表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スクリーミングベイビィ  作者: おのこ
ミツキレポート:CASE1
41/55

シマハラ事件

 前文としてまず、このレポートを読んでいる人にお伝えしたい事がある。



 この記録は、僕こと高坂(コウサカ) 光来(ミツキ)が、先に起こった世間一般で呼称されるシマハラ事件について、実際に僕が体験し調査した内容と後日様々なメディアで公開された情報を元に推測と主観を交え今後同様の事件が発生した際の参考にするべく書いた、いわば僕の為の備忘録である。


 その為、実際に報道された事実や、本当に起こった事実とは差異が生じる可能性がある。

 そもそも、僕は中学生でレポートの書き方なんて知らないし、文句を言われても勝手に読んだのはそっちだろ、という話だ。

 

 アユムはアホなのでこういう事はすぐ忘れるし、僕も仕方ない思いでイヤイヤこんな文章を纏めているのだ、文句を言われると頑張るモチベーションが非常に下がる、やめて欲しい。

 

 そういった訳で、このレポートが必要とされ日の目を見ることがないことを切に願いつつ、前文を締めさせて頂く。

 

 

 

 最初に、事件のおおまかな流れを整理したいと思う。

 

 

 おおよそ17年ほど前、外国でウィザードとして覚醒したシマハラはその誇大妄想を実現するべく新興宗教を立ち上げた。

 

 多少の問題はあったにせよ、シマハラはそれを軌道に乗せ、見事にその野望への地盤を作った。

 

 16年前、シマハラはこの国に帰国し、元々この街に存在した一大宗教の教会を【魔法】で乗っ取り、活動を開始した。

 

 長期間に渡る活動は、布教活動や、子供攫い、牧場(ファーム)天使の嘆き(エンゼルフォール)の製造等、非常に多様で、最終的にサバト(ドラッグパーティ)に至った事を思えば、結果的に見ればかなり派手に活動していたが、シマハラはこの事件発生まで街に潜む悪魔崇拝者達(サタニスト)の首魁としての立場を巧妙に隠していた。それどころか街に蠢く悪魔崇拝者達(サタニスト)が同一の組織[※1]である事すら今回の事件で調査を開始するまでわからなかった位だ。

 

 ※注記1:無論、全てがそうであるわけではない、規模は小さいが自然発生の悪魔崇拝者達(サタニスト)も今だ存在する。

 

 その肝は、彼が作り出した組織の構造にある。

 

 シマハラのグループを頂点として、幾つかのグループのリーダーを派遣し、子のグループを形成する。

 子のグループはグループの中から有望な信者を見繕い、新たなグループのリーダーとして次のグループを作らせる。

 シマハラからみて孫に当たるグループも、同様の事をし、それを延々と繰り返す。

 

 所謂マルチ商法に近い体制である。詐欺師であったシマハラらしいといえば非常にらしい。

 

 シマハラの直近のグループ達には直接シマハラ自身の【魔法】を行使しコントロールしていたが、それ以降についてはシマハラも詳細は分かっていない程に細分化した組織構造だったと新聞には書かれていた。

 シマハラは信者達の中でも特に熱心な――思い込みの激しい――信者を選ぶように指示を出し、リーダーを選ばせ、自らの行いが世間に露見した際にどれほど恐ろしい事が起こるかを信じ込ませ、自殺と証拠隠滅を謀るように刷り込ませた。

 

 アユムには知らせていないが、僕とアユムの両親を狂わせた悪魔崇拝者(サタニスト)はおそらくシマハラ達であり、最終的に死を選んだ理由はこれだろう。

 彼らは長年街に潜みながら、無数の下位組織からノウハウを吸い上げ、伝播させつつ徹底してトカゲの尻尾切りを繰り返していた

 

 もし下位組織がバレたとしてもその上の組織達が緩衝材となり、決してシマハラにはたどり着かないように。

 

 なにはともあれ、シマハラは事件発生まで街に深く根を張りながらその正体を隠し続け、最終的にサバト(ドラッグパーティ)を行うまで至ったわけだ。

 

 

 

 次にシマハラ本人についても纏めるとしよう。

 

 まずケンゴさんの人物評を借りる事にする。

 

