船上の日々
2週間は長かった。
一緒の便で移動している商人っぽい人たちは干し肉と固くなったパンを節約しながら飲んでいる水で何とか喉へ流し込んでいる状態で、毎食毎食同じメニューな事もあって倦んだ様な気だるげな雰囲気が徐々に強くなっていった。
水は高橋から買う事が出来るが、当然船の上なら通常より高い値段になる。
お陰で高橋は笑いが止まらない様だ。
日陰を確保できなかった商人たちが数人いて、俺の土魔法で作ったターフを睨む様な目つきで見ていた者もちらりほらり、その中の紫の髪で出っ歯の奴が「端っこでいいんでさぁ。その陽ざしを遮るモノの下にちょこっとでいいから入れておくんなさいよ」と言って来たのを皮切りに、同じ事を言って来た者が複数いた。
俺も小遣い稼ぎとして頼んで来た人数が入れるだけ大きさのターフを作って使用料を取っている。
水に比べれば安い値段だけれど、1週間とちょっとの間は毎日使うので毎日ちゃんと料金を支払ってもらっている。
俺たちが毎日作るスープも欲しいと言われたけれど、食材そのものが俺たちの分しかないので無理だと説明し、量も毎回ぴったり俺たちの分しか作らない。
お代わりをするところを見せてしまうと、商人たちの殺気が強くなるかもしれないので、目分量で鍋に入れる水をちゃんと調整して、俺たち自身もスープは大きな器に1杯ずつになる様にしているのだ。
パンは段々固くなっているが、スープに入れてしまえば柔らかくなるので、俺たちのストレスは商人たちと比べると無きに等しい。
しかし、船の中では俺たちよりも船長や船員の方が台所もある事からしっかり暖かいモノを食べており、ハンモックと言えどちゃんと船内で寝る事が出来るので、顔の色つやは奴らが一番良い。
俺たち客は甲板の上で物陰に隠れてマントや毛布にくるまって寝ているのだ。
雨が降ったり、波が高くて濡れる様な時には、貨物がうず高く積まれている船内に入れてもらえるのだが、ぎりぎり体育座りするくらいしかスペースが無いのだ。
横になって寝るなんてできないということだ。
寝れるだけのスペースが無いのに、雨の日等は何故船内に入れてもらえるのかと言えば、雨などで濡れてそのままにしておくと風邪を引いてしまう者が出てくる。
船の中で一番怖いのは水不足と伝染する病気なのだ。
だから、客が寝れるかどうかが重要なのではなく、風邪を引かさない方が重要なので、貨物室へ入れてもらえるのだ。
「あんたたちゃぁ勇者ざんしょ?」と出っ歯の男が再び近づいてきて甲板の上に雨風を避ける何かを作ってくれよと言って来た。
「!」なんで勇者とバレた?
俺たちの驚愕した表情を見てとったのだろう、「回復魔法以外の魔法が使えるのは漏れなく勇者だかんねぇ」と言われて初めて、今まで無造作に魔法を使って来た事に思い当たり、首の後ろがヒヤっとした。
そんな生活を2週間続けていたら、「陸地が見えるぞー!」とマストの上で監視をしていた船員が叫んだ。
例外なく客全員は陸が見える方へ甲板の上を走って行き、安堵した表情になった。
「あれってスザーナ大陸ですよね?何時頃着きそうですか?」
高橋がその辺にいた船員に聞いたところ「明日の朝には到着するよ」と言われた。
漸くだ。漸く、別大陸へ足を踏み入れる事が出来そうだ。




