土魔法の威力
「なぁ、山田。今のこの時間ならみんな寝室とかだろうし、使用人も台所とか朝の仕度で建物から出ていないよな?」
台所があるのだろう、細い煙突からは先ほど煙が上り始めていた。
「ああ、俺たちが見る限り、今朝はまだ誰も建物から出ていないな」
「ならさぁ、お前の土魔法で両方の建物を土で覆えば窒息死してくれるんじゃねぇ?」
なんと!
それはそうだが、俺の魔力がもつかな?
まぁ、プライベートエリアを造る時、じゃんじゃん魔力を使ったから魔力量が増えているのは分かっているんだが・・・・。
そう言ってみると、「じゃああっちの主となる建物だけ先にやって、まだ魔力が残ってたらあっちの小さい方もやってみるとか?もし、小さいほうの魔力が足りなければその時は両側から俺たちが切り伏せればいいだけだからな」と言われ、それもそうだとまずは主となる大きめの建物を土で覆いつくした。
「やったな。できたな」
「ああ、デキたな」
「で、魔力はどうだ?」
「まだあるけど、もしかしたらギリギリかもしれん」
「じゃあ、お前が魔力不足になったら俺がちゃんと守るから、あっちの建物もやってくれ」
「おう!」
「ドシャ、バササササ」
建物の中に土の塊が現れ、そこから増殖する様に広がって、全ての窓や扉を破り外に流れ出した。
「どれくらいで窒息するのかな?」
「水中だと数分じゃないのか?」
「でも、土の粒の間に空気が含まれていたら?それにほらあそこ、警備兵が近寄ってるから外から穿り出されるって事はないか?」
井ノ川にそう言われてみると、その危険がある事が分かった。
「圧縮!」
中の空気を押し出すイメージで唱えると、がっぽり魔力を持っていかれた。
「おい、山田。警備兵が土を崩してるぞ」
井ノ川が指差す方を見ると5~6人の兵士が慌てて土をどかそうとしている。
中の空気を押し出すイメージで魔法をかけているので、兵士が何をしても崩れないとは思うのだが、今まで使った事の無い魔法なので、実際の所どんな状態なのか分からない。
そこで念のため「硬化!」と外側だけを硬化するイメージで唱えると、俺の意識は吹っ飛んだ。
気が付くと、王都内の宿屋の一室で目が覚めた。
「お前、硬化!って叫んだら意識を失って尖塔から転げ落ちそうになったんだぞ。魔力を全部使うとあれ程危ないなら、土魔法を提案して悪い事をしたなと思ったぜ。何とか尖塔の瓦の端の所でお前の襟をひっつかんで城外に逃げれたから良かったよ。お前が魔法を実行している時に、あれでもと思って俺に命綱を取り付けておいたにが功を奏したんだ。でなければ片手の俺がお前を掴んでも、反対の腕では何もつかめなかったからな。本当に一瞬でも対応が遅れたら二人して尖塔から真っ逆さまだった」
「井ノ川、ありがとう。俺も魔力を使い切るとどうなるかって知らなかったから、驚かせてすまない。で、王族の連中はどうなった?」
「まだ、何の発表も無い。数日この宿で様子見だな」
翌日、まだ本調子ではない俺を宿屋に置いて、もう一度井ノ川だけで王城の尖塔に登ってくれた。
王族の生き残りがいるかどうか、土で埋め尽くした居住区がどうなったかを確認する為だ。
井ノ川によると、まだ建物内の土が固く固まっているらしく、兵士たちが掘り起こそうとしているけど、実際には土をどけるまでには至っていないこと。
居住区のすぐ傍には、兵士に交じって聖職者らしい服を纏った人間が3人立ったまま待機していることを教えてくれた。
これはイケたんじゃないか?
井ノ川は城から出る時に、念のため井戸に毒まで入れて行ったらっし。
その後も1回だけ尖塔に登ったが、夜だったので、あまり良く分からなかった。
居住区の建物2つには全く燈らしいモノがなかったらしいので、土が取り除かれていたとしても、人は住んでいないってことだ。
王都内に宿を借り体を休めていたら、俺たちが事を起こした8日後に王族全員が土で生き埋めになったという噂が聞こえて来た。
何故8日のタイムラグがあったのか知れないが、まだ生き埋めになった事しか情報が流れて来ていない。
着実に王族を屠った事を確認したい俺たちは、再びソノマと連絡を取った。
伯爵家に務めているソノマだからこそ、知っている情報があるかもしれない。
「ヤマダ様、成功されたのですね」
俺の顔を見るなりそう言って来た。
「全員亡くなったのか?」
「はい。ただ、あれ程の土砂が居住区を埋め尽くすとなると、周りに山も無いのに何故と城内の者が話しているそうです。勇者たちが戻ってきて報復しているのかもという意見もあったそうですが、あれ程の土砂を呼び出し固めるなど、歴代の勇者様にも出来ないから、違うのではないかという意見もあるそうです。どっちにしても国が混乱するといけないので、発表は伏せられているとのことです。今のことろ有力貴族間でどの家が国を掌握するかで争っているそうです。内戦になるかも知れません」
「そうか、逃走の時もそうだったが、君には本当に色々と助けてもらった。俺たちは目的を果たしたので、このままこの国を離れる事にする。本当にどうお礼をしたら良いか、何か希望があったら教えてくれ」
ソノマは何も欲しがらなかったので、俺たちが持っていたいくばくかの金貨を渡した。
いくばくかとは言っても小さな店くらいは開ける金額だ。
それが俺にできるせめてもだった。
金があればソノマの将来に色んな選択肢が広がる事を願って、物は金貨だが感謝の心はいっぱい込めて渡したつもりだ。
「じゃあ、元気でな」
「ヤマダ様、最後に今この国では一人だけ体を乗っ取られた勇者様がいらっしゃる事をお伝えします」
「何色の髪だ?」
「ピンクです」
山口かぁ・・・・。
結局、俺たち4人以外は全滅かぁと暗澹たる気持ちになったが、ソノマへはちゃんと挨拶をして帰路についた。




