実戦運用《ストロングポイント》
シマハラの追撃は執拗に続き、その度にアユムは【魔法】の負荷に襲われながら跳んだ。
永遠に続くような苦痛の中、アユムは冷静に考えていた。
シマハラは何を考えているのか。
障壁を抜けず、念力と銃撃に翻弄され、接近戦では洗脳の脅威に晒される。
現状、アユムには打つ手が無いように見える。
だが、そうではないだろうという確信があった。
(戦力分析、何ができて、何ができないのか、勝利条件を決める)
アユムは弱者だ、鍛えてはいても子供、いつも相手より弱い。
今回もその差がいつもより大きいだけだと切り替える。
まず出来ている点、今この時点でシマハラ相手に逃げ回れている。
それを事実として勝っている点と考える。
確証を探す。
テーブルに隠れたタイミングでシマハラはアユムに態々声をかけた。
そのまま黙って瓦礫の山に巻き込んでも良かったはずだ。
声をかけた理由はおそらく二つ。
1つ、瓦礫に巻き込んだとして、そこで万が一にも仕留めきれなかった場合シマハラは完全にアユムを見失う。
不確定な状況での奇襲を警戒し、その手段でのアユムの排除を捨てた―――つまり、アユムの攻撃は意識外からであれば届き得る。
2つ、シマハラはこれまでも誘いを多用してきた、今回のそれも同じ、釣りをしたのだ。
草むらを叩き、出てきた虫を捕まえるように、自らのタイミングでアユムを跳ばせて撃ち落とそうとした。
シマハラはアユムの【魔法】を完全には捉えられていない。
その為、誘い、釣り、読み、その先に現れたアユムを叩き潰そうとしている。
出来ないことを考える。
初手の真っ向からの接近戦ではほぼ完敗だった、【魔法】も含めれば技術はシマハラの方が上だ。
遠距離戦では一方的に嬲られ続けている、射程破壊力共にそもそも勝負にならない。
当面の勝利条件を決めた。
シマハラの誘いを読み、一撃を決める。
誘いは隙だ、その読み以外の部分は精神的な死角となる、シマハラは一見圧倒的だが誘いに頼らざる得ない事自体が弱点だ。
その一撃で決まらなくても良い、絶対防御を持つ相手への有効打の一発は流れを変える。
魔法使い戦において、流れは重要な因子だ。
シマハラの周囲を回るように跳び続けたアユムは、その遥か後方に跳んだ時点で左脚を軸に急旋回しシマハラに向かって右脚を出す。
シマハラがこちらを見ようと振り返るのが見えた、笑みを浮かべている。
(その余裕を崩してやる)
アユムは一息には近づかない、数メートル単位、距離と方向を左右にランダムに振りながらショートジャンプを繰り返し接近する。
シマハラが左腕を横に構える―――念力による薙ぎ払い、誘いだ。
アユムは左脚をシマハラの左斜め後方に向ける――シマハラが笑みを深めた。
(ここしかねえ)
アユムはそのまま、左脚で地を着く――跳ぶわけにはいかない。
シマハラの左腕が払われる。
アユムはショートジャンプによって溜めた加速のまま力強く、右脚で地面を蹴り、高く跳躍した。
義足の左脚ではこうは行かない、鍛え続けてきた自らの生身の右脚を信じる。
自分の足元をまるで竜巻のような空気の塊が通過していく。
左脚の義足が僅かに巻き込まれ軋みを上げるがミツキ特製の戦闘用義足はヤワじゃない。
放物線を描き頭上に迫るアユムをシマハラが、唖然とした顔で見上げている。
(間抜け面だぜ)
アユムは両手で鉄パイプを握りしめ全力でその頭頂部を割りにかかる。
「オラアアアアアア!」
シマハラは空いていた右腕でガードを試みる、鉄パイプは右腕を体重で押し切りシマハラの体勢を崩す。
(ここだ、ここで決める)
落下と同時にガードを潜るように胸に右の安全靴の底を叩きつける。
胸骨を砕く感触が右脚に伝わる。
シマハラはアユムを見た。
アユムの身体が後方に吹き飛ばされる、視線による念力
だが、それは洗練された今までの【魔法】とは違い、雑で弱々しい距離を取る為の苦し紛れのそれ。
一気に攻めるべきか逡巡したが、アユムは距離を取る。
(焦るな、焦って攻めたらまだシマハラの洗脳がある)
シマハラの大規模な念力の行使には身振りによるイメージの補強が必要である事はその立ち回りから見切っている。
胸骨の破壊は、上半身の稼働に激痛を齎す。
今までの念力と拳銃の両車輪による強固な連携を確実に崩壊させた。
元々あった機動力の優位を更に強化する大金星。
次の一手はもっと強力な一撃を決める事ができる。
アユムは確信していた。
「ああ、アユム君は本当に凄いですね」
あの雨の日と同じ声が聞こえた。
シマハラは朗らかな笑みを向け、アユムに語りかけている。
アユムの背筋に悪寒が走る、最悪の失態を犯した予感がする。
「私の次の手はこれです。さあ、どうします?」
右腕が上げられ拳銃が窓際に立っていたリーベに向けられていた。
「今度は交渉しません」
シマハラの引き金を引く指に力が込められるのが見えた。
アユムは無意識に左脚を伸ばしていた。
リーベに手を伸ばして。
「はい、詰みです」
手が届く瞬間、シマハラの左手が握りしめられるのが見えた。
アユムの全身を万力で締め付けられたかのような激痛が襲った。




