第22話 勝者の権利!
紆余曲折あったものの、結局あのあと詩葉は勉強に戻り、取り敢えず今日のノルマを終わらせた────
「ほい、お疲れさん」
「あ、ありがとうございます!」
もう自宅であるかのように勝手がわかっている新太は、一度一回のキッチンまで降りてお茶を入れてきた。
お手伝いさんがまだ残っていれば頼めたが、流石にもう帰ってしまっている。
「もうすぐ今年が終わってしまいますね……」
コトン、とティーカップを机に置いた詩葉は、懐かしむような遠い視線を虚空に向ける。
「ま、その前にクリスマスだけどな?」
「クリスマス……新太君はクリスマス、何か用事がありますか?」
「うぅん……特にないな。毎年家でゴロゴロしてるだけだし」
「あはは。イベント時でもいつも通り……新太君らしいですね」
「詩葉は俺が自堕落だと言いたいわけか」
「いえいえ、そんなことはありませんよ?」
クスクスと小さく笑う詩葉。
しかし、すぐに何かを考え込むように黙ってしまう。
二人の間に沈黙が流れ────
「あ、あのっ!」
「ど、どうしたんだ?」
若干前のめりになって新太の顔を見詰める詩葉。
その表情にはどこか決意が感じられる。
「えっと……私、まだあのゲームでの勝者の権利を使ってないんですけど……」
あのゲームとは、言うまでもなく新太の家で行われたゲーム──名付けるならば理性崩壊ゲームといったところだが、その勝者である詩葉には、新太に何でも願い事を一つ出来る権利がある。
「ああ、そういえばそうだったな。何かして欲しいことでも出来たか?」
「は、はい……」
詩葉は口ごもって、少し恥ずかしそうにモジモジとする。
そして、チラリと上目を使って新太に視線を向ける。
「クリスマスイブ……一緒にいてくれませんか……?」
「あ、ああ。え、そんなことで良いのか?」
「そ、そんなことっ!? わ、私結構勇気がいることだと思ったんですけど……」
「いや、だっていつもこうやって一緒にいるわけで、ただそれがイブの日ってだけだろ?」
両者ポカンとしたまま沈黙する。
これは……そう、互いの言っていることが噛み合ってない感じの間だ。
「ち、違うくて……私が言ってるのは、その……クリスマスイブの日、家に泊まりに来てくれませんかって……」
「あ、あぁ……そゆこと……ってどういうことッ!?」
新太は思わず声を大にした。
「と、泊まるってこの家で俺が一晩過ごすと!? さ、流石に不味いだろ……」
「だ、大丈夫ですよ! 誰もいませんし!」
「そこが一番の問題であることを理解してくれ……」
新太ははぁ、とため息を吐き、手で頭を押さえる。
「い、良いか詩葉? 確かに俺はお前が好きだし、まぁ、お前が俺のことを好ましく思ってくれてるのは凄く嬉しいぞ? で、でもさ、流石に誰もいない家で一晩過ごすとなると、その……なんと言うか、間違い? 的なことが起こらないとも限らないわけで……」
新太の言わんとしていることが理解できないほど、詩葉も子供ではない。
頬を赤らめ、キュッと唇を閉じていたが、詩葉は恥ずかしそうに視線を逸らす新太の手を握った。
「で、でもそれって……新太君が私を選んでくれたってことですよね……?」
「え、え?」
「だ、だって……その、することまでしたんだったら、新太君にはその責任があるじゃないですか……?」
「す、すすすすることまでしてってっ……ま、まぁそうだけど、そうならないとも限らないから流石に不味いと言ってるわけで……」
「な、なら聞きますが! あ、新太君は……私とそういうことになったら、きちんと責任取ってくれますか……?」
「──ッ!?」
新太の胸の奥が、一際大きく跳ねる。
詩葉が向ける熱を帯びた上目の瞳が、握られた手から伝わってくる詩葉の体温が──新太の顔に熱いものを溜めていく。
「そ、そりゃもちろん取らないわけにはいかんだろ……」
その答えを聞いた詩葉は、掴んでいた新太の手を改めてキュッと握り締める。
「それなら、別に……私としては問題ないです……」
「お、お前なぁ……」
詩葉は別に、自分の身を安売りしているわけではない。新太が一途に好きだから、新太になら自分をどうされても構わない──そんな詩葉の気持ちを新太も理解しているからこそ、厳しく突っぱねたりは出来ない。
(ま、まぁ……詩葉は俺に何でも一つお願い出来るわけだし……仕方ないか)
新太は諦めたように一つため息を吐くと、肩をすくめてみせながらいう。
「ま、わかったよ。ゲームの勝者は詩葉だしな、その頼み事を聞かないわけにはいかない」
「や、やったぁ!」
胸の前で両手を握って、嬉しそうに笑ってみせる詩葉。
「その代わり、詩葉もあんまり俺をからかったりするなよ? 俺はマジで理性との戦いを強いられるんだからな……」
「えっへへ、わかってますよ! でも、少し新太君の本能に後押ししたくなるかもしれません」
「全然わかってないぞ、おい……」
新太は頭を抱えた。
 




