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スクリーミングベイビィ  作者: おのこ
一歩前へ、二歩先へ、三歩目の君に手が届くように
39/55

後日談《エピローグ》

アユムはぼんやりと天井の蛍光灯を見ていた。


目醒めた場所は光輪会の二人部屋ではない、白い天井だ。


「痛え…」


アユムの両腕は動かない――ガチガチにギブスで固められている。


痛みの発生源はそれだけではない、というよりも痛くない箇所がどこにもない。


周囲を見渡す。


カーテンはやけに白く、窓からは立ち並ぶ街路樹が眼下に見え、中天に輝く日の光が今が昼間であることを伝えていた。


室内にはアユムが横たわるそれ以外にも幾つかの人の寝るベッドが存在する。


つい先日まで居たと思われる病室。


そして、隣のベッドにアユムに負けず劣らずの全身包帯でグルグル巻き――目すら覆われている――の明るい茶髪の少年が居た。


「……おはよう、アユム」


ミツキだった。


「だっはっはっは!なんだそれ!馬鹿みてえ!痛えええええ!」


笑ったアユムの全身を激しい痛みが襲う、それでもおかしくて笑ってしまう悪循環、地獄だった。


「いやね、アユムもそんなんだから、笑われるのはお互い様だから」


ミツキはいつもの調子で不貞腐れたかのようにそう言い返す。


「ハァハァ…ヒィ…痛…いやしかし、生きてんだなお互い」


アユムはひとまず安堵した。


それに対し、ミツキが静かながら本気で怒りのこもった声を出す。


「本当だよ、マジであれなんなんだよ、なんとかすると思って任せたのは僕だけどいきなり飛び降りとか無くない?」


馬鹿なの?死んだほうがよかったんじゃないの?とミツキはそうアユムを詰る。


アユムは、いっ、と声を上げ、言い訳をする。


「いやよ、あの時全身バキバキだったしあれしかなかったんだってマジで…というか何で俺生きてんの?」

アユムは最後の光景を思い出す。


全力を出し尽くした後の高層ビルからの自由落下、最早助かる見込みはなかった筈だ。


ミツキはそれににべもなく答えた。


「知らないよ」


アユムは首を傾げた。


「はぁ?なんだそれ?」


ミツキは嘆息する。


「いや本当に、気付いたらなんというか、その子がアユムを抱きしめてたんだよ」


そう言ってミツキが見た視線を追うと、自分のベッドに上半身を預けるようにリーベが寝ていた。


よだれを垂らし、くうくうと。


陽が白い髪を照らし、髪の光沢が光の輪にすら見えるような姿。


どうみても間抜けな顔だが、それすら美少女だった。


「いやぁ、コイツの【魔法】ってそんなんじゃなかっただろ…」


何度も食らったアユムは知っている、特に物理的な効果は何もなかった筈だ。


「まあ仮説はあるけどね…」


「その心は?」


アユムはミツキの思わせぶりな態度に聞き返す。


「いやね、その子の事ずっと僕等は抗う赤子スクリーミングベイビィだと思ってたんだけど…」




次の瞬間、病室の扉が雷鳴のような音を立てて開いた。


「クォラ!ミツキこの野郎!いつまで寝てんだテメー!…ってアユムも起きてんじゃねえか!」


リュウコだった。


「いっ、リュウコ姐さん、お、おはようございます」


アユムはその勢いに恐怖した。


リュウコはズカズカとアユムに近づきバンバンと肩を叩く。


「痛えエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!」


全身傷だらけのアユムは絶叫を上げる。


「痛えのは生きてる証だボケ!何無茶してんだテメー!ぶち殺すぞ!」


「いや、マジで、リュウコ姐さん、やめ、本当に死!」


「んなことどうでもいいんだよ!テメーはそれくらいの馬鹿したんだから苦しめやボケ!」


こうなったリュウコは話を聞かない、それをアユムは良く知っている。


ミツキが口を挟んだ。


「リュウコさん、なんか言いに来たんじゃないの?」


リュウコがその言葉に、おっそうだったと手を叩く。


「朗報だぞガキ共!園長が目ェ醒ましたんだよ!」


アユムはその言葉に、目を丸くする。


「ま、マジ!?」


「マジもマジだボケナス!後遺症もねえってよ!流石園長だな!人間辞めてるぜ!」


アユムは思わず飛び上がってガッツポーズをしかけ、激痛に蹲った。


アユムの動きに、ベッドにすがりついていた少女が目を醒ます。


「おっ、リーベ、まだそこにいたのか、っていうかいつもそこだよな、3日もくっついてるだけで良く飽きねえなぁ」


リュウコがにやにやとしながらその姿を見ている。


リーベはパチパチと、目を瞬かせると、海の青を閉じ込めたかのような瞳でアユムの目を見つめた。


「お、おう、おはよう」


アユムはドギマギした。なんか戦ってる最中色々と凄いことを言ったこと思い出し、なんとも言えない気持ちになっていた。


(あれはな、こう、高揚感というか、なんというか、変なテンションでな)


アユムが心の中で言い訳をしていると、リーベはベッドにいつの間にかよじ登ってきていた。


そのままリーベは、よじよじとアユムの方へ這い上がり、左腕をアユムの首に回すようにして倒れ込んだ。


「お、おい、り、リーベ?」


困惑するアユムを他所にリーベは完全にその身をアユムに任せている。


「アユム…」


そしてシャボン玉の割れるような声でそう呟くと、再びくうくうと眠り始めた。



アユムは顔を真っ赤にして、周囲を見渡す。


ミツキは我関せずと遠くを見ていた。


リュウコは口角を悪魔のように吊り上げていた。


(最悪だ…)


アユムは内心で毒づいた。


「いやー、本当は引きずってでも連れて行くつもりだったんだが、こりゃしゃーねーな!」


リュウコはニマニマしたままそう言うと、ミツキを担ぎ上げた。


「いや、待って、リュウコさん、僕も相当ヤバい怪我なんだけど、というか、無茶苦茶痛いんだけど」


「テメーのこの馬鹿みたいな姿を見せりゃ園長も面白くて直ぐ復活すんだろ!薬代わりだ!」


「嘘でしょ…」


ミツキはリュウコに米俵のように担ぎ上げられ病室から連れて行かれた。


その時、ミツキはその空洞の目で確かにアユムに言っていた。


タスケテ


アユムは無視を決め込んだ。




病室にはアユムとその体にもたれかかるかのように眠るリーベが残された。


「あー、もうなんだこれ…」


アユムは思考を放棄し、取り敢えずリーベを見た。


その重みはアユムの身体に大きな痛みを与えていたが、少なくとも目の前に少女(リーベ)が居ることを知らせていた。


幻覚でも夢でもない、そこに居る。


「おかえり、リーベ」


アユムはポツリと呟いた。


リーベがむにゃむにゃと身を捩る。


光の輪が、その髪に輝いていた。





その後、アユムは新聞を見た。


シマハラは死に、彼の信者達(サタニスト)もほぼ全てが死亡するか逮捕されるに至った。


少なくとも、今この街には平穏が訪れていると言っても過言ではないだろう。


だが悪魔崇拝者達(サタニスト)にも家族がいた筈だ。


それは、多くの孤児を産み、きっと光輪会にも新しい子供達が訪れることになる。


アユムは、その子供達と向き合わなければならない。


自分の行いのツケは自分でつける、アユムは覚悟を決めていた。


今が最悪でも、生きていれば良いことはいっぱいある、そう伝えなければならないと思っていた。


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