筆記用具
今回ソノマは二晩続けて俺の部屋に来る順番との事で、日中は訓練をしながら早く夜になる事を待った。
「お情けをお願い致します」と言いながら薄物を羽織ったソノマが寝室に入って来た。
今日は髪をアップにしている。
両手には何も持っておらず、筆記用具を持っている様には見えない。
1日中、筆記用具を持って来てもらえると楽しみにしていただけに、急降下するロープの切れたエレベーターの様に気分がズーンと落ち込んだ。
「ギシっ」
ソノマがベッドに上がると、いつもの様にベッドが軋んだ。
そして俺をベッドから下した。
そうすると、「ギシ、ギシ、ギシ」とコトを致しているかの様な音を戸の外に聞かせるために、ソノマは勝手にベッドが軋む様な動きをした。
そして手は口の前に持って来て、声を出さない様にというジェスチャーをしている。
黙って見ていると、ベッドを揺らしながら、アップにしていた髪をおろした。
何をしているのか全然分からない。
じっとソノマを見ていると、髪から外した髪留めを分解し、中から細いチョークの様なものを取り出した。
そして、下着に付いていたヒラヒラした布をはぎ取り、俺に差し出して来た。
この部屋に入る前に簡単な持ち物検査をされるらしいのだが、元々がモーリス家に忠誠を誓っているメイドしかこの部屋に入る事が出来ない事もあって御座なりなチェックしか入らないらしい。
でも、如何にも筆記用具と言う物を持っていればバレてしまう。
インクなんかも持ち込みは難しい。
ということで、紙ではなく布、羽ペンとインクではなくクレヨンを持って来てくれたとのこと。
「このクレヨンは掃除の者に見つからない様に目に付く所に保管しないでくださいね」とソノマが心配そうに言って来た。
「それなら、今布に書き付けるので、このクレヨンはお前が外に持ち出してくれ」
「良いのですか?」
「ああ」
勿論、筆記用具が手元にあれば、それだけクラスメイト間のやり取りが楽になるが、万が一クレヨンを持っているのを見咎められると、今、俺の寝室に通っている3人のメイドが疑われて、下手をすると3人共この部屋に来る事が出来なくなる可能性があるらしい。
それならば、この方法でまた持って来てもらえば良いだけなので、危ない橋は渡らない様にした方が良い。
俺は窓辺のデスクに座り、布に勇者乗っ取りについて書き綴って行ったが、一つ聞くのを忘れていた事に気付いた。
「どうやって俺たちの体を乗っ取るんだ?」
「王家には代々引き継がれて来た呪文と乗っ取りを行うための装置があるそうです。勇者以外で魔法が使えるのは、回復魔法の使い手と王家の人々です」
「俺たちは回復魔法の使い手しかいないと聞いていたが?」
「王家には従属の魔道具を作る力、召喚魔法の魔法陣を持っており、体乗っ取りの装置と呪文が引き継がれています。始祖の魔法使いの血を引いているらしいです。これだけの力があるので権力を握り続ける事が出来ているのです」
俺は小さな布切れにこれだけの情報量をどの様に書き込むかで悩みつつ、なんとか書き終えた。
その後、チョーカーで強制力があるので、ソノマと実際にコトを終えた。
今夜は嫌に長い逢瀬だなと、扉の外にいるヤツには思われたかもしれない。




