ソノマの事情
その後、ソノマが俺の寝室に来るまでに5日の日にちを要した。
今現在、俺と関係を持っているのは3名のメイドだ。
俺の部屋に来る順番はどうやって決めているのかは知らないが、こちらから指定できる訳ではないので、ソノマが来るまでは俺からは何も出来ない。
「この前の続きを教えてくれ」
「はい」
「体を乗っ取られたら俺たちはどうなるのか?」
「体は残りますが、魂は残りません」
「それは実質的な死を意味しているということで間違いないか?」
「はい」
「どのタイミングで乗っ取られるか分かるか?」
「恐らくですが、勇者が戦闘技術を得て、これ以上伸びなくなった時。それと、貴族家の子息に子供が出来た時です」
「ん?どうしてそのタイミングだと分かるんだ?」
「体を乗っ取られると、戦闘技術を伸ばす事が出来なくなります。ある程度まで戦闘技術が伸びるのを待ちますが、全然伸びなくなるとそれ以上待っても意味がないのでその場合も身体を乗っ取られます。後、今回は勇者の年齢が若かったので、貴族側も自分の血を残すため、乗っ取る側の子息が総領息子である場合は、その息子の子供が出来るのを待って乗っ取ります」
「ということは、乗っ取った側は当主として家を盛り上げ、自分の血を引く子供に家を継がせ、勇者の子供は奴隷とし、自分の子供を盛り立てさせるということか?」
「はい。その通りです」
くそったれがっ!
「でもどうして今回は俺たちの様な若い者が召喚されたんだ?」
「良くは分かりませんが、今回は召喚に失敗したそうです。指定した年齢から外れた勇者が召喚され、しかも前にも言った通り、内数名は亡くなった形で召喚されたそうです」
召喚されたあの時、何か違和感を感じたんだ。荷馬車から出ていた複数の足・・・・。
でも、目まぐるしく変わる周りに流されて、追及しなかった。くそっ!
だとするとあの荷馬車には森下とか大野とかも含まれていたってことかっ!
あまりの事に言葉が出ないが、このチャンスを逃すと、今度また何時ソノマと話せるか分からないので、兎に角知りたい事全部を今聞くしかない。
「お前は何故、俺にこんな事を教えるのだ?」
俺は全ての力を目に込めて、ソノマを睨み付けた。
「私の姉は現当主のパリスに弄ばれ、捨てられました。私の家は田舎の騎士職です。父は貴族ですが、子供である私たちにその騎士職を相続する権利はなく、平民扱いとなります。ある日、村に狩りに来た貴族の中にパリスがおりました。妾にすると約束し、他の男性との結婚が決まっていた姉を王都へ連れて来たのです。姉も父も権力のある貴族に逆らう事ができなかったのです。あの時、なんとか姉が連れて行かれる事を止める事ができていれば・・・・」
ソノマの表情は鬼気迫る物があり、これで彼女の話しが嘘ならば、相当な女優と言えるだろう。
「正妻であるトリースが、妊娠した姉がパリスを裏切って他の男の子をもうけたと嘘を吹き込み、怒ったパリスは姉を捨てました。それもただ捨てたのではなく、自家の騎士たちに下げ渡したのです。妊娠しているにもかかわらず、無理やり複数の男たちと関係を持たされた姉は、流産し、最後には、売春婦特有の病気に罹り体を蝕まわれ人としての扱いを受ける事なく亡くなったそうです。私は王都で働いてた従兄からその話を聞き、知り合いの騎士家の娘になりすまして、この家に使用人として入り込みました。私はこの家の者を許せないのです。この家の者たちを絶望に追いやるためなら何でもします。勇者の体まで乗っ取って、この家が繁栄する事は絶対に許せません。その為にはあなた様に協力する事はやぶさかではありません」
ソノマが言っている事が本当かどうかは分からない。
でも、俺たちの体が乗っ取られる可能性があるという事を辰徳に知らせたい。
できるなら、クラスメイト全員にも。
日本語で話す事が禁じられている中、どうやって辰徳たちに知らせるか。
俺たちがこの情報を得ている事をザイディール国の者に知られない方法でなければならない。
「ソノマ、次来る時に筆記用具を隠し持って来てくれないか?」
「この部屋に入る前には体を改められます。でも何とか持ち込める様に努力します」
ソノマを信用して良いかどうか分からないが、例え騙されているとしても今頼りに出来るのはソノマしかいないのだ。




