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スクリーミングベイビィ  作者: おのこ
一歩前へ、二歩先へ、三歩目の君に手が届くように
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光輪会《サンクチュアリ》

「なるほどねぇ~」


巨漢、成人男性と比べても長身のリュウコより頭一つ以上高い。


その肉体を表す言葉は筋肉(ゴリラ)それ以外に存在しない。


無理に具体的に形容するのであればジャングル100万匹のゴリラの王者をベースに作られたサイボーグが人間のフリをしている。


そして禿頭、サングラス、園長というよりも組長と呼ぶのがふさわしいかもしれない、アユムは口が裂けても言わないが。


その全身に死をイメージした無数のタトゥーが刻まれ、体を押し込めているとしか言えないTシャツが今にも弾け飛びそうになっている。


元プロレスラー、キング・オブ・デス メタルサタン、タケオ園長その人である。


「…はい」

アユムは無理をして言葉を絞り出した。


「ふぅん、リュウコちゃん、嘘はついてないんだよね?」


「はい園長、コイツはアタシに嘘は付きません」

リュウコは断言する、事実だからだ。



園長は、おネエだ。


元々はインディーズ団体の看板選手で最強のヒール、セメントなら絶対に負けないというのがウリ文句だった。

だが、試合中の事故により怪我をしてこうなったらしい。


リュウコも園長に憧れ、まずプロレスラーを目指し、その後施設に金を入れるため総合に鞍替えし、そのままスタッフになった。


二人はこの施設が悪魔崇拝者達(サタニスト)の被害者を受け入れるという火薬庫のような状態を維持できている理由であり

この施設で最もアユムが恐れる存在であり

【魔法】を使おうが絶対に勝てる気がしない存在であった。



(俺は死ぬかもしれない)


アユムは本気で思った。


しかし、園長の口から出た言葉はアユムの予想外のものだった。

「はぁ…別にいいわよ、やってほしくはないから大ぴらには言えないけど夜遊びくらいは、リュウコ、あーただってアユムくらいの歳の頃はよくやってたじゃない」


「うっす…」


リュウコは恥ずかしそうに俯く。


「それに…」


そう言って園長は少女を見る。


「女の子守るために頑張ったんでしょ、なら良いわ、あーた達全員、こーいうの見過ごせないでしょ」


その目は少女の右腕を確かに見ていた。


(良かった。本当に良かった。)


アユムは人知れず涙を流していた。人は極限の状況から解放されるとここまで感動してしまうのかと自分でも驚いている。


「んで、あーた名前は?」


園長は少女に聞いた、だが少女は無言を貫いていた。


「そう、まあよくあることね、慣れたくは無いけど」

「言いたくなったら教えて頂戴」


そう言って園長は踵を返す。


「リュウコちゃん、その子をお風呂に入れてあげて、あと服と部屋…はリュウコちゃんの隣のベッド空いてたでしょ」


「うっす、園長」


「アユム、女の子を守ったのは偉いけどその怪我は頂けないわ、ちゃんと手当して…明日朝からスパーね」


「うっす、園長」

アユムもリュウコのマネをした。


「それと、ミツキ」


「はい」

ミツキは素知らぬ顔で答える。


「あーたらが夜な夜な出かけている事くらい知ってんのよ、アユム一人を売ろうとした根性が気に入らないわ」


「はい?」


「この後、あーしの部屋に来なさい、その性根叩き直してやるわ」


ミツキは固まっていた。


アユムは心の底から思った。ざまあ見やがれ、と。





アユムは部屋に戻った。


戻る前にリュウコに夜這いすんじゃねーぞ!と余計なことを言われたがクールに返したと思う。

何か言われても真っ赤になってどもってなどいないと言い張るつもりだ。


自ら治療を施すとほどほどしてミツキが戻ってくる。


心なしかげっそりしていて、ぶつぶつと僕は軟弱者ですなどと呟いていたがアユムの事など気にせずベッドに潜っていった。


「俺も寝るか…」


普段の狩りも大変だが今日は特に疲れた。

だが、布団に入ると少女の事が気になり寝付く事ができない。


(無茶苦茶可愛かったよな、いや美人…リュウコ姐さんとは違う感じで…なんというか)


美しかったと思う、身なりは酷かったし悲惨とすら言えたのにそこには神々しさとも言える美しさがあった。


「あんな子も居るんだな…」


小さく呟く、ミツキに聞かれていれば茶化されていただろう。




アユムがうとうとし始めた頃、部屋の扉が開いた気がした。


ペタペタと音がする。


それは、アユムのベッドの前で止まり、ギシリと音がする。


何かがベッドに乗っている。


それどころかアユムに覆いかぶさるかのように這ってきている。


アユムは薄く目を開ける。



カーテンの隙間から覗く月の光が、それを照らす。


梳かれ月光の流れが形を成したかのような白い髪。


整いすぎているとすら言える顔。


瞳の中に海を閉じ込めたかのような青。


少し大きめのパジャマも神聖なローブにすら感じる。


そこから覗く白い肌は陶磁器を思わせる。


少女だ


そこで初めてアユムは目の前の存在に思い至った。


動けなかったというより動くことを忘れていた。


その左手はゆっくりとアユムの胸に伸びていた。

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