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助手席  作者: 狸
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子供

思わず言葉を見失い無言になってしまった。

その空気に耐えられなくなったのか口を開いたのは杉本さんだった。


「そういえば、橋元さんどうだったの〜模擬テスト。」


そういってファイルをめくると


「え!?合格してるじゃん!!てっきりその感じだと落ち込んでるっぽかったから合格できなかったのかと思ってた。優秀優秀。さすがだね。」


目に見えて嬉しそうに褒める杉本さんを見ると

さっきまでの言いようのない感情はすっと溶けていき


「褒めすぎですよw」


と返すことができた。


「いやいや、本当に。最近一発合格したこなんて僕見てないからね。何回でも無料で受けられるっていうのがあるからなんだろうけどね。ちゃんと勉強してるんだね。関心関心。」


どれくらいだろう。人に褒められたのなんて。

こんなに嬉しそうにしている顔を見たことなんて。

それが彼の仕事なのかも知れないが

彼のその表情は本物だと思いたかった

嘘であるようには見えなかったから。



「なんかくすぐったい感じですね。」


「え?なんで〜?」


「こんなに褒められるのって子供の時ぐらいですよね。」


「もしかしてやさぐれてるの?今w」


「そんなことないですからw真面目ですよ。」


「うん。それはすごいわかる見ててw」


「バカにしてます?」


「そんなことないってw」


こんなたわいもない会話でさえ楽しいのは多分あの指輪を見て


この時間は永遠じゃないこと。

いづれ終わりが来て他人になる時がくるのを理解した上で


この短い幸せな時間を大切にしたいなと思えたからだろう。

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