草むしり《インテグラリティ》
「ごめん、昨日アユムが居ない間に園長に僕の【魔法】の事を話した」
「は?」
日曜日の朝、初夏とは思えない照りつける太陽の中、アユムとミツキは施設の草むしりをしていた。
そんな時にミツキから受けた突然の告白にアユムは困惑した。
「いや、内緒だって言ってただろ、何してんだよミツキ」
これは狩りを始めた頃に二人で最初に決めた取り決めだ。
大人達は【魔法】を使う為ならなんでもする、ならば【魔法】を使う子供に何をするか、アユムもミツキも身を持って知っていた。
園長は自分達の味方だと知っていたとしても、【魔法】を明かす事への忌避感はアユムの中に強く根付いている。
「僕だって言いたくなかったさ、でもさ…」
そう言ってミツキは盲目の目をリビングの大窓に向け、アユムも釣られるようにそちらに顔を向けた。
そこに居たのはリュウコと少女、昼の支度を始めようとしたリュウコに少女がぺったりと貼り付いてる。
「あの子がどんな子かは正直分からない、でもあの子の【魔法】はどう考えても危険だ」
「そりゃな…」
アユムは手を止めて思い返す。
恐ろしい激情、欲求、破壊される理性、そして―――
頭を振って邪念を払う。
「まあ言いたいことは判ったよ、園長にアイツの【魔法】を伝えないのは…無いな」
そうして、少女の【魔法】の事を伝えるなら自然と何故わかったかの話になる。
「俺の事は話してないんだよな?」
「うん、でも夜に二人で出かけているのはバレているし、ならアユムの方に関しても察するんじゃないかな」
「まあそうだよな…」
あの園長は野生の勘とも言えるような察しの良さがあり、今までも泳がされていたというよりこちらが言うのを待ってくれていた節があった。
「どちらにせよ、早いか遅いかの差でしかなかったとは思うけどね、でも勝手に約束を破ったから、ごめん」
「いやいいよ、俺も園長に黙ってんのしんどかったしな。これでスパーでも魔法解禁できるし考えようだろ」
アユムは前向きに考えることにした。今までコソコソやってた【魔法】が大手を振って使えるのだから悪くはない。
「あっだけどよ、狩りはどうすんだ、絶対止めるだろ、園長」
「そこについては一切触れなかったよ、多分何をしているかまで解っていたと思うけど…」
「ああ、そういうことか…」
夜歩きは原則禁止、施設のルールであるが少女を連れた夜、園長はそれをため息まじりに認めてくれていた。
止めても無駄、と判断したのだろう。
実際、アユムとミツキは禁止されたとしてもそれを理由に辞めるわけがない、どんな手段を使ってでも狩りを続けるだろう。
光輪会に来る子供達にはそういった変えられない性根というものが何かしら存在した。
それを園長は解っているのだ。
「あと、あの子のことで相談した内容はこれだけじゃないんだ」
「なんだよ」
改まった言い方にアユムは自然と背筋が伸びた。
「アユムがあの子とリュウコさんと出かけた後、ちょっとその筋に詳しい人に探りを入れてみたんだ」
「お前も大概隠し事多いよな、なんだよその筋って…」
義足の改造、パーツの発注、仕掛け、情報収集、その隠し事の恩恵にタダ乗りしているアユムとしては文句を言う筋合いはないのだが小言が出てしまった。
「まあそこは説明してもしょうがないしね」
ミツキもミツキで素知らぬ顔でそんな返答をする。
「話を戻すけど、街のヤクザとか半グレ連中に人探しの依頼が出てるみたいでさ」
「人探し、って、おいまさか」
「あの子だよ、あの子、ヤバいでしょどう考えても」
そのセットなら確実に背後に居るのは悪魔崇拝者達だ。
「詳細は伏せられているし名前も無いけどね、昨日の今日でこれだ、早すぎる」
「なら理由は、【魔法】か」
「そうだね、悪魔崇拝者達があの子の【魔法】を使ってなにをしていたのかは知らないけど相当手配書がばら撒かれているみたい」
「若しくは、何かをするつもりなのか…って感じだな」
背筋に寒気が走る、あんな【魔法】を使ってやることなんてどう考えても碌な事じゃない。
「アユムが言ってたけど、あの子の容姿は物凄い美人で神秘的なんだろ、あの漫画のキャラみたいな紫のメッシュもそうだけど一般的に見て変な子だ」
「まあそうだな、色々有りすぎて当然の事に気が回らなかったけど」
「あれは多分、演出なんだと思う」
「演出?」
アユムは首を傾げた。
「そう演出、あの子は多分、悪魔崇拝者達の巫女みたいなもんだったんじゃないかな?それかそれに近しいシンボルみたいな存在」
「そういう事か」
悪魔崇拝者達は意味があるにしろ無いにしろ、現実味の無い演出や装飾を好む、出自のオカルトも理由であるし現実の逃避が唯一の共通点だからだ。
「そうなるとマジで園長の助けがないとどうしようもねえな」
「僕等は平日は学校あるしね」
「それもそうだけどよ…」
アユムはここ数日で実感していた。
自分は弱い、奇襲で倒せなければ酷く脆い上に火力不足、仮に魔法使いでなくても徒党を組んで逆に奇襲をされれば相当分が悪い事になるだろう。
守るとなれば頼りになるのはフィジカル、それも圧倒的な。
「……クソったれ」
事態は急にややこしくなった。それに皆を危険に晒している。全部自分のせいだ。
「アユム」
ひとり悪態をついたアユムの名をミツキが呼んだ。
その盲目の目はアユムを見ていた。
「どんな結果でもあの時のアユムは間違ってない、僕はそう思うし園長もそう思ってる。リュウコさんだって多分そうだよ」
その言葉は強く、真っ直ぐアユムに伝えられていた。
「僕等は、僕等をこうした悪魔崇拝者達を許さないって決めた。でもそれ以上に…」
強く強く言い放つ。
「僕等と同じ境遇の仲間を見捨てる事は許さない、普段はわざわざ言ったりはしないけど、そうだろ」
アユムはくらくらするような感覚に襲われた。
初夏にしては暑すぎる日差しのせいか、それとも折れかけた心をぶん殴られたようなこの強い熱のせいだろうか。
何にしてもアユムはウジウジ考えるのを止めた。
「ああ、そうだな、そうだ」
言葉にする、そうだ、絶対にそうだ、そう自分に言い聞かせる。
「家族を守るぞ、ミツキ」
「うん、家族を守ろう」
ミツキが拳を突き出していた。
アユムも拳をその拳に打ち合わせた。
アユムは知っている。ミツキの内に秘める苛烈で高潔な感情を。
だからミツキはアユムにとって信じるに足る相棒になったのだ。