 「高慢ちきで自信家で何よりエゴイスト、信者達を使い捨てる事にも躊躇はない、自分の信者達が足掻いている姿を高みから高笑いして見下ろすヤツ」

 

 ほぼ当たりであるが、僕の見方からするともう一つ重要な要素がある。

 

 シマハラは徹底してリアリストだった。

 

 行動に天啓という勘を要素に加える部分はあったが、それ以外のブロックは組織の構造も含め巧妙に積み上げられ、強固な組織を築いていた。

 

 サバト(ドラッグパーティ)についても【魔法】に関しての深い研究心や、洞察により、自らの目的を果たす為にはただ行うだけでは狙った集団幻覚に至らないと考え、リーベの【魔法】やシマハラ自身の【魔法】でコントロールするという慎重さを見せている。

 

 戦い方についてもそうだ。

 

 園長の時は、その戦い方を研究し、心理的な隙を突き不確かな念力(PK)ではなく拳銃を止め(フィニッシャー)に使用した。

 

 ケンゴさん達警官隊に信者達をぶつける時も、陣形を組ませ、個々の誇大妄想の強さではなく確実に圧殺する形で、集団幻覚を起こす連帯感を産ませる方法を取った。

 

 アユムとの戦闘では、近接戦では格闘を使用し、遠距離戦でも【魔法】の行使の隙を拳銃でカバーし、様々な誘いを交え確実にアユムを仕留めようと動いていた。

 

 

 奇妙な話だがシマハラは真の誇大妄想狂(ウィザード)で有りながら、徹底的に現実を見ていた。

 

 彼の経歴から推察するに、それはシマハラが真に否定していたものは世界そのものではなく自らを拒む社会の構造だった為と思われる。

 

 ある意味ではアユムも僕も、皆シマハラのこのリアリズムに救われた結果となった。

 

 もし、シマハラが世界そのものを憎む真の誇大妄想狂(ウィザード)であったとするならば、集団幻覚が完成した瞬間にあの地を中心に物理法則の崩壊が起こり、その時点でこの国でも稀に見る大量虐殺事件となっていただろう。

 

 だが、それを彼の誇大妄想は望まず、自らの属する社会の思想を塗り替える形を願った[※2]。

 

 ※注記2:結果的に言えば、この社会への不満という世界の破壊よりも身につまされる思想こそが、シマハラの元に多くの共感と信者を集める理由になったとも言える。【魔法】による社会不安は今は慣れによって落ち着きを取り戻しつつあるが今だ続いている。社会にはじき出された人々にとって救いの手にみえたとしてもおかしくはない。


 シマハラ自身も、魔法使い(メガロマニアックス)としては類を見ない程の理詰めの戦闘能力を持ち、僕の経験からしても最強と断じて間違いない程の実力を持っていた。

 

 だが、真の誇大妄想狂(ウィザード)の恐ろしさはその技術ではなく、起こる事象の理不尽さにある。

 

 見ただけで相手が死に、地面が突然消失し、異形の怪物達が街に溢れ人を食い殺す。

 

 そういった事象が記録される真の誇大妄想狂(ウィザード)にしてみれば、余りにも凡庸。

 

 【魔法】自体は確かに強力ではあったが、手や目を使って念力(PK)を飛ばしたり、発声による洗脳(MC)をしたり、腕を使った障壁(シールド)等、この国の産まれなら誰もが接する、コミックや映画等のサブカルチャーの影響を強く受けているように感じた。

 

 ましてや、能力の弱点を拳銃や技術で埋めるなど、自らの驕りで世界を破壊しようとする真の誇大妄想狂(ウィザード)にしてはあまりにも現実的過ぎる。

 

 無論、現実感の無い異常を備えた真の誇大妄想狂(ウィザード)では、このような長期の潜伏や、綿密な組織構築、他者の【魔法】を頼りに自らの【魔法】を拡張するという発想には至らないし[※3]、シマハラのリアリズムは他の真の誇大妄想狂(ウィザード)に負けず劣らずの脅威であったことは確かだ。

 

 ※注記3:真の誇大妄想狂(ウィザード)は例外なく精神異常者であり、他人と群れたりましてや他の魔法使いを頼ったりすることは非常に少ない、既存の国家を乗っ取り運営する真の誇大妄想狂(ウィザード)も居る為、一概には言えないが。

