温泉宿にて
港からガルゾ国までは勇者の能力をフルに活かしても徒歩で1か月はかかりそうだ。
途中、村や町で食糧を買ったり、宿のちゃんとしたベッドで寝たりしているので、そのくらいの日数が掛かってしまうのだ。
このハスメルという村はそろそろ町になりそうな大きな村で、そこそこ発展しており、人口も増えているらしい。
昨日の夕方到着し、この宿を取った。
何と温泉が付いているので、2連泊中だ。
この世界に召喚されてから風呂はあっても温泉はなかったので、俺たち全員連泊する事に賛成した。
本当に疲れていたからな。
精神的にも、肉体的にも。
料理は普通の煮込み料理しか用意が無く、温泉がなければあまり魅力のある宿とは言えないのだが、日本人である俺たちにとっては温泉さえあれば良いということだ。
まぁ、日本の旅館みたいに懐石に近い料理があれば尚良いのだけれどな。
贅沢は言わないよ。
昨日の夜も温泉につかり、今朝も入り、今夜もゆっくりと温泉に浸かった。
明日の朝出発の予定なので、出発前には早起きして朝風呂を楽しむつもりだ。
客室は大部屋を一つ俺たちで貸し切り雑魚寝なので、知らない人と相部屋にならずに済んでいる。
他人がいると荷物を取られるんじゃないかとか、寝首をかかれるんじゃないかって落ち着かないからな。
畳があるわけではないので、木製の飾り気の無いベッドが並んでいるだけの部屋。
そこで皆が各々のベッドで寛いで横になっていると、自然と今後についての話が始まった。
「しかし、ガルゾ国へ行くのはもう決定だけど、昨日から絡んできている現地人はどうする?」
そうなのだ。井ノ川が言う様に、この宿に来てから赤毛のおじさんにつき纏われているのだ。
「まずはアイツの事を色々聞き出さないとだな」
「高橋、赤髪がどうのって言うより、俺たちの印象がなるべく薄いまま離れて、第三者に俺たちの事をしゃべらない様持って行く方が大事じゃないか?まぁ、そうは言っても赤毛が山口と接触する事はないと思うけれどな」
「鈴木、お前の言う通りだ。だからこそ奴の国籍や、旅の目的、職業、移動の目的地を聞いておいた方が良いと俺は思うんだ」
「ん?どういう事だ?高橋」
「全くあり得ない事だと思う。だけど、俺たちの事を覚えている奴がいるってだけで警戒は必要だと思う。万が一赤髪が俺たちの行先の検討が付いてしまって、偶々知り合った山口にこういう4人組がいて、どこどこへ向かったらしいという話をする可能性はゼロではない。或いは、ザイディール国が放った追跡者かも知れない。どっちにしても警戒が必要な人物なのかどうかも知らないとな。それには話すのが一番な気がする」
「「「なるほど!」」」
「移動は、俺たちのスピードにはついて来れないはずなんだよな。相手は一般人だからな。だからハスメル村を出たら、もう関り合いになる事もないとは思う。思うんだが、万が一を考えないととは思う」
高橋の意見に全員が一致して同意した。
船を降りてからは、無闇に魔法を使用する事を避けてみたりして、俺たちが勇者だと言う事をひた隠しにしているのだが、そこはやっぱり他人に聞かれたくない話は小声ではあるが日本語でしゃべる時もあってどこまで隠す事が出来ているのか分からない。
髪を染めていても、のっぺりした顔はこっちの人たちとは違う印象を与えるだろうしね。
兎に角、明日の朝、宿を出る前に何とかして赤毛の事を探ろうという事になった。




