候補地
「着いたぞ。ここが我々の村だ。この広場に共同の井戸がある。今の所、村唯一の井戸だから大切に使うように。この広場に面しているその建物が村長の家、つまり儂の家だ。何か問題があった時の相談や、徴税などはこの建物でする。行商人は年2回、この広場へ来る事を国が約束してくれている。行商人は第二陣の村人と一緒にここに来るので、およそ2か月後だ。どこを耕地にするかは各自が決めて良いが、どの辺りにしたいかは前もって儂に相談する様に。基本、早い者勝ちで土地を区分していくからな。今夜は初日というとで炊き出しがあるが、明日の朝からは各自で食事の用意をしたり、家を建てたり、土地を耕してくれ。それじゃあ、炊き出しはこれから用意するから鐘一つ分くらい時間がかかる。出来たら、儂の家の前のあの小さな鐘を鳴らすからな。解散!」
井戸と村長の立派な二階建ての家以外は何も無い広場で一旦解散となった。
早く村の中心に近い場所を確保しようとしている男たちよって、今村長はもみくちゃにされている。
その横では金貨1枚の支度金を支払うべく、役人が大きな声で「支度金だ。身分証明書を提示すること。支度金を受け取ったらこの紙に拇印を押すように」と言った途端に、村長に群がっていた男たちが今度は役人に群がっている。
役人がいつまでこの村にいるのか分からないので、早速おれたちも役人から支度金を貰った。
夕食の配給まではまだ時間がある。
俺たちは出来るだけ村から離れた所にプライベートエリアを作りたいので、俺たちの本気走りで15分くらいの所まで各自別方向へ走ってどの辺りが良い確かめようと直ぐに散らばった。
俺たちが本気で15分走ったら、こちらの現地の人たちだと1時間半から2時間くらい歩いた場所になるはずだ。
それだけ離れていたら、早々俺たちのプライベートエリアに来たいと思う奴はいないはず。
高橋が馬車に乗って、街道に沿って移動してくれるみたいだ。
馬車で15分だと俺たちが走るのに比べ、あまり距離はないが、街道沿いがどんな感じなのか知っておきたいのと、馬車や馬を開拓団の中で放置したくなかったのだ。
俺は太陽の動きから南とあたりをつけた方向へ走った。
7~8分も走ったら森の様に木々で鬱蒼とした地域に行きあたった。
小川だけれど水もある。
腐葉土もあっちこっちにある。
平地ではあるが、こっち方向にするのならまずは木の伐採が必要だろう。
土を手で握ってみたら黒っぽい土でふかふかだ。
これって肥えた土の証拠じゃなかったっけ?
まぁ、俺は農業はやった事がないから良く分からんが、この土を広場へ持って帰ってみよう。
ここから先は同じ様な木々で鬱蒼とした土地が続いているだけなので、20分も走ってないが広場へ戻る事にした。
俺が一番に戻って来たみたいでしばらく待つと井ノ川が、その後に辰徳が、可成り時間を空けて高橋が戻って来た。
お互いの調査の結果を話し合おうとしたら、村長の家の玄関先に吊るされた小さな鐘が鳴った。
夕食の配給だな。




