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スクリーミングベイビィ  作者: おのこ
一歩前へ、二歩先へ、三歩目の君に手が届くように
12/55

日常《フラジャイル》

「…」


「ほんとお前何も言わないのな…」


長く白い髪、漫画のキャラのような紫のメッシュも彼女には似合っている。


服はシンプルながら型に拘りを感じる白――リュウコは清楚ガーリーだと豪語していた。


そして強い日差しに負けない程の輝きを放つ美しい瞳の青。


アユムが連れてきた無表情な少女がそこに居た。


(なんでこんなことになってんだ…?)


草むしりを終えた午後、アユムはいつも通りミツキと話しながら昼食を取る予定だったのだが、気づけば少女が目の前に座っていたのだ。


ミツキは無言でアユムの隣の席に移り食事を開始し、目の前の少女の無表情さと無口さに釣られ一切の会話はなかった。


食後、ミツキはリュウコと共に園長に呼ばれ出ていったが、目の前の少女は動く気配もなく、ただそこに座っている。


アユムはそのまま彼女を残し席を立つ気にもならず、無言のまま向き合い続けることになっていた。


「なぁ」


「……」


「なぁってば」


「………」


思わず天を仰ぎそうになる、アユムはめげそうになった。


ミツキの言葉には反応していた。リュウコもしきりに何か話していた。それに今日の昼食も手伝っていたようだ。


(言葉が分からねえわけじゃないんだろうけど、なんでこうも無口なんだ)


廊下を通る施設の子供達がチラチラと少女を見ている、そりゃそうだとアユムは思った。


(いねーもんなこんなツラのいいヤツ、リュウコ姐さんはリュウコ姐さんだし…)


リュウコとは幼い頃には一緒に風呂に入っていたような仲だ、施設の子供達も大体そんな感じであり、年少組は今でもそうだ。


リュウコも世間一般で言えば美人だが、子供達としてはガキ大将という印象が強すぎる。


「まあいいや、勝手に話すから反応したかったら反応してくれ」


「……」


少女の目が少しだけ横に動いた。気の所為かもしれない。


アユム自身は認めたくは無いが女性に免疫は一切ない、だが昨日の買出し以降、目の前に居る少女には不思議と緊張しなくなっていた。


(まあ見てくれは同い年だが施設に来たばっかの年少組の女子みてえなもんだと思えばな)


実際の所、少女は何も言わない、表情も変えない、そしてあまりものをよく知らない。


感覚的には幼い少女が施設に来たばかりの状況によく似ている。


その美貌に緊張していたアユムもそうして新しい妹分みたいなもんだと認識を改めるに至った。


「なんか色々有りすぎて忘れそうだけど、一昨日の夜に会って今日でまだ2日しか経ってねえもんな」


少女は無表情と無言を貫く、だが、話を聞いているのは解っている。



結局、こういう相手には独り言のようになっても話し続けるしかないのだ。


受け入れる側がコミュニケーションを諦めたと認識される方がまずいとアユムは経験から知っていた。


「なあ、ここには慣れたか?」


「…」


「まあ、リュウコ姐さんと同室なんだ、いじめられる心配は…まぁリュウコ姐さんは女子には甘いからな、ヘーキだろ」


「…」


「所で今日の昼飯手伝ってたみたいだけどよ、料理できんの?」


「…」


アユムは諦めずに話し続ける、反応はない、でも席を立たないのだ、不快ではないのだろう。


ふとアユムは思った。


この少女の今までの生活にこんな時間はあったのだろうか、果たして人と話す時間なんてあったのだろうか。


(もしかしたら元々居た場所だとスゲーおしゃべりだったりしてな、だったら面白えな)


彼女の過去は悲惨そのものだろう、でも、そういう時間があったと想像することは自由だ。


アユムは決めた。少女が席を立つまでラジオのように話し続けてやろうと。




「そういやこの前ミツキが、スゲーすかした顔でスゲーアホなことしてよ」



「ああ、いやリュウコ姐さんが悪かったわけじゃないんだけどさ…でもな?ひでえだろ?」



「節約の為とはいえ園長が素手で解体工事してたのは人間離れし過ぎててな…久々に肝が冷えたぜ…」



「ああ、そういや学校でよ」




アユムはとりとめのない話を、彼の日常を話し続けた。


この施設は変なやつが多い、無論施設の外にも一杯そういう人もいる。


本当の意味で普通なヤツなんてどこにも居ない、みんな変で出会った人達はみんな面白い。


少なくともアユムはそう思って普段ミツキとするような、なんてことない面白いことを少女に伝えた。


「………」


(聞いてはくれてるんだよな)


話をしているとたまに少女の瞳が動くことがあった。


それはアユムが大げさに言ったり、変な動きを話に混ぜた時だ。


少女は無言だったが、アユムは段々そんな少女がわずかに見せる反応を見るのが楽しくなっていた。



ふと一つだけ疑問が過ぎった。


「なぁ」


「……」


アユムはテーブルに肘を付き、頬杖を付くようにして聞いた。


「ここまでの話で、ここに居たいと思ってくれたか?」


少女が僅かに身じろぎをした。


なんとなく、アユムは勝ったと思った。



アユムの肩に筋肉質な腕が巻き付き、その首を絞める。


「よォ~アユム、楽しそうじゃねえかァ~、邪魔したかァ~?」


ニヤニヤした顔のリュウコの顔がアユムの顔のすぐ隣にあった。


「うええ…リュウコ姐さん、何、何で」


アユムは悲鳴を上げる、ここ数年でも屈指の楽しさを秘めた悪魔の声に震えた。


「テメー、無茶苦茶面白い特技を隠してたって話じゃねェか、聞いたぜェ~園長からガッツリとよォ~」


「……!?」


アユムは咄嗟に背後に視線をやった。


ミツキが祈るようなポーズで立っている。


「スパーだ、スパー!オラ!ついてこいや!無制限でやるぞ!出し惜しみしたら挽肉にしてやるからな!」


「ま、ちょ、リュウコ姐さん、あ、あああああああ!!!」


ズルズルとアユムは引きずられていく。


こういう時のリュウコは本当に悪魔のようだとアユムは良く知っていて、だからこそ恐怖していた。




アユムが去った後のテーブルに、少女が残されていた。


ミツキが近づき話しかける。


「随分楽しそうだったね、良かった」


「……」


少女は無言で返した。


「ここには慣れた?」


「……」


少女は身じろぎもしない。


「アユムならリュウコ姐さんとスパーって話だから、多分ここを出て左にまっすぐ突き当りの部屋だよ」

「君ならもう知ってるし二人共迷惑に思わないと思うよ」


少女は席を立ち、するすると部屋の外に出ていく、向かう先は通路の左側。


「なんだよ、滅茶苦茶仲良くなってんじゃん、アユムも隅に置けないなぁ…」



ミツキは知っている。こういう時のアユムは誰かのために必死に頑張れるヤツだと。


だからアユムはミツキにとって初めての友達になったのだ。

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