山口救出作戦
待ち合わせ場所に3人で着いた時、まだ高橋たちは来ていなかった。
俺たちは出来るだけ暗がりに居る様にし、光が当たると目は光るので、目も出来るだけ伏せる様にして高橋たち3人を待った。
街も寝静まり、酒場の灯りまでもう消えている。
まだ燈が点いているのは、プロのお姉さんたちが働く店だけだ。
それでも3人は来ない。
失敗したのか?
3人とも捕まったりしているのだろうか?
心配で心配でたまらない。
そんな時、可成り離れた所で火の手が上がり、火事が発生した様だ。
もしかして高橋が放った火だろうか?
それから更に1時間くらい待っていたら、2人のシルエットが見えた。
3人ではないのか?
そんな事を思っていたら斎藤のヤツが「何で2人?」なんて声を出した。
その2人が高橋たちでなければ、不用意に人の注意をこちらへ向けてしまうって気づかないのか?
こういうヤツだから俺たちが逃げる時に声を掛けられなかったんだよ。
段々腹が立って来た。
ありがたい事に2人のシルエットは高橋と井ノ川だった。
でも、山口はいない・・・・。
「早く、外へ出よう」
近くまで来た高橋が焦った様に言う。
俺はすぐさま階段を作った。
5人で駆け上がって城壁の上から燃えている屋敷を見た。
城壁の反対側にも階段を出し、内側の階段は消す。
全員が脱出した時、外側の階段も消し、兎に角走った。
王都が見えなくなって初めて立ち止まり、山口の事を訪ねた。
「アイツ、俺たちが助けに行ったら、自分たちだけ逃げやがってって怒りだして、だから迎えに来たと言ったのに騒ぎまくったんだ」と、井ノ川は腹に据えかねたのか怒りでいっぱいの様だった。
「で、俺が火事を誘発して、家人の意識を別の所へ一旦は向ける事は出来たんだが、山口が言う事をきいてくれず、連れて来る事が出来なかった。あれじゃあ、助ける訳にもいかない」
井ノ川と高橋は心底疲れた顔をしていた。
それはそうだ。
助けようと自分たちの身を危険に晒してまで行ったのに、怒りをぶつけられ、それだけでなく一緒に逃げるための指示に従ってもらえなければ、もう俺たちに出来る事はない。
しかしどうして山口ってあんなに直情的なんだ?
怒るにしたって、一旦脱出してからではダメなのか?
斎藤が少し恨みの籠った目を俺たちに向け「お前たちが居なくなって、俺も山口もものすごくお前らを恨んださ。で、山口は元々すぐに怒りをあらわにする方だし、何時までもしつこく怒るタイプだから、この2週間、ずっとお前らへの恨みを貯め込んでたんだろうよ。アイツの不用意な発言のせいでお互いのチョーカーを外せなくなった事が原因で見捨てられたんだって、自分の掌に爪が食い込む程手を握りしめていたくらいだからな」と言うが、俺たちがこの二人と一緒に逃げなかったのはそれだけではなく、周りの人間の事を考えない所が一番の理由だったのだ・・・・。
俺たち4人はもう溜息しか出なかったが、高橋は「山口が俺たちの事をバラしていたら追手が来るはず。今夜は寝ずに夜通し走って逃げないと、追手に追いつかれる可能性があるぞ」と先の事を考えていた様だ。
高橋の言う通り、みんなその夜は一晩中走ってハヤルマ帝国との国境に向かった。




