子供達に言い聞かせる、あーしは親じゃない、でもみんな家族だと。


それを最初に聞いた時アユムは正直思った。


知ったような口利くんじゃねえこのカマヤロー、と。


少なくとも親に生贄にされたような子供に家族という言葉は地雷以外の何者でもなかった。


だが、結局の所そう思う事になった。


光輪会の子供達は悪魔崇拝者達(サタニスト)の被害者だ、皆程度の差はあれど同じような傷を持っている。

アユムも、ミツキも、リュウコも、そして何も語らないがきっと園長も何かがあった。

その傷は肉体以上に心に刻まれていて、それを理解できる人達は施設の中にしかいなかった。

ならば便宜上、その関係を家族と呼称しても良いのではないか、例えそれが傷を舐め合う惨めな関係であっても。


今のアユムはそう自分の気持ちを整理していた。



暫くの沈黙をリュウコは待ってくれていた。


「なりてえよ、俺だって」


アユムはリュウコにキチンと自分の思いを伝える事にした。


「アイツはきっと、俺達とも違うひでぇ目に遭ってきた。そいつをほっぽって腫れ物に触れるような扱い、したくねえ」


ワシャワシャと頭を乱暴に撫でられる。


「テメーはそれでいいんだよそれで、アホが小難しい事考えんなアホ」


リュウコは傷を刻まれた顔で快活な笑みを浮かべる。

こういう時のリュウコは本当に美人なのだとアユムは良く知っていて、だからこそ慕っていた。

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