第21話 気まずさ。申し訳なさ。けれど好き
放課後琴音と話し終えた新太は、若干の申し訳なさ──いや、かなりの重圧の申し訳なさを胸に日比谷家を訪れていた。
琴音が去り際に残した言葉────
『新太、このあと詩葉の世話よね? ふふっ、気まずくなったらごめんなさい?』
(アイツ……!)
琴音がそんなことを言うものだから、新太としては余計に罪悪感を感じてしまう。
「新太君、どうかしましたか?」
新太がよそよそしいことが気になったのか、隣に座って理科の問題を解いていた詩葉がキョトンとした顔を向ける。
普段は机を挟んで勉強を教えているのだが、詩葉は今日から新太と並んで座っていたいらしく、こうして肩が触れ合うほどの距離感になっているのだ。
「あ、いや……なんでもないぞ……?」
「むむっ!? 新太君がそう言うときは、多分なんでもあることなんです!」
「なぜッ!?」
てっきり「そうですか?」くらいで話題が逸れるものだと思った新太だったが、意外にも詩葉が食い下がってきたため僅かに焦る。
そして、そんな新太の同様を鋭敏に感じ取った詩葉はシャーペンを置くと、座る向きを変えて新太を少し不安げな視線で見詰める。
「もしかして、気まずいですか……?」
詩葉が言わんとしていることは理解出来る。
昨日、新太の家であんなことをしたのだから、気まずくなるのは当然なのだ。
詩葉もなるべくいつも通りに接しようとはしているが、勉強中もチラチラと新太を気にしていた。
しかし────
(はい、死ぬほど気まずいですね。昨日詩葉に手を出しておきながら、放課後琴音に告白されて嬉しいと感じてしまったんだからな。本当に気まずい……というか、死にたい……)
しかし、そんな心中の懺悔とは裏腹に…………
「まぁ、少し恥ずかしい気持ちはあるけど……別に気まずくはないぞ? ははは……」
「そうですか……?」
「あ、ああ……」
ジッと新太を見詰める詩葉。
ひきつった苦笑いを浮かべてなんとかその視線から逃れようとする新太。
「でも、やっぱり元気ないですよ?」
「そう見えるかぁ……」
「はい、見えます」
両者の間に沈黙が流れる。
詩葉にとってはどうということのない間だろうが、新太にとっては気まずくて仕方のない沈黙の一時だった。
そんなとき────
「え、えっと……詩葉……?」
ボフッと、詩葉が新太の胸に飛び込んだ。
両手はギュッと新太の背中に回され、顔は新太の胸に埋めている。
「こうすれば、元気になるかなって思ったんです」
(か、可愛すぎる……そして、胸が苦しい……!)
新太はしばらく葛藤した。
放課後の出来事を言おうか、言うまいか。
しかし、やはり誠実でいたかった。
確かに琴音に告白されて嬉しかったが、それと同時に詩葉のことも大切に思っている。
(隠し事は、良くないな……)
「あ、あのさ詩──」
「──ちょっと待ってください」
「え?」
半音階ほど詩葉の声が低く感じられたのは気のせいではないだろう。
新太が一体どうしたのかと固まってるところ、詩葉は抱き付いたまますんすんと新太の匂いを嗅いでいた。
すると、満足したのかスッと新太から離れると────
「──ッ!?」
新太を不満げに睨む詩葉の瞳に、溢れんばかりの一杯の涙が浮かんでいた。
「う、詩葉!? ど、どうしたんだ!?」
「新太君のバカっ……!」
「え、ええ!?」
手近なところにあったクッションを抱き寄せ顔を埋めて体育座りする詩葉。
「新太君の服から、新太君じゃない匂いがします……! 女の人です……!」
良くわかったな!? と、正直かなり驚いた新太であったが、それ以上に言うのが遅くなってしまったことを深く後悔する。
詩葉のこういう姿を見るのは、非常に辛いものがあった。
「うっ……私、昨日頑張ったんですっ……! 新太君に嫌われるかもしれないとか思ったけど、頑張って積極的にっ……頑張ったのにぃ……!」
「ご、ごめん詩葉! ほんっと悪い! ちょうど話そうとしてたところだったんだけど……」
新太はやってしまったと頭をグシャグシャと掻きながら言う。
「えっと、今日の放課後琴音とちょっと話してて……告白されてっ……!」
「うっ……ぐすっ……お姉ちゃん……?」
「あ、ああ。それで、その……ちょっと抱き合ったというかキスしたというか……はい、しました……」
「うぅ……」
詩葉がクッションから顔の上半分だけ出して、微妙な視線を新太に向ける。
そして、しばらく何かを考え込むように唸っていたが、気持ちが落ち着いてきたのかクッションを抱いたままではあるが口を開く。
「まあ、お姉ちゃんだったので許します……」
「な、なぜ……?」
「実は、今お姉ちゃんとは勝負中なんです……」
「勝負? なんの?」
「……そこに気が付かない新太君の鈍感さには毎回驚かされますが、新太君を巡ってですよ」
「そりゃまた難儀な……」
「だから、私がお姉ちゃんの戦い方にどうこうは言えません……もちろん、新太君が私を選んでくれたあとにもちょっかいを出してくるようなら、ビシッと言いますが」
正直、自分を巡って争っていると言われて嬉しくないわけないのだが、今はそんなことよりも詩葉が落ち着いてくれたことの方が良かったと思う新太。
そして、同時にやはり泣かせてしまったことへの申し訳なさが来る。
「なるほどな。まぁ、何にせよ……その、泣かせてごめん……」
「あ、頭を上げてください新太君! わ、私の方こそ誰か知らない女の子なんじゃないかって勘違いして……恥ずかしいです……」
二人の間に居たたまれない沈黙が流れる。
そして、その沈黙を先に破ったのは新太だった。
「ただ、俺が言えることじゃないんだけど……何か嬉しいな。だって詩葉、焼き餅焼いてくれたってことだろ?」
「そっ、それは……そうですが……」
「俺さ、詩葉も琴音も二人とも好きなんだよ。今はどっちの方が好きだとかなくって、ただ、どっちも好きなんだ。だから、その……詩葉のことも好きなわけで……好きな人に妬いてもらえるというのは嬉しいな、と……」
「二股ですね?」
「大変申し訳ないけど否定出来ない……」
「ふふっ、でもしょうがないですよね? なんたって、私もお姉ちゃんもとっても可愛いですから! 好きになってしまって当然です!」
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