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音の子  作者: 花言葉
王子との恋の行方
24/24

3

 帰りの支度が始まり、みんな、アイシャにあいさつをしていく。

「がんばってくださいね」

「はい」

 何人も対応しているうちに足が痛みだした。だが、笑顔を崩さず相手をしていた。

「アイシャ、大丈夫?」

 ベルツが、隣に来て、声をかけてくる。

「ええ」

 冷や汗をごまかすには、無理があった。

「そう」

 ベルツはそう言うと、迷わずアイシャを抱きあげた。

「王子、あいさつ」

「いいから」

 そう言って、空いている部屋に連れていかれた。

「足、大丈夫?」

「ええ」

 少し暗い部屋で、足を出すと、赤く腫れている部分が大きくなっていた。

「無理するから」

「無理じゃないわ」

「これが治るまで、相当痛いだろうね」

「えっ」

 アイシャは、困った顔をしたが。

「いいの」

 強がった。

「はいはい」

 ベルツは、軟膏を塗ってくれている。

「ごめんなさい」

 アイシャは、謝った。

「何が?」

「最後まで、しっかり務められなくて」

「気にしてないよ」

「……そう」

(ベルツは、気を使ってくれているのね)

 アイシャは、申し訳なくなっていた。

「アイシャ、今、君が気にするのは、足の事だけだからね」

「えっと……はい」

 ベルツの優しさが、少しばかりうれしかった。


☆ ♪ ☆


 そして、緩い靴に履き替えて、アイシャは、ベティと部屋に戻って行った。ベルツも自分の部屋に戻った。




 次の日、城の中では、あるうわさが広がっていた。

「昨晩、王子は、パーティーを抜けたわよね」

「ええ」

「もう、アイシャさんとは、結ばれたって事じゃない」

「そうかもしれないわよ、もう婚約してらっしゃるもの、なにもおかしい事ではないわよ」

 メイド達は、楽しそうにそう話している。

(ああ、恥ずかしい)

 アイシャは、そう思っていた。

 ベティは、事情を知っているので、何も言わないが、この噂は、瞬く間に広まってしまったのだ。

(どうして、こうなってしまったの)

 アイシャは、王と王妃に呼びつけられた。

「その、何でしょうか?」

「ベルツとの仲は、どうなのか聞きたいのだが……」

「何もありません」

「ほらな、噂など、あてにならないだろう」

「照れていらっしゃるのよ」

 王妃は、そう言って、王を睨む。

「本当に、何も、ないです」

「本当の、本当?」

「はい」

「そうなの、ベルツも何で紛らわしい事をしたのかしら?」

 王妃がそう言う。

「私が、靴擦れしてしまって……」

「ああ、それで、お姫様抱っこで連れて行ったのね」

「それだけですから」

 アイシャが慌てていると、王は。

「ベルツもそんな風に抜け出せば、こう言ううわさが立つことを、きっと、わかっていただろうに……」

 にやにやしてそう言った。

(ちょっと待って、王子は、分かっていてやったと言う事、噂を否定しないのも、そう言う事にしたいからなの?)

 アイシャは、グルグルと頭の中で、いろいろな感情が回転していた。

「何はともあれ、国の民衆の前でああ言ったのだ。仲良くするのだぞ」

「は、はい」

 アイシャは、堅くなってそう返事して、謁見の間を出た。

「あっ、アイシャ様、おはようございます」

 メイド達は、様をつけてあいさつするようになった。

(私は、姫になるのよね?)

 少し不安もあったが、誰にも頼れないと思っていた。

(さあ、がんばろう)

 レッスン室へ行こうとしていた時、ベルツと目が合った。

(王子!)

 ドキドキと胸が高鳴る。

「どこに行くの?」

 ベルツは、笑顔でそう聞いてきた。

「レッスン室です」

「そう、がんばっているね」

「ええ、がんばっているわ、誰かのせいで」

「アイシャは、私が選んだことを怒っているの?」

「いいえ」

 少し拗ねてそう言った。

「王子は、この前、本当は、足の事ではなく、別な理由で連れ出したのではありませんか?」

「えっ? さあ?」

「国民に、ラブラブアピールして、既成事実まで作っちゃったのですものね」

 ベルツは、少し汗ばんでいる。

「ごめんよ、アイシャ、実は、そうなんだ」

「やっぱり、王も王妃も気づいていたわよ」

 アイシャは、顔を赤くしてそう言った。

「だって、アイシャが大事だから」

「王子って、しゃべるとたらしみたいですね」

「アイシャにだけだよ、そもそも、今まで、女性と話せもしなかったのに……」

「わかっているわよ」

 アイシャは、いじわるしたと思い、ベルツに向き直す。

「他の人には、やらないでね」

「もちろん」

 ベルツも必死で頷く。

「そう」

 アイシャが去ろうとした時、ベルツに手をつかまれ。

「アイシャ、本当は、不安なんじゃないか?」

 そう優しく言われた。

「そんなことないわ」

 強がってそう言ったが。

「いいんだよ、アイシャ、無理しなくて」

 ベルツは、優しくアイシャを抱きしめた。

「王子!」

 今、廊下には、誰もいなかった。

「あの、その、少しだけ不安でした」

「そう」

ベルツは、優しく頭を撫でる。

(うん、何だろうこの展開)

