悪魔《メタルサタン》
タケオは雨を壁を砕きながら猛進する。
目の前の魔法使いは2人、シマハラという神父は動く気配がない。
シマハラに天使の嘆きの兆候はない、警戒するならば銃器などの飛び道具とタケオは判断した。
タケオは魔法使い相手の格闘戦においては一般人であれば屈指の経験の持ち主だ。
光輪会の性質上それは宿命であり、強い自負であった。
タケオはその目の前の魔法使い達の目を見た。
血走っている、涎を垂らし、正気を失っている、何を考えているか分からない、そう見える。
タケオは、機敏にステップを踏み左にズレる、雨が巨大な空洞を作りながら今まで居た場所を通過していく。
まるでトラックのような念力だ。
「ほう」
シマハラが目を見開き声を上げた。
そうではないとタケオは知っている。
一見、思考が読めない魔法使い達だが、その【魔法】の行使には強すぎる誇大妄想が必要となる。
あまりにも巨大な感情が渦巻き、表情に現れそれが複雑に入り混じっている為読み取りづらいだけだ。
そしてタケオは知っている。
対戦相手の、そして観客の感情と視線、そしてその誘導を。
余りにも慣れ親しんだ戦場だった。
魔法使い達は横並びに面で制圧する動きを取る――薬物中毒者にしては妙に連携が取れている――
それが本当に面制圧であれば脅威であろう、しかしそうではない。
【魔法】の行使は明確なイメージこそがその強さに直結する。
イメージの強さは普通の人間と根本的には変わらない。
狭く限定的なイメージであれば強く、広く曖昧なイメージであれば弱い。
タケオを止め、倒す程のイメージであればその範囲は限られる。
タケオは、身体を前傾、頭上を空気が唸りを上げ通過する音がした。
既に姿は目前、左の男に標的を絞り、右腕を振り上げる。
男は両手をとっさに顔面の前に上げた。
(馬鹿め)
拳の軌道を変形、男の右腕をフックの要領で引っ掛け肩を掴んだ。
意表を突かれた男はタケオの豪腕に押されるように体勢を崩す。
タケオはその身体を支える右足を踵で刈るように払う。
アームホイップ
男は無防備な姿勢のまま、その後頭部をコンクリートの地面に叩きつけた。
右に居た男が慌てるようにこちらを向く。
天使の嘆き服用者だ、自己愛の塊となった相手に仲間を気遣い出力を出し惜しみする気はないだろう。
おそらく、空間を限定した念力、避けることは困難。
タケオは左足を振り上げ、目の前に倒れ伏す男を襲い来る魔法使いに向け蹴り飛ばした。
タケオを攻撃しようとしていた魔法使いは目を見開き、咄嗟に身を守ろうとしたが男を受け止める形で後ずさる。
【魔法】はイメージの力だ、ならばそれを止めるには妄想を破壊するほどの強烈なインパクトを与えてやれば良い。
「二人まとめて死ね」
タケオは跳んだ、高く、高く、そして両足を揃え、体勢を崩していた男の顔面に向け、全力の蹴りを叩き込む。
ドロップキック
弱々しい念力の抵抗を打ち抜き、両足が男の顔面の骨を砕き、陥没させる感覚が伝わる。
イメージを相手に与える、相手の想像力を越え、確実に死を意識させるような一撃。
対魔法使い戦の最重要課題であり、タケオはその専門家だった。
男達が地面に広がる水面を四散させ動きを止める。
時間にして10秒も経っていない、瞬殺と言っても過言ではない状況。
タケオは、両手で地を突き素早く立ち上がり構える。
「ひどいですね、死んでしまったのでは?」
シマハラは落ち着き払って、タケオを眺めている。
「加減ってのは人間がするもんだ」
タケオはその目を睨みつけ、吐き捨てた。
「今のオレは悪魔だ、テメエら外道に容赦はしねえ」
シマハラが笑みを絶やさずに構えた、タケオが再び突撃を開始した。
アユムは、左足の調子を確認する。
着地の衝撃に軋みはない、多少増えた重量も良い重しになる。
(問題ねえ、やれるぜミツキ)
アユムは内心で自らの頼れる相棒を賞賛した。
男達は完全にアユムを見失っていた。
暗闇と豪雨は小柄なアユムの姿を隠し、その移動に際する音を消す。
1対3、数上の不利、全員が魔法使いという不利、環境の有利はそれを上回る。
まずは数を減らす。
アユムは素早く、最も後ろに居た男の背後から手に持っていた鉄パイプ――先端が直角に折れ曲がっている――を鎌のように突き出し、その顔面を起点に背後に引きずり倒した。
雨に濡れた地面に、身体を保持できず男が後ろに向かい転倒する。
(ひとつ)
アユムは声も出さずにその喉を安全靴の底で踏み潰した。
ぐげ、とカエルのような声を上げて男が動きを止める。
前方の二人もそれに気づき振り返ろうとしていた。
アユムは上方の街灯を見上げ、イメージした。
自らの左足がその街灯の上に届くイメージ、決して影は残さず、その光源の上へ。
カツンと音がして、アユムは街灯の上へ到達した。
眼下の男達はバシャバシャと足元を鳴らし、その音をかき消す。
天使の嘆き服用者は繊細な計略や注意が散漫となる。
(ふたりめ、ミツキ、試すぜ)
片足義足のアユムに街灯の上などそう長くいれるものではない、バランスを崩す前に自ら右足で街灯を蹴り落下する。
左手が、腰のトランシーバーのダイヤルを回す。
影が差し、男二人が見上げる、アユムは左足を真下に居た一人に突き出し強襲する。
接触、その瞬間義足からバチバチと爆ぜるような音が鳴り響き男の顔面を焼く。
スタンガンブーツ
以前、園長からプロレスの反則に関してのウンチクで聞いた一品だ。
本来ブーツの踵に使い捨てのスタンガンを仕込む程度の代物。
それをアユムはミツキに義足のスペースを利用し、強力なバッテリーとミツキの回収した違法なスタンガンとを組み合わせ搭載することを提案した。
天使の嘆き服用者といえど肉体の反応には逆らえない。
男は声にならない声を上げ、アユムの目論見通り煙を上げながら崩れ落ちた。
最後の男がアユムに手を向ける、アユムはその視線を追い右に踏み込み躱す。
最後の一人は、十分警戒を強めている、奇襲で仕留めた二人ほど容易くはないだろう。
アユムはチラリと園長に目を向けた、当然のように園長はシマハラ以外を瞬殺していた。
一対一のセメントなら園長が負ける筈がない、そして自分も必殺技を手に入れた。
アユムは不敵に笑った。




