最終調整《ラバーズ》
土曜日、アユムは月明かりの中ベッドの上で天井を見つめて考えていた。
病室ではなく、そこは施設の二人部屋。
既に時刻は夜。
「対策、か」
昨日、光輪会に戻ったアユムを皆は大はしゃぎで迎えてくれた。
子供達はアユムが戻ったことを大いに喜び遊ぶ事をせがみ、リュウコは無茶すんじゃねーとげんこつをアユムにくれた。
ただ、園長とミツキが居ない光輪会はどこか寂しく、活気も空々しく感じざるえなかった。
昨日と今日、アユムはずっとリーベの【魔法】について考えていた。
シマハラの【魔法】や技術は、調査の結果大部分は割れている、初見とは違う、勝負にはなるだろう、しかし。
愛と渇望の極大化、それ以外の思考を消し去る【魔法】
アユムはそれに一度かかり、その効果が自分にどれだけ有効かという事を実際に体験していた。
「出家して雑念を消すか…?」
冗談みたいな発想、有効だとして悟りを開く時間はないとアユムはその案を脳内から蹴り出す。
「愛、愛、愛ってなんだ…ちょっと可愛いなくらいでアレじゃ、どうしようもねえぞミツキ…」
思春期の少年特有の青臭い悩みをアユムは呟く――本人はしごく本気で悩んでいたが。
それにその内容も嘘である、ちょっとではない、リーベはアユムの人生でもダントツの美少女だった。
あまりにもアホらしいが、どうしようもない、しかもそれが大勢の死に直結する問題。
「クソったれ…なんでこんな事を俺が…」
アユムはミツキに対して何度も文句を言ったが、それを聞く相手も今は居ない。
ミツキは今も、地獄の底で戦い続けている。
休む気にもなれないアユムはベッドから起き上がり装備の点検を始める。
戦闘用の義足、問題なし。
鉄パイプ、新調したそれも十分手に馴染む。
ゴーグル、普段は忘れがちだが、今回は必要になる。
トランシーバー、電池も交換し動作確認済み。
その他新装備、悪くはない。
ミツキが提案したという仕掛けはケンゴが用意してくれるらしい、半信半疑だがそれは気にしても仕方がない。
時計を見る、そろそろ出るべきだろう。
廊下は暗く、静まり返っている。
アユムは、一つ一つ装備を整え、部屋を出た。
良い対策は未だに浮かばない、暗澹たる気持ちであった。
暗闇の光輪会をアユムは玄関まで歩いていく。
ギシリギシリと床が鳴る、建物自体が古く、子供達がドタバタと駆け回る為すこしガタが来ている。
「よぉ、アユム、夜間外出は厳禁だって前、言ったよな?」
玄関からドスの効いた声がかかる。
声の主は、長身の女性、鍛え上げられた肉体、顔に走る傷、月光を背に只者ではない気配を放ちながら腕を組みアユムを睨みつけている。
夜叉がそこに居た。
アユムは臆せずに言い放つ。
「どいてくれリュウコ姐さん、行かなきゃ」
その言葉をリュウコは鼻で笑い返した。
「何か?テメー、懲りずに無茶しに行くつもりか?」
上から威圧する態度、止めるつもりであるとアユムは覚悟した。
「園長がやられてからミツキの姿が消えた」
「コソコソ何やってるかは知らねえが検討はつく、アイツを連れ戻しに行くつもりなんだろ?」
アユムは強く言い返す。
「そうだよ、だから止めんなよ、行かせてくれ」
「オメー、状況解ってんのか?」
リュウコは諭すように、続ける。
「園長が居ねえ、アタシはここを離れらんねえ、悪魔崇拝者達を突けばガキ共も危ねえ、それに今度こそテメー死ぬぞ」
事実だ、失敗すれば全てが終わる、正真正銘一発勝負だ。
「それとも何か?アイツに惚れてんのか?自分のスケの為か?」
リュウコの挑発に、アユムは再び言い返す。
「なんだよそれ、ならリュウコ姐さんは俺に惚れてるから俺を止めるつもりなのかよ」
軽口のつもりで言ったそれにリュウコは強く答える。
「そうだ」
アユムは絶句した、この人は何を言い出すのかと本気で思った。
アユムの思考の空白に、リュウコは続ける。
「アタシはな、アユムに惚れてる、ミツキにも惚れてる、園長にも、ガキ共にも惚れてる」
「愛してんだよ、この場所を、家族をどうしようもなく失いたくねえ」
「だから行くな」
あまりにも鮮烈過ぎる愛をリュウコはアユムに語った。
アユムには目の前の姐御がどうしようもなく眩しく映り、そしてだからこそ、言い放った。
「なら、俺もそうだ」
強く、強く念じて、伝わるように。
「俺もリュウコ姐さんに惚れてる、ミツキも、園長も、ガキ共だって、俺は愛してる、でも」
「リーベもだ、リーベも家族だ、俺はアイツも愛してる、だから行かなきゃ」
リュウコが目を見開くのが見える。
アユムは踏み出した。
視界が進む、それはリュウコに近づき、追い越した。
リュウコは止めなかった。
外に出て、アユムは空を見上げた
よく晴れ、月が綺麗に見えた。
「おい」
背後から声がかかり、アユムは振り返った。
その顔に向かって何かが投げつけられ、アユムは咄嗟にそれを受け止める。
「アイツの名前、リーベって言うんだな」
「止めても行くなら餞別だ、受け取りな」
リュウコの声に、アユムは手の内にあるものを見る。
古ぼけた、水滴のような型をした金属製のペンダント、作りは頑丈そうで、そこら中に細かい傷がある。
「親父がお袋から貰ったモンらしい、戦勝祈願のお守りだ」
「アタシも試合の前はそれに祈ってる、気休めだが無いよかマシだろ」
アユムはリュウコを見た、その顔には快活な笑み――本当に美人だとアユムは思った。
アユムはペンダントを首にかけ言う。
「ありがとよ、リュウコ姐さん」
自信満々に、口を不敵に歪め言い放つ。
「おかげで勝ちが見えてきたぜ」
アユムは駆け出した。
目指すはノーザンライツタワー、決戦の地だ。