 アイシャは、パニックになっていた。

「不安じゃない人なんて、いないよ」

「そうですか」

「うん、だって、姫になるって、難しい事だもの」

「そうよね」

「アイシャは、最初からうまくできなくてもいいんだよ、アイシャは、アイシャらしい姫になればいいんだ」

「そうね」

 ベルツの腕の中は、妙に安心してしまう。

「アイシャは、立派な人になるって信じているよ」

「そんな事はないわ」

「いや、昔の姿を見ても一つも動揺しない女の子は、大物になると思っているよ」

「そんなことで」

「アイシャには、そんなことでも、私には、衝撃的だったんだ」

「それじゃあ、しょうがないわね」

「音の子は、運命の子だと、モンネが言っていた」

「誰? モンネって?」

「私に、音の子の事を教えてくれた賢者さんだ」

「じゃあ、その人のおかげで出会えたんだね」

 アイシャが、しみじみとそう言うと。

「そうだね、感謝しなくちゃ」

 ベルツは、ニコニコしている。

「私たちの運命は、こうなる様になっていたのかしら」

「そうだったら、ステキだね」

 そうベルツが言った時。

「ベルツ王子」

 マティスが呼ぶ声が聞こえた。

「はい」

 ベルツの手が離れる。

「あの、王子、私は、後悔などしていませんから」

「……」

 ベルツは、少し悩んで立っていた。

「よし、こっちにしよう」

 そう言って、アイシャに抱き着いた。

「ベルツ!」

 マティスがだんだん近づいて来る。

「ベルツ!」

 アイシャは、手を離すように言うが、完全に無視している。

「おい、ベルツ!」

 マティスが、廊下を曲がってきて、そう言った。

「あれ~、会っていたの、邪魔しちゃった」

「マティスさん~」

 アイシャが呼びかけると、マティスは止まった。

「王子が離れません」

「やっぱりか……」

 マティスは、呆れて、ベルツの顔を見る、

「アイシャちゃんが好きなのは、いいが、仕事をさぼることは許さん」

「その前に離れて」

「アイシャちゃんを抱きしめていたいのは、分かる」

「マティスさん、わかっちゃだめです」

「でも、王子なら、あきらめられるよな」

 マティスは、そう言って、離れるように言った。

「いやだ」

 ベルツはそう言った。

「アイシャが、かわいいんだもの、ずっとそばに置いておきたいよ」

「だから、それは、叶ったでしょう」

「もっとそばにね」

「離れない気ですか」

「うん」

「それなら、力づくでも」

 マティスがそう言うと。

「王子、放して下さい」

 冷たい声で、アイシャがそう言った。すると、ベルツは離れた。

「いいですか、私もレッスンがあるのです。遊んでいる場合ではないのですよ!」

 アイシャは、怒ってそう言った。

「アイシャ……真面目だね」

 ベルツが悲しそうにそう言った。

「当然のことです」

 アイシャは、もう一度叱った。

「仕事をしっかりしてきてください」

「はい」

 ベルツは、落ち込んだ様にそう言った。

「これは、立派な姫になるな」

 マティスは、怒るアイシャを見てそう言った。

「そうでしょう、これなら、将来は安心でしょう」

 ベルツがそう言って、笑っている。

「ああ、強い王妃になるな」

「そんな、アイシャがいいんじゃない」

 ベルツは、もう一度抱き着いて、頬にキスを落とした。

「そういえばさ、アイシャちゃんの後見と、エルガドへの資金援助の話も会議に出ていてさ~、決まりそうだよ、アイシャちゃんは、もう気負うことも無いでしょう」

「それじゃあ、仕事してこなきゃね、バイバイ、アイシャ」

「よろしくお願いします」

「アイシャもがんばってね」

「ええ」



 その後、アギスト王国は、ベルツ王子とアイシャ王妃が守る安泰した国となって行った。そして、何より、二人の仲の良さは、近隣国で知らない人がいないほどだったと言う。

                                      (了)


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