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スクリーミングベイビィ  作者: おのこ
一歩前へ、二歩先へ、三歩目の君に手が届くように
33/55

ヘドロの底に《ミ―ティア》

「は、ははははははははははははははははははは!!!!!」



シマハラは目の前に立つ少年(アユム)の姿に心の底から笑っていた。


少年(アユム)は突然笑い出したシマハラに唖然とした顔を向けている。


みっともない姿だ、信者達には見せられない、それでもシマハラは笑いが止められなかった。


「分かっていました!分かっていたのに!」


シマハラは両腕を開きなにかを礼賛するかように言った。


「心優しい君が、我らが愛(リーベ)を奪いに来るなど!当然のことでした!」


シマハラの胸中には、かつて神の愛を実感した日以来の強烈な喜びが産まれていた。


あれほどの苦渋を舐め、踏み砕いた筈の心、それでも来ると信じて策を仕掛けたのはシマハラ自身だった。


掌中に収まる状況がシマハラからそれを忘れさせていた。


(美しい、なんと清らかで真っ直ぐな心)


あの日、懐中時計を少年(アユム)が拾った日から、どこか特別なものを感じ続けていた。


その天啓は間違っていなかった。


「アユム君、君を私は心底好いています。殺したくはない、これは本心です」


「は?」


少年(アユム)は理解できないといった顔でシマハラを見ている。当然だろう。


だが口に出さずにはいられなかった。


我らが愛(リーベ)を君に与えましょう、君の家族にも手を出しません」


これは懇願に近い、頷いて欲しい、そうシマハラは心底思っていた。


「ですから君を私の作る神の国に、迎え入れたい、手を取って頂けませんか?」


シマハラの青い瞳に、アユムという人間が映っていた。


信者達(愚衆)ではなく、一人の友として、神の愛を分かち合うに足る心を持った少年(アユム)


この出会いは運命だったとシマハラは思う、だから口にした、だが。




「ふざけてんじゃねえぞ、テメエ」


アユムの目には再び燃え上がった闘志が浮かんでいる。


「お断りだ馬鹿野郎!」



「ですよね。我らが愛(リーベ)


当然だ、シマハラの望む少年(アユム)はこのような提案を呑む筈がない。


「【愛を】」


シマハラは、期待を込めて我らが愛(リーベ)を使う、蹂躙され、飲まれた心に一欠片でもその輝きが残る事を願いながら。



リーベが失われた右腕を上げる。


アユムは身構える、情報によればその範囲は爆発的に広がり回避は困難。


アユムは、正面からリーベの【魔法】を受ける覚悟を決める。




白い髪には紫色のメッシュが入っていてどこか神秘的な雰囲気がある。


日光を拒絶するような白い肌には発汗の跡が見える。


アユムが出会った中でもダントツに整った顔、嘘を付いても仕方ない無茶苦茶可愛い。


その海の青を閉じ込めたかのような瞳――瞳孔が開ききっている。


服装は、白を基調にしたドレス、シマハラが用意したのだろうか悔しいがセンスが良い。



その顔は無表情だが、苦しそうに喘いでいる――何か薬物を投与されていると見て間違いない


目は確かにアユムを見ていた。



アユムは思った、出会った頃から本当に世話の焼ける妹分だと。


「来な」


アユムはその目を見つめ返す。


リーベの右腕から【魔法】が爆発し、アユムを飲み込んだ。





「――――」


自らの胸の内から声が聞こえたような気がする。


あの夜と同じ、燃え滾る太陽が頭上に突如現れたかのような渇き。


何かが足りなくて、それが自らにとっての水のようで、でも実際はそれが何かは分からない。



そうではない。



(リーベだ、この感情はリーベに対する俺の気持ちだ)



己の内にあるもの、そうだとアユムは認識する。


アユムはイメージした。


いつも使うトランシーバーだ、それはリーベの【魔法】を受け狂ったように雑音を響かせている。


アユムはそれを調整する。


思い出す。



下らない話をして僅かに反応をした姿を。


気付いたら光輪会をフラフラしている危なっかしい姿を。


リュウコの着せかえ人形にさせられていたあの姿を。


夕日の中で手を引いたあの日を。


雨の日の出会い、何故自分はリーベを連れて帰って来てしまったのかを。



ダイヤルが回り、雑音が消えていく。


アユムの胸の中に声が聞こえた。



「――――愛して」



最初から聞こえていた筈のその声にアユムは心の中で笑った。


ヘドロの底に沈んだあの日の幻想の光景に、一つだけ輝く星が落ちていた。


それは仕組まれ作られた嘘なんかじゃなく、リーベの本物だ。





「馬鹿な」


気づけばアユムは跳躍と同時に右の鉄パイプをシマハラに叩き込んでいた。


シマハラはそれを持ち上げた右腕で咄嗟に庇うように受け止めている。


「は、ははは」


アユムは笑った。


アユムに渇きを与えていた燃え滾る太陽は、今や頭上ではなく、アユムの胸中にある。


「何故、です、我らが愛(リーベ)には欠片も情はないと?」


アユムは鼻で笑ってやった。


「愛してっからだよ」


振り払うかのようにシマハラの左フックがアユムの胴に迫る、それをアユムは後ろに跳躍し躱す。


シマハラは今だに何を言っているのか分からない顔をしてアユムを見ている。


黙ってやっていても良いが、ムカついたのでアユムはマウントを取る事にした。


「俺の家族との生活に、テメーが一番邪魔なんだよ、だからバッチし効いてるぜ力が漲ってきやがった」


リュウコからの餞別、愛の形の問題。


リーベの外見上から来る愛、それとはまた違う、もっと大きな、確かな意思を持った愛。


それが今のアユムにとって欲しくてたまらない、家族と暮らすアユムの世界への愛。


【魔法】はそれを増大させ渇望させた、アユムはそれを本気で手に入れようとしている。


必要が体を動かす。ただそれだけのこと。



リーベが目を見開いて、アユムを見ている。


アユムはそちらに目をやり言ってやった。


「手間かけさせんなバーカ」


アユムにリーベの【魔法】はもう意味が無い。




混乱するシマハラに対し、アユムは左脚を踏み出し追撃を仕掛けた。



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