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うおうお村  作者: うおうお村 村長 ソラ
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第2話「発端」

ふと、目が覚めたんだ。

それも、パッチリと

開いた目の先に写っているのは…あぁ、なんだ、ただの天井か。どこかいつもよりも暗いような気もするが、まあいいか。

「あー…もう朝か…」

体をうんと伸ばす。すると、いつものようにコキコキと骨の音が鳴る。僕はこの音が鳴る時をいつもやめ時としている。伸ばした腕をだらりと下ろす。その時の何かから解放されたような感じがたまらないんだ。そうこうしている内に目と頭が冴えてくる訳で、その少し冴えた頭を使って、疑問に思ったことを考え出してみよう。

なぜ僕はふと目が覚めたんだ?

ところで…今何時だろうか…?時計を見てみよう

4時45分……?

あはは、驚かせるなよ…これじゃいつもよりも1時間早いじゃないか、あ、そうか、眼鏡かけてないや。眼鏡をかけて…よし、もう一度見てみよう。

…やっぱり4時45分だ…!

驚いたなぁ…いつも目覚めが悪い僕が、いつもよりも1時間早い時間に自然に目を覚ますとはね…あれ?そういえば目覚まし時計は鳴ったっけな…鳴ったわけないか、1時間も早いのだから。まあ、早い時からいつもやってる事が出来るわけだし、余った時間を何か有効活用できそうだから、良かったもんだなぁ。早起きは三文の徳とはよく言ったもんだ。


さて、少し驚いて目も覚めたわけだし、早いけど魚の餌をあげに行こう。もしかしたら、まだ魚こそ目覚めてないかもだが…あー、いや、魚には夜行性の奴もいるか…餌やる上では関係ないか。さあ、行こう。僕の魚たちが餌を待っている。

そう思ってベッドから腰を上げて立ち上がる。そして目に飛び込んできたのは…外の様子を映し出す窓。まだ五時頃だからいくら夏でも真っ暗だ。先に何も見えないくらいに。それを見るや否や、どうしたことか、夏なのに悪寒が背中を走る。何故だろうか…ま、まあ、まだ早朝だから、いくら夏でも寒いよな…そういえば足も冷たい。冷水にでもつかっているかのように冷たいな。仕方ないし、いつもなら履かないスリッパを履くことにしよう。


階段をゆっくりと上がって行くと階段がキシキシと音を立てる。魚を飼っているのは2階だ。スリッパのおかげで足が冷たくない。当たり前のような事だけど、かなり有難いことだなとしみじみ感じてしまう…ん?少し冷たい気がするな…というかなんか濡れてる感じがするな…スリッパを濡らすようなこと昨日したっけな。まあ、なんでもいいや。

そんなことを思っていたら2階に着いた。





…ん?あれ?おかしいな…僕、眼鏡かけてるよね?

顔を触る。もちろん、眼鏡の感触を感じた。

そして、今は現実の世界だよな?

頬をつねってみる。

痛い。

そうだよな…当たり前だよな…

とすると…今僕が見ているものは現実って訳なのか……??



笑いたい。

いっそ笑ってしまって全てを忘れたい。

昨日に戻りたい。

昨日に戻って現実を変えたい。

そして…


泣きたい、泣けるものなら

でも、泣けないのは何故か。単純だ。

それに先立つ物が多すぎたから。





ニジマスはいなくなっていたんだ。


ニジマスのいた水槽は床に転がり、水槽の中に入っていた水が床に広がっている。水の生臭い匂いがそこらじゅうに漂っている。その臭いが、鼻を強く刺激する。臭いだけなら、殺人現場に匹敵すると僕には思える。そして、僕には今目の前で起こっている事が、もはや殺人事件と同等のことだと思われたんだ。



他の雑念が一切なくなる。


今僕の中にあるのは…

一瞬の驚愕

続けて襲う絶望

そして不安

だけなんだ

不思議と悲しさは感じない、というより、感じる余裕が無い。



時が、止まった気がした。そして、止まった時の中で、まるで走馬灯のように、ニジマスと僕の思い出が湧き出てくる。

父さんと初めてニジマスを釣った事…毎日ニジマスに餌をあげた事…ニジマスが卵を産んだ事…飼っていたニジマスが死んでしまった事…そして、このうおうお村でまたニジマスを釣ることが出来た事が、頭の中をぐるぐる回る。それ以外、何も頭の中にはなかったんだ。



僕は、しばらく放心してしまった。

まるで、空気が凍りついたかのように、一切身動ぎが出来ない。

息はしている。でも、生命活動以外は何一つとして行っていない。周りの魚すら止まって見える。時計もカチッカチッという音が聞こえない。目も耳も機能しなくなった気がしてしまう、いや、機能しなくなったと言うよりは、機能させるつもりも無い。使うつもりもないんだ。





気づけば、10分程経ったようだ。ようやく意識が戻る。ここで言う意識は、他の感情などを指す。魚も泳いでいる。時計の音も聞こえる。でも、何か大事な物がまだ欠けている気がした。

だから僕は、次の瞬間、僕は階段を飛び降り、ドアを開け放して…

走り出したんだ。



目的などない

意味もない

意思もない

あるのは、ニジマスがいなくなったという現実だけ


ただ、走りたい。

僕は多分いつも走る時の2倍ほどの速度で走った。もちろん、自我などない。我を忘れ、何が何だか分からなくなって走り続ける。土を一歩一歩力一杯に踏みつけるので、荒々しい足音が鳴る。息遣いが非常に荒々しい。体力はあまりない方なのに、止まらないと死んでしまいそうなのに止まらない上、死なないのは何故なのか?

