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助手席  作者: 狸
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挨拶

「え?あぁ。確かに人気ありそうですよねw」


当たり障りのない、特に明確な返事をできなかった。

それは水嶋さんが好きなのか嫌いなのか分からなかったと言うよりも杉本さんの質問の意図がいまいち理解できないほどに彼を意識していたからだろう。


「いいね〜若いってw」


そうおどけたように言ってみせる杉本さんに返す言葉を

私は見つけられなかった。

下手に好意をちらつかせて拒絶でもされたら

なんて考えが頭をよぎる。


それに教習所マジックなんて言葉があるくらいなら恐らく彼は

私のような生徒を何人も見てきただろう。


その大勢に自分も紛れてしまうのかと思えば思うほど


彼が憎らしかった。

この感情は間違っている。


自分でも分かってはいるがどうしようもできなかった。

あの指輪を知っている。彼を好きになること自体がお門違いなことも。

仕事に熱心な彼だからこそこちらを向かせたくなってしまうのは

私が強欲だからなのだろう。


「お疲れ様〜。じゃあ念願の試験だね〜。このままついてきてもらって良い?試験の予約するから。」


「は〜い。」


「この曜日とこの曜日は試験日なんだよね。できたらあまり日を空けずに試験を受けてもらいたいんだけど。良い日にちある?」


「あ〜。この日ならいけそうですね。」


「了解。じゃあこの日で橋元さんの試験お願いしまーす。」


そう言うと杉本さんは受付から少し離れ


「ごめんね。その日僕挨拶できないかもしれないけど頑張ってね。応援してるから。」


と珍しく真面目なトーンで言った。


「あぁ、大丈夫ですよw落ちたら笑ってくださいねw」


「うんwじゃあ、気をつけてね。」


そう言い別れて教習所を後にする。たまたまタイミングよくバスに乗り込み

イヤホンをする。好きな人の音楽を流すと心が落ち着く。


さっきの挨拶ってなんだろう。朝にもう一回頑張ってねなんて言うのだろうか。

それはそれで嬉しい気もするけどそんなことされては落ちた時に恥ずかしいじゃないか。

でもやっぱり試験日の朝また杉本さんに会えるのも良い気がするな。

ちぇ。会えないのか。でもかもしれないって言ってたしな。


あれほど好きだった音楽さえ耳を通り抜けていた。

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