 

 そういった意味で魔法使い(メガロマニアックス)としては最強クラスであったとしても、真の誇大妄想狂(ウィザード)としては比較的対処が可能な相手であったことは幸運だった。

 

 勝てたのは多くの偶然の結果であり、仮にもう一度同じことをしろと言われてもできるとは到底思えないが。

 

 

 

 最後にリーベについて纏める。

 

 リーベはシマハラの作った抗う赤子スクリーミングベイビィだ。

 

 リーベが持っていたのは愛と渇望の極大化、それ以外の思考を消し去る【魔法】、そう誰もが思っていたが、結果的に見ればそれは違った。

 

 正確に言えば、自らの要求を相手の感情にダイレクトに伝えるテレパス(ESP)だったと言えるだろう。

 

 リーベが内に持つ感情のバリエーションが乏しく、その出力が桁外れであり、誰もがそれに飲まれ暴走した為、その詳細をシマハラですら調べきることができなかったのだろう。

 

 そして、あの戦いの最後にアユムを救った【魔法】、あれは彼女が元々持っていた【魔法】でも、念力(PK)でもない。

 

 一瞬で望むものを手元に引き寄せる誇大妄想、瞬間移動(テレポート)と世間一般に呼ばれるものだ。

 

 アユムを失う絶望に抗う事で抗う赤子スクリーミングベイビィとしての新たな【魔法】に開花したとも思えるが僕の見方は違う。

 


 リーベは何も知らない無垢な子供(ウィザード)だった。

 

 

 無論、それが真実かは分からない、無垢な子供(ウィザード)であったとして、本当に願ったことが起こるなんてそんな魔法みたいなこと、僕等の知る【魔法】ではない、【魔法】の発現には凝り固まった誇大妄想が必要になるのだから、今まで使えなかったものを子供が願っただけでホイホイと使えていたら世界なんてとっくに滅んでいる。




 もうひとつ仮定を述べる。リーベの【魔法】は自らの要求を相手に伝えるもの、もしもそれが、二人の間で心の底から思った共通の願いとなったのであるなら、それは一種の集団幻覚として新たな【魔法】足り得るのではないか。


 サバト(ドラッグパーティ)により多くの人々の思念が渦巻くあの場所で、それを超える強い願いが行われたのであれば、それらの思念があの事象の後押しになったのではないだろうか。そうも考えている。


 僕らしくもなくかなり希望的観測を書いたが、なんにせよ奇跡的な事象が起きた。結論を言えばよくわからないの一言につきる。


 それ以降、発現はないし再現性もないのだから僕に聞かれても困る。

 

 仮にそれらが真実だとすればリーベは抗う赤子スクリーミングベイビィでありながら、現実を知らない無垢な子供(ウィザード)、内に抱えるにしてはある意味シマハラ以上の爆弾かもしれない。

 

 だが、リーベは今や光輪会の家族だ、それを捨ててどうこうするつもりもないし、妙な反応をされても困るのでアユムにも園長にもこの仮定を伝える気はない。

 

 願わくば、リーベが光輪会で現実を知り、社会を知ることで無垢な子供(ウィザード)としての【魔法】を失い、ただの子供になってくれることを期待しながらこのレポートを締めくくりたいと思う。

 

 

 PS:

 なんだかんだ、事件以降リーベはアユムにべったりだしそこらへんの教育はアユムに丸投げしたいと思う。情操教育とか。

 

 あれだけべったりだと間違いが起こる可能性を考えなくもないが、女性に対する免疫ゼロの赤面症ことアユムはリーベを妹分だと思いこむ事で精神を保っている為[※4]、それを心配するだけ無駄、というか、あり得ない、起こりようがない、ヘタレ野郎だから。

 

 ※注記4:アユムはリーベを妹分とした家族愛を鍵に【魔法】を打ち破ったらしい、正真正銘のアホで真の誇大妄想狂(ウィザード)級の思い込みだが実際にそれで助かったので僕からそれについて言えることはない。

 

 僕にはどうすることも出来ないが、とりあえず頑張れと友人としてエールを送りたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