知らない

分からない

どうでもいいんだ





やっと、息が完全に上がった。

心臓の心拍数が異常な程に上昇しているのは、医者ではない僕でもわかるくらいだった。これは、明らかに異常だな…。

それと同時に少しずつ頭が働いてくる。

あー、死にそう、倒れそう。というかもう死んでしまえる。いつもの3倍は走った気がするな…

足元がふらつくな…意識も朦朧としてきた…でも、先程まで欠けていたものが徐々に戻って来た気がする…

あー…ニジマスは…つまり…盗まれたって…ことか…あと、階段が濡れてたのって…水槽の水か…なるほど…道理で濡れた訳だな…そういえば…他に盗まれたものは…あっただろうか…?どうやって…ニジマスを盗んだんだ…

そう考えていると、ついに限界が来たようだ。

―プツン…

意識が無くなった。















あー…。意識が、戻ったようだな…一体どれほどの間気絶していたかな…ん?どこだここは?

僕の目の前には真っ暗な空間が広がっている。それと、もう1つ、僕の目を引くものがある。

す、水槽…どうして…こんな所に…?

そこには水槽がぽつんとあった。驚くべきなのは、それ以外に何も無いということだ。1寸先も闇なほど真っ暗な空間の中で、自分の正面に水槽がある事だけははっきり分かる。一体これはどういう事なんだ?どこだここは?

当たりを散策しようと思った…が、体がまるで動かない。もう訳が分からない。僕は訳の分からない所に連れてこられた上、この場所がどこなのかを散策することすら不可能なんだ。

と思っていると、とんでもないことが目の前で起きていることにようやく気がついたんだ。

あれ…?水槽、近づいてきてないか…?

目を擦って、もう一度見た。

あぁ…なんでだよ…なんで水槽がひとりでに動くんだよ…

水槽がこちらへと地面を這うように近づいてきていた。一見すると、滑稽に見えるかもしれない。でも、僕にとっては、とてつもなく恐ろしいことだと思われたんだ。

この場から逃げ出したい!こんな恐怖現象が起こっているこの場から今すぐ抜け出したい。体を動かそうとした。

ビクともしない。

それでも続ける。あらゆる体の部位を動かそうとしてみる。

動け…ああ!動いてくれよ!僕の体!

僕の願いは儚く、1寸も動くことがなかった。

そうこう奮闘しているうちに、もう一度目を前に向けると、水槽が目の前にあった。

叫んだ…つもりだったが、叫べない。なんでだ!?目の前に恐怖の物体があると言うのになぜ僕は何も叫べないんだ?

絶望の色が滲み始めていたその時だった。僕はようやくその水槽の中を見たんだ。

中には…





ニジマスが元気に泳いでいる。

しかも、それはまさしく僕の飼っていたニジマスだ。目の下のトレードマークがあるから、ほぼ断定できる。


ああ、なんだニジマスか…無事だったのか…良かった…

ほっと胸を撫で下ろす…ことは出来ないが、そんな気持ちに浸る。すると、体の緊張がほぐれ、体が動き出した。なんだ、緊張のせいだったのか、全く、驚かせんなよな…

落ち着いてもう一度水槽を眺めると、傍に餌が置かれていた。おお、なんかよく分からないけど、ニジマスに餌をあげるか…そういやあげてなかったしな…と思いながら、餌を手に取り、餌を水槽の中へと入れる。

すると…どういう訳か…


水が真っ赤に染った。


え!?と思うよりも先に、目の前が大きく歪み、天地が逆転しそうになる。目の前の水槽も形を大きく変わったように見え、もはやなんなのか分からない。

ああっ、頭が痛い…目眩がする…吐きそうだ…

と気を取られていると、気づいた時にはもう遅かった。

僕は手を水の中に入れてしまっていた。

気づいた瞬間、僕は水槽の中へと引きずり込まれる感覚を覚えたのだ。体が奇妙な程に曲がって、まるで水槽の中に渦巻きでもできたかのように体がどんどん飲み込まれていく。

「なんだ!!」

言い終わることも無く、体が完全に飲み込まれてしまう。恐怖心で目を閉じてしまった。もちろん、目の前は真っ暗だ。でも、周りではずっと水が荒れ狂う音がしている。

何も見えない状態はやはり怖いと思って、目を開く。そこで、ようやく今僕が置かれている状態を目の当たりにしたんだ。

どうやら、僕は水中にいる。さらにどんどん底へと引きずり込まれているようだ。そして、水面からどんどん離れていっている。ああ!まずい!

勢いよく手を伸ばした。でも届きそうにない、もがいても浮上できそうにない、それよりも強い何かの力によって引きずり込まれる。

そして、今気づいたが…

息ができない。

「もがっ…ぐ…ゴボッ…」

息がもう持たない。前もって息を大きく吸っていた訳でもないのだから時間の問題だ。

ああ、もう手遅れだ…もう限界だな…

僕は、また、意識を失ってしまった。


